忍者戦争!
上野国をこえて、越後に入った。
越後には、戦国最強と名高い武将がいる。
上杉輝虎、後に謙信。越後の竜。戦国最高の戦略家。
武田信玄のライバルであり、川中島合戦として何度も戦っている。
この時代、上杉領は東西にかなり広い。
日本中部地域の日本海側を軒並み制覇。
関東管領でもあるため、関東地方に兵を出し北条家とも戦っている。
一向一揆さえ無ければ、戦国の覇者だったのだろう。
このまま、上杉勢力圏を日本海沿いに南下してから、
飛騨を抜けて美濃に帰る予定。
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越後は、現在で言うところの新潟県にあたる。
特産品は、米。名物は、米から産まれた笹団子。
そして、タレかつ丼。
ちょっと肌寒い季節になってきたが、腹が膨れると寒さも吹っ飛ぶ。
自分では気がついていなかったのだが、
上杉領内では、NPCから興味を持たれていることを思い知らされた。
「あの~、すみません。
放火魔の佐久間さま ですよね?」
道を歩いていると、地味な百姓風の男が話しかけて来る。
「あ、あぁ、そうだけど?」
「俺、野木猿の助っていうんですけど、
甲府を火の海にするなんて、マジパネェっす!
今度、焼き討ちのやりかた教えて下さいよ」
「あ、あれは、信玄の本拠地で大爆発させた佐久間様
あたし、くのと言います。握手してください!」
おまえら、絶対忍者だよな。
越後から越中と、上杉領内を通過中に何度も似たような事があった。
上杉配下の軒猿は武闘派のイメージがあったけど、
きさくに話しかけてくる人が多い。
そのおかげなのか、越後、越中の上杉領内ではアクシデントに会わず、
無事通過した。
■
飛騨に入ったところで、ひとやすみ。
「父上、越後でも越中でも、野木さんって良い人が多いですね」
元太は、飛騨の美味いものマップを確認しながらほくほく顔。
さっき出会った、野木猿ノ進さんにもらった飛騨の観光地図だ。
「甘味はココ」「肉がうまい!」など、ところどころに印がついている。
「お館さま、もしかして誘導されました?」
「むむむ。そうかもしれん」
越後にしろ、越中にしろ、城下町や村に入ると、さりげなく(?)野木さんがやってきて、案内をしてくれた。
それが、絶妙に上手い。
越後のたれカツ丼をはじめとして、鱒寿司に薬売り由来の薬膳料理。
そして、笹団子等の甘味、温泉、酒に絶景巡り。
歌に詠まれた大伴家持ゆかりの風景はスキル『教養』を持つ相馬が大感激。
元太は初日から胃袋をガッチリ掴まれて陥落。
俺たちに上杉領内で変な事をさせないために、軒猿がマンツーマンブロックを仕掛けてきたのだろう。
天下に名高い、上杉おもてなし武将隊のやることは一味違う。
恐るべし!軒猿の広報能力。うちも見習わねば。
飛騨は山がちの土地。
桜洞城という本城があり、三木(姉小路)氏が納めている。
本気で山がちの土地で、石高も兵数も、ネタも少ない。
ネタといえば、埋蔵金伝説があるくらいだ。
飛騨の有力武将、内ヶ島氏の居城である帰雲城が山崩れで城ごと埋没した。
飛騨の金山、銀山からのアガリが城にあったはずという伝説である。
埋没予想地域が非常に広く、しかも重機の入りにくい山中なので、
現代でも放置されている。
飛騨山中は馬では難しい所もあるので、馬は笛形態に戻し狭い山道を歩く。
俺は武力40超(一般人は10台)に加え、『強靭』(疲労ダメージ減少)という、このゲームの鉄板スキルを取っているので、リアルより遥かに持久力がある。
体力が無い相馬は、元太が背負って山越えをしている。
風は涼しいが、3人とも既に汗だくだ。
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結構な距離を歩くと、桜洞城の城下町、下呂が山あいから見えてきた。
温泉特有の白い湯気がたゆたっているのが遠目にもわかる。
今は、秋に入りつつある季節なので、紅色がちらほら。
あと1,2か月もしたら一面が赤や黄色に染まった絶景が期待できそうだ。
ここまでくれば、あとはもう下り坂だけ。
下呂についたら、温泉と飛騨牛のステーキを楽しもう。
VRは「材料費」をかけずに、味わいが楽しめるので、試食宣伝には持って来いだ。
結構な数の観光協会や企業が、スポンサーとして全国から参加し、自慢のメニューを出店している。
ゲーム的には城下町まで行けば、飛騨国への転移条件を満たす。
だから、ここまで頑張って歩いてきた。
だが、帰りは、転移で自分の領地に帰還するぞ。山道はもう飽きた。
元太が一息ついているのを横目に見ながら、竹の水筒から一口飲んだ瞬間。
何処からか放たれた、3本の手裏剣が足元に突き刺さる!
「飛騨には、指一本触れさせん!にっくき、鷹目教の手先め」
現れたのは、顔に赤い仮面をつけ七三分けで忍者装束に身を包んだ忍者?。
配下武将として、少年忍者と初老の忍者を引き連れている。
「何かの間違いだと思います」
目をそらしながら答える。こういう手合いには、関わらないのに限る。
「な、何者だ!名を名乗れ!」
元太さぁ、今度『スルー』スキルを取ろうな。
「俺は、飛騨の赤影」「おいらは青影」「白影」
忍者3人衆がうれしそうに答えてくれた。
「甲府にたたりを起こした鷹目教の七人衆と見た。
見せて貰おうか、鷹目教七人衆の腕を」
【PvPが申請されました 『はい』『いいえ』】
合戦を除き、PvPは申請制。いきなり襲うことは出来ない。
もちろん、いいえを選択。
「おいおい、ここは、はいにしてくれないと、話が進まないだろ?」
あわてる赤影。
「だって、鷹目教なんて知らないですよ?」
「そうなの?だって、甲府の放火魔って称号だろ」
既に鷹目の名前は情報版で有名だ。憧れと呆れが半々を占める。
「甲府で忍者クエストが出たので、「狙撃手募集」と募集をかけたら、
『たまたま』鷹目さんが来て、大惨事に巻き込まれました」
忍者クエストでは、狙撃手の有無で成功確率が大きく変わる。
狙撃手募集は日常茶飯事。おかしな話では無い。
「認めたくないものだな、自分自身の若さ故の過ちというものを」
「それより、もしかして、佐野ってご存知じゃ無いですか?」
「あれ?佐野くんを知ってるのか?」
「ええ、リアルフレです」
以前、佐野から聞いたことがあった。
ベータテスト時代に、佐野が入っていた連盟の副頭領で、
いつもマスクをかぶった、赤くて痛い人が居た事を。
誤解は解けたが、いろいろと大変だな、赤い人は。
俺は赤影さんとフレになった。
決して、仮面を外さないところが気になる。
こうして、俺の東日本の周遊は終わった。
思い返してみると、尾張、三河、遠江、駿河、甲斐、相模、上野、越後、越中、飛騨、10か国も回ったことになる。
心残りと言えば、甲府で鳥もつ煮が食べられなかったこと。
大規模バージョンアップがもうすぐ始まる。
8*8マスへの拡張を目玉に、いくつもの更新があるはずだ。
わくわくしながら、ログアウトした。
次回は新章
「晴れ、時々ねこ。」




