晴れ、時々ねこ。
東日本の周回が終わり、なつかしの領地に戻った頃。
予定より少し遅れて、大規模バージョンアップが行われた。
・8*8マスへの拡張解放及び、拡張解放クエストの実装
・大砲の実装
・各種のバランス調整(投網弱体化含む)
・合戦の5段階ランク分け
ランクごとに投入可能兵士数の上限設定
・スキル、クエスト、アイテム、レシピの追加
・一部のアイテムの店売り価格変更
大砲は実装されても、スキル『大砲取扱』がまだ実装されていないので、豪族は大砲を作ることも使うこともできない。
そして、そろそろ、豪族が確保している兵士数が増加してきた。
我が佐久間領でも、旅先での『勧誘』成果もあって、兵士数は700を超える。
軍事特化の先駆プレイヤでは、既に数千の兵士を動かせる。
彼らが合戦に全戦力を投入すると、単独で勝敗を左右する。
そのため、運営は合戦をランク分けし、兵士数に制限をかけることにしたのだ。
さらに大規模合戦用に特設サーバを用意した というのだから豪儀な話だ。
他にも、MMOにありがちなBOT対策、アカウントBANも行われた。
野兎をえんえん狩っていたBOTは一掃されていた。
このゲームでのプレイヤ内流通貨幣は、銀が用いられる。
クエストでNPCから貰える報酬も、店売り対価も銀で支払われる。
「銀」は、プレイヤ間でのアイテム流通や、NPC店舗での買い物(スキル含む)以外には使えない。
個人向けアイテムの花形は「業物」だが、能力ボーナスは最大ランクの業物1個しか有効にならない。
市場に出回るのはせいぜい+5までなので、合戦では誤差範囲。
SLG部分は、「銀」ではなく、商店系施設から納税される「銭」で動いている。
そのため、もともとBOTは少なかったが、今回でほぼ一掃されたようだ。
■
改めて、我が佐久間家を見てみる。
現在、配下武将は、現役7人+隠居2人。
現役武将の内訳は、武力戦闘型が元太と中原。
知力・内政型が相馬、阿部。
汎用型として元山賊の八野と忍者の健太郎。
源三は、スキル『山師』人材なので別枠。
バランスが取れているように見えるが、
今後の8*8マス拡張や、その後の大合戦まで考えると、人数が心もとない。
合戦では、武将3人で率いる「部隊」を10個まで作り行動させることが出来る。
最大で29人の配下武将を参加させることができる計算だ。
1つの部隊が統率できる兵士数は、率いる武将の能力値や官位に依存する。
今の段階で、一般的な豪族が直接統率できる兵数は、1000程度というところだ。
数千の兵士を合戦に投入するには、配下武将に別部隊を作らせるしかない。
今後の事を考えるに、相馬ほどとはいえなくとも別部隊用の軍師役が欲しい。
知力高めの武将が部隊にいないと、虚報等の計略一発で部隊が壊滅してしまう。
もちろん、領地発展の事を考えると政治役も欲しいし、戦闘型も欲しい。
ネタとして二番煎じだが、「武将探索」を再度命じてみることにした。
だが、勝算が無いわけではない。
俺は、あの時とは違う!
「官位」が上がった。
そのきっかけは、そのちゃんの親父殿、野々宮家当主定正殿が領地を訪れたことに始まる。
■
「佐久間殿、久しいな」
野々宮定正は、公家ならではの、ゆったりとした仕草で話し始める。
「お久しぶりです。このような僻地へお運びとは、何か御座いましたか?」
「ふむ。娘の近況を見に来た。というところだ。
もんぶらんは、主上に好評だぞ。そういえば、最近内膳の官位が空位であったな。
ところで、朝廷は、最近手元不如意でな……」
俺の官位は織部(衣服系統)だったが、内膳(食物系統)に変えてくれるのか。
もんぶらんとか、栗ようかんとかを扱ってるから、そっちの方がありがたい。
【銭20000 特産品100 を献上しますか?】
システムメッセージが流れる。
うちの領地開発は商業に偏った施設構成だ。
商業支援系施設の最上級、歌舞伎町の存在に加え、
栗林の栗を食用でなく、加工販売しているからだ。
その上、兵士調達が銭を消費する「募兵」コマンドでなく、『勧誘』ばかりだったので、銭にかなりの余裕がある。
迷わず、「はい」を選択。
「おぉ、流石は我が婿殿じゃ。天上に良き土産話ができる」
そう言って、野々宮定正は平安京に帰って行った。
【正六位上 内膳正に任命されました】
【スキルガチャ券を手に入れました】
個人的には、伊賀守とか、上総介とか地名系の方が格好いいんだけどな。
■
官位が上がれば、「武将探索」で良い武将が見つけやすくなる。
政治特化なら人材が向こうから出てくるらしいが、俺は魅力特化なので、待っていても誰も来ない。
自分や配下武将の足で稼ぐしか無い。
