洞窟と竜!(赤箱)
今回は、赤、青、緑の3分割です。
その日、波野の領地で麻雀に興じていた。
面子は、俺、佐野、波野、赤影さんの4人。
赤影さんは、いつもの通りの仮面姿。
彼はベータテスターで、佐野や波野とも顔見知りだ。
「リーチ!」
波野が、千点棒を場に出す。
捨て牌から見て、筒子の一色系のように見える。
「通るか?」赤影さんが切った牌は、二筒。
「通し」
「当たらなければどうということはない」
「これは安牌だろ」
佐野が北をツモ切りする。
「ロン!混一色、一通、一発 親っ跳 18000」
「こっちもだ。七対子、ドラ2、6400
戦いとは、常に二手三手先を読んで行うものだ」
佐野がやらかした。北は場に一枚も出て無いのにな。
こうして、東一局で佐野の持ち点がほぼ0になった。
いわゆる、「飛んだ」「ハコった」まであと一歩。
そのとき、激しい足音がして、波野の配下武将が駆け込んでくる。
通称「執事さん」。
波野手製の執事服を着させられているからだ。
「お館さま、領内の鉄鉱山で謎の横穴が発見されました!」
【緊急クエスト 『ダンジョンを探れ!』が発生しました。制限時間 6:00:00】
麻雀のためにPTを組んでいたので、俺たちにもシステムメッセージが見えた。
「おっしゃ!行こうぜ緊急クエスト」
佐野が、やけに乗り気で立ち上がる。
「ダンジョンとは、また燃える展開だな」
赤影さんが腕をさすりながら、にやりと笑う。
「でも、ダンジョンって何?」
波野は怪訝顔。
「行ってみりゃわかるだろ。10分で支度しな!」
もともと徹マンをするつもりで集まったメンバだ。
時間の余裕はたっぷりとある。
一旦領地に戻り、投網を準備。
弱体化されたといっても、俺のメイン武器であることに変わりはない。
波野に頼まれたので、もんぶらんや栗味噌も用意する。
クエストの制限時間は6時間。
長丁場が予想されるので、息抜き兼疲労回復用の食糧アイテムは不可欠だ。
甘い物だけでは飽きるので、しょっぱい物も用意しておく。
波野の領地に戻ると、既に皆は集まっていた。
俺と佐野、波野、赤影さん、そして波野の配下執事から、黒髪の前線型武力特化と、白髪の治療用知力特化。
これで6人のフルPTとなった。
■
問題の鉄鉱山は、波野の領地の山中にある。
鉄をよく使う生産系の豪族だと、NPCから買うよりも自分で鉄鉱山を開発し、施設「鉄工所」で精錬したほうが効率がいい。
豪族の領地は、多少は違えど、大まかな立地は同じ。
山に囲まれた盆地に、館と城下町がある。
平安京と似たような構造で、内裏にあたる部分が少し高まった丘になっており、
そこに領主館がある。
城下町は、領主館の南に広がる。
鴨川にあたる部分には川が流れ、川魚が棲息し、釣りもできる。
そして、フリーエリアに繋がる広めの道が山あいを抜けて一本伸びている。
それだけの、ド田舎の領地だ。
山中に行くには、狩人が通るような狭い道を行軍するほかない。
波野の領地では、鉄鉱山までの道は鉄鉱の運搬経路として地ならしができていた。
そのおかげで、比較的楽に辿り着くことができた。
鉱山入口は木組みで補強されており、幅は2mほど。人が3人並ぶと狭いくらいだ。
波野の執事に案内されながら、中へ足を踏み入れる。
鉱山の奥から湿ったかび臭い風が吹き出してくる。
松明を点けて薄暗い中をしばらく進む。
所々に木組みの補強があるが、それ以外は土壁が広がっている。
「こちらです」
5分ほど歩いた頃、壁に空いた穴を見つけた。
黒髪執事が手に持った松明を近づける。
穴の中は、石造りの壁に囲まれた通路が広がっていた。
