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コウ・フィナーレ!

遠江を経由し、駿河の国に入った。

このあたりの地域は、かなり荒み始めている。


桶狭間から数年が経過し、今川家では家臣の離反や内乱が激しくなっている頃だ。

今川家の終焉も近い。それを旅しながら、ひしひしと感じた。

尾張で見た、お祭り騒ぎのようなど派手な活気、

三河の、派手ではないが、どっしりと根の張った生気。

今川館、後の駿府城の城下町は、そういった命の張りを感じない。

まるで湯気に包まれたような、うすら惚けたような町だ。


「ここは通過して、甲斐に行くぞ」

「承知」「それがいいですね」

長居をしてまた地雷コネが出来てしまうと困る。

弁当だけ買って、さっさと甲斐へと抜けた。


初めて見る、甲斐の国。

このゲームの隠語に「虎武将」「虎大名」というものがある。

能力値合計が400を超えるような、強力なチート武将の事だ。

彼らはまず間違いなく、NHKの大河ドラマで冠番組の経験がある。

「大河武将」>「タイガー武将」>「虎武将」というわけだ。


この国には、虎も虎。虎の筆頭、武田信玄公が居る。

一歩足を踏み入れた瞬間、風の匂いからして、駿河とは違う。

そして、街道が「風林火山」だった。

誰がやったのかしらないけど、街道脇におよそ100m刻みで、

「故」「其」「疾」「如」「風」と、孫子の兵法書の語句を

1字ごとに書いた立て札がえんえんと続いている。

道に迷わなくていいね。

「日常にまで兵法を取り入れるとは、流石は甲斐の虎」

たぶん、やったのはどこかの豪族(ぷれいや)だと思うぞ、相馬。


甲府。躑躅ヶ崎館の城下町。

平安京を真似た、南北に幹線道路の通る碁盤目状の都市。

早くから城下町化が進み、建物は綺麗に区分分けされている。

街ゆく人たちはきびきびとした動作で無駄が無い。

領地の隅々まで規律が息づき、そして領民がそれを苦にしていない。

「軍事国家」というものの、完成形のひとつなんだろうな。


平安京ほどではないが、豪族(プレイヤ)で賑わっている。

毎月18日は「川中島合戦の日」と決まっている。

みんな、明後日の合戦に向けて下見にきているのだろう。

混まないうちに、早めに宿を取ってひとやすみするか。

「よう、佐久間殿」

「あ、ほえもんさん」

ほえもんさんが、いつもの着流しで甲府を歩いていた。

「佐久間殿は、どうして甲府に?」

「各地の大名相手に外交しようと思って、いろいろ回ってるんですよ」

すでに、2カ国も重要人物とのコネを獲得した。

「おおぅ、さすがだねぇ」

「ほえもんさんは?」

「新陰流の上泉伊勢守に会いに来たんだ。

史実だとそろそろ諸国漫遊に行っちゃうはずだから、いまのうちにね」


上泉伊勢守は、甲斐の国の隣、上野国で長野氏に仕える武将の一人。

彼の名は「武将」ではなく「剣豪」として名高い。

この野望シリーズで、1,2を争う個人戦闘能力の持ち主。

剣術の新陰流開祖 と言ったほうがわかりやすいかもしれない。


その時、独特のSE音と共に、システムメッセージが流れた。

【緊急クエスト 『軒猿を倒せ!』が発生しました。制限時間 15:00(0/10)】

「ほえもんさん、忍者クエスト出た!手空いてませんか?」

「お、空いてるぞ。やろうやろう」


緊急クエストの中でも、忍者クエストと言われるものは有名な部類に入る。

各国の本城城下町で時折発生するこのクエストは、町の各所に隠れている忍者を見つけ出し、彼らを撃破するのが目的だ。

「ウォーリーを探せ」なのだが、この忍者、黒づくめのわかりやすい恰好なので見つけやすい。

戦闘力は皆無だが、すぐ逃げてすばしっこい というのが取り柄だ。