源三と阿部を除く現役配下武将全員に「武将探索」を指示。
自分自身も領地を歩く。
久々の自領散策。
ゲームを始めた時よりも、大幅に城下町が広くなっている。
「お館さま~ご機嫌いかがですかい?」
昔、大根を貰った百姓に出会った。
彼は、複数の配下に指示しながら、広大な上質田の刈り入れ中。
彼らの足元は金色の稲穂がびっしりと埋め尽くし、別世界のようだ。
最初に会った時、彼は石ころだらけの土地の片隅で、小さな大根畑を耕していた。
その後、灌漑が行われ、土地の半ばを田んぼへと変えることができた。
さらに農耕技術の進歩で、土地の全てが正方形に区画整理された上質田となった。
上質田の食糧生産量は、畑の2倍に相当する。
さらに、水車による支援効果の上乗せもあるので、実質は3倍近い。
彼に人を雇えるだけの余裕が出来てきたのだろうな。
「おう、豊作そうで何よりだな。また、大根くれないか?」
「へへ~っ、お館様。すいませんが、今は大根は作ってねぇんですよ。
その代わりといっちゃなんだが、俺が釣ったこれ、どうです?」
わざとらしく平伏した彼が、大きなニジマスの干物が何枚もぶら下がった荒縄を持ってきた。
以前、こいつの大根のおかげで、相馬を登用できた。
ゲンが良いから欲しかったんだが、ニジマスの干物でかんべんしてやるか。
【食糧+3】
「ありがとよ~」手を振って彼と別れる。
魅力が高いと、カツアゲしても民忠が減らないのは良いな。
「お館さま、悪いんですが、腰痛に効く薬草をお願いできんもんですかのう」
何度目になるかもう覚えていないが、爺さんから薬草採取のクエストを受けた。
馬を使って、山に行ってみる。
以前よりもかなり奥の方に山賊が10人、森の中で寛いでいるのを見つけた。
八野や健太郎が警邏しているから、町のそばには近づけないのだろう。
懐かしいな。初回と同じ人数だ。
昔は、勝てない と諦めた。
だが、今は一人で茂みから出ていき、山賊たちの前に無造作に姿をさらす。
「何だお前!」「やっちまえ!」
口々に俺を罵りながら、武器を手に取る山賊。
「まぁ、落ちつけよ」
スキル『勧誘』使用。官位効果、領地効果も加算され、
山賊8人が裏切って配下の兵士になった。
半壊ルールにより、残った山賊は逃げ出す。
能力値はほとんど変わっていないが、いろいろなスキルを得たため、
昔より出来ることが増えている。
兵士を解散させ、薬草を収集しようとした時。
何処からか、声が聞えた。
「なんかうるさいな~と思ったら、ご領主さまじゃないかぁ」
「誰だ?」
『逃げ足』のガイドカーソルは点灯していない。
危険は無いはずだが、見回しても声の主が見つからない。
「何処みてるんだぁ。こっちこっち」
声と一緒に、かりかりと何かをひっかくような音が木の上から降ってきた。
あわてて上を見ると、そこには木の枝でくつろぐ、一匹の三毛猫が居た。
三毛猫はひらりと木の枝から降りると、俺の方に近寄ってきて、
俺の周りをぐるぐる回りながら鼻をひくつかせる。
俺は犬派だ。猫なんて、猫なんて、可愛くないんだからね!
「なぁ、領主さま。もしかして、アレもってないかぁ?ニジマスの干物」
「持ってるぞ。やろうか?」
アイテム袋から、干物を取りだして三毛猫に見せる。
「おぉ!合格じゃぁ。ところで、いくつくれる?」
百姓から貰った干物は3枚。
「3枚全部やるよ」
「よくぞ言った、領主どの」
【三毛村猫太夫が配下になりました】
「そうじゃ~、そうじゃ~。
古来から、優れた配下を集めるには、領主自ら三個の礼と決まっておるぅ~」
うまそうに干物を頬張りながら、三毛村さんは嬉しそうに言った。
以前から情報板で「領地でしゃべる動物に出会った」という話は結構出ていた。
動物の種類は、犬猫猿鳥雉象など、多岐にわたっている。
だから、猫がしゃべった時も、実はそれほど驚きはしなかった。
そもそも、佐野の領地で、人魚(仮)を見てるから免疫ができていたのだと思う。
後で検索して解ったことだが、「しゃべる動物を配下武将にした」という話は、既に数件の情報があがっていた。
「しゃべる猿に、バナナを与えたら配下武将になった」という書き込みは、
「秀吉か!」「織田家万歳」の総突っ込みで一瞬にして流れ、
「しゃべる犬に、きび団子を与えたら配下武将になった」という書き込みは、
「桃太郎乙」「鬼退治マダ~」で叩かれている始末。
だから、あまり目にしなかったんだな。
これは、書きにくい。
「しゃべる猫に、ニジマスの干物を与えたら配下になった」
「サザエさんキタ~」
「そうか、今日は日曜日か」
「お魚くわえた~~」
誰か、信じろよ……
次回「猫と嫁!」
今後に向けて、配下武将を増やします。