花崗岩のような色合いの石が隙間なくぎっしりと組み合わさっている。
足元に石が転がっているのは穴が空いた部分の石だろう。
明らかに、人の手が入った建造物だ。
「何?これ……」波野が絶句する。
「バージョンアップで追加された、新エリアだろう」
赤影さんが穴を指差す。穴の向こうの景色は時折ふよふよと揺らいでいる。
エリア境界にありがちな現象だ。
「赤影さん、鍵開けとかできますか?」
ダンジョン探索なら屋内行動用のスキルが必要になる。
「ふっ。影に任せろ」
隊列を整える。
2列縦隊で、佐野と赤影さん、俺と白髪執事、波野と黒髪執事の順番。
波野は火縄銃でなく、弓矢を持っている。
そして、俺たちは穴に飛び込んだ。
■
浮遊感と共に、石造りのダンジョンエリアに転送された。
等間隔で松明が壁に並び、暗さは感じない。
さっきの鉱山の方がはるかに暗い。
背後には「穴」があるので、いつでも鉱山に戻れそうだ。
通路は左右に伸びている。左に行けば地表の方角。
「右かな」佐野の意見に皆の異論は無い。
ゆっくりと右側の道を進む。
一本道ではあるが、道は何度か左右に曲がりくねっている。
「待て」
5分ほど進んだとき、赤影さんが皆に静止を促す。
前方には、右に曲がる曲がり角がある。
耳を澄ませると、曲がり角の先から、
ぺた、ぺた、という獣のような足音が聞こえてきた。
息を凝らして、それが現れるのを待つ。
曲がり角を曲がって、俺たちの目の前に現れたのは、人間の顔を持った犬。
いわゆる、人面犬だった。
「なん『また、てめぇか!』」
佐野が人面犬をセリフの途中で両断。
人面犬は光の粒となって、消滅していった。
人面犬は、人魚(仮)と同じ顔だった。佐野の気持ちは痛いほどよくわかる。
「なに、あれ?」波野が呆然としている。
だが、経過はどうあれ、初戦で敵を一刀両断した安心感は大きい。
「あまり敵は強くなさそうだな。どんどん進むか」
赤影さんの声にもほっとしたような響きがある。
さらに進むと、両面開きの扉に突き当たった。
「ちょっと待ってろ」
赤影さんが扉を調べ始める。罠や鍵の有無を調べているのだろう。
ゲームではよくある光景だが、待ってる方は暇。
「罠は無いし、鍵もかかっていない。開けるぞ」
扉は、キィィと少し軋みながら開く。
扉の先は、通路と同じ、石作りの大きめの部屋。
4体のふよふよ浮いている提灯が居た。
提灯お化け ってやつだ。
「よし、行くぞ!」赤影さんの号令で、俺たちは戦闘に入る。
佐野と赤影さん、黒髪執事が提灯に突っ込んでいく。
波野の弓で手近な1匹が地に落ち、黒髪執事がトドメを刺す。
佐野は、提灯の攻撃をひらりとかわすと、返す刀で両断する。
残った提灯2匹は、赤影さんに体当たりをするが簡単に回避される。
そして2匹とも苦無で地面に縫い付けられ、佐野がとどめを刺した。
【おめでとうございます 第1階層クリアです】
部屋の真ん中に、これ見よがしな赤い宝箱。
そして奥に下へと向かう階段。まだ、先は長そうだ。
箱を開けると、出てきたのは「ロングボウ+1」という名前の業物の弓。
技術+1の性能がついている、ランク1の業物だ。
売ってもどうせ銀貨1000枚程度。
平安京に行けば、露店でいくらでも見ることが出来る。
此処にいるのは、既に何か月もプレイしてきたベテラン達。
ランク1程度の業物ならありがたみは感じない。
とりあえず、波野が予備として持つことになった。
「これ、もしかして、階層ごとに業物ランク上がるのかな」
波野が何気なく言った言葉が、俺たちに火をつけた。
次回「洞窟と竜!(青箱)」
この洞窟は、何のため?