ほえもんさんや配下武将と手分けをして、甲府の街に散開する。

時折、システムメッセージで撃破報告が上がってくる。


走り回っていたら、両手に団子を持った鷹目に出会った。

「あれ、佐久間~、何してんの?」

「鷹目、ちょうど良かった。忍者クエストしてるんだ。手を貸してくれ」

「いいよ」

狙撃手というのは、このクエストと相性が良い。

狙撃ゾーンを設定し、他のメンバが軒猿をそこに追い込めば良いからだ。

早速鷹目とPTを組む。

鷹目は銃に弾を装填すると、無造作に背後に向かって銃を撃つ。

「はい、ひとり~」

道の向こう側にある商店の看板から、黒ずくめの軒猿が落ちてきた。

【あと7人です (3/10)】


鷹目の参入により、効率的に軒猿を処理することが出来るようになった。

彼女が市街地の中心部に位置し、他のメンバが連絡を取りながら外周側から追い込んでいく。

少しづつ軒猿を撃破し、残りは最後の一人になった。時間はあと5分。


最後の軒猿は、建物の屋根を身軽に飛び移りながらどんどん逃げていく。

50m、100m、150m、もう銃の射程距離を超えている。

「任せなさい!

こんなときの為に、波野さんに作ってもらった、これの出番!」

鷹目は、何処からかフランキー砲、通称『国崩』を取り出すと、発射準備を進める。

「やめろ~~~~!!」

ほえもんさんが絶叫する。俺は、必死になって逃げ出す。

だが、時すでに遅く。

「いっけぇ~~~~!」

鷹目がフランキー砲の引き金を引くと、地面を揺るがす轟音と共に周囲一帯は火の海と化した。


銃器アイテムには「暴発率」という数値がある。

一般的な火縄銃で1%程度。銃器で射撃を行うとこの確率で「暴発」が発生する。

暴発させると、銃器は破損、本人もダメージを受ける。

定期的な整備をおろそかにしたり、強薬を使用してダメージや射程距離を増やそうとすると数値が悪化する。

しかし、業物の銃器だと暴発率はマイナスになるし、スキル『暴発防止』によってさらに低下させることができる。

よほどの無茶をしない限り、暴発が発生することは無い。

逆に言えば、よほどの無茶をすると暴発が発生するということだ。

ちなみに、現在の「俺様の野望」で、大砲は未実装である。

鷹目のアレは、外見は大砲でも、内実は火薬を大量にぶっこんだ、どデカイ火縄銃に過ぎない。

当然のごとく、暴発率は100%を超えていたはずだ。


甲府の市街地で炸裂した暴発は、碁盤目状の路に沿って町の縦横10マスを業火の色に染め上げた。

非戦闘区域であるし、PvPモードではないので、火炎は周りの施設や豪族(プレイヤ)、一般NPCにダメージを与えることはなく、ゲーム上の単なる演出にすぎない。

唯一の例外が、自分自身及び同一PTメンバに対して発生する友軍攻撃(フレンドリファイア)

俺は痛みを感じる間もなく消し炭となり、配下共々領地へと自動撤退した。

大惨事を目撃した豪族(プレイヤ)たちは、口をそろえてこういった。

「ボンバーマン!」と。

そしてこの事件は「第一次ボンバーマンの変」として語り継がれる。


俺は、領地でため息をつく。

「わけがわからないよ」

【緊急クエスト 『軒猿を倒せ!』失敗。(9/10) 時間切れ】


■ ■ ■

【運営からのお知らせ】

【本日の緊急メンテナンスで、一部アイテムの見直しを行いました】

【最大ダメージ及び効果範囲に上限をつけさせて頂きました】

【ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません】

次に訪れたのは小田原城。

天下の巨城で出会うのは?

次回「小田原、くらくら!」

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