表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/125

スリー・リバース!

いやぁ、困った困った。

何が困ったって?

お供の元太と相馬が二日酔いで、げろげーろしてるからだ。

全く旅ががはかどらない。


昨日は、木下家で派手に飲んでからログアウトした。

「酒」というか、アルコールはプレイヤには影響を与えない、フレーバー的なものに過ぎない。

だが、AI制御のNPCはきっちり酔う。

元太と相馬は、俺が不在(ログアウト)中も、飲まされていたらしい。

「今孔明!」とか「古今無双の豪の者」とか言われて調子に乗ったんだろうな。


尾張の国を出立し、三河の国に入る。

そして、なんとか本城の岡崎城の城下町まで辿り着いた。

商店施設の一角にある旅籠で部屋を取る。

宿泊費用は、一泊二食付で一人銀10枚。全国統一されたお値段だ。

ちなみに、いわゆる「銀稼ぎPT」で、時給にして銀5百から1千枚が稼げる。

主に日別クエストのクリア報酬なので、10時間やったから1万枚というわけではないが、

旅籠費用程度は大した負担にならない。


元太と相馬は旅籠に入ると、しばらくは厠と部屋を往復する人生を過ごしていたが、

そのうち静かになった。

三河の国。岡崎城は、松平(徳川)家康公の領地。

こないだ、佐野が合戦で手柄をたてて、本多忠勝とコネが出来たと喜んでいた。

なんといっても、戦国時代を勝ち抜いたのは、徳川家だから、

俺もここいらで徳川家とコネを結んでおきたいわけよ。

ここでうまく売り込んでおけば「なんかのはずみ」でゲーム世界に飛ばされても、

そのちゃんとうきうき生活が保障されるからね。


二匹目のどじょうを狙って、岡崎の城下町を歩く。

しかし、尾張とくらべると、いっちゃ悪いが田舎くさいな。

ブラウザを立ち上げ、「三河 名産」でぐぐってみる。

尾張名産だと「味噌カツ」が引っ掛かってきたので、清州城下の味噌カツ店で

いくばくかの銀を出して味わってきた。

広告のスポンサーサイトだから「気にしてはいけない」

結構美味しかった。リアルで名古屋に行く機会があったら、味噌カツ食べに行こう。


三河は…………自然にあふれた素晴らしい土地だ。

思っていたより何も無く、やることも無いので、やっぱり泊まらずに次の国に向かうことにした。

あんまり途中で時間をかけすぎると、北国は雪が降って行けなくなるからな。


「お館さま……、俺はここまでのようです」

「相馬、諦めるのか」

「どうしろって言うんですか。切り捨てていって下さいよ、頼むから」

「わかった。先に行く。置いて行くから、追いついてこい」

二日酔いくらいで煩いやつだな。馬呼笛は渡してあるから、追いついてくるだろ。

相馬を置いて、青い顔をした元太と先に進む。



この辺で一休みするか。

岡崎城から、馬で20分くらい進んだあたり。徒歩なら小一時間はかかる距離。

小さな村が遠目に見えるところで、小休止することにした。

さすがに、村のなかに連れて行くのは気が引けるので無し。

元太、馬上で結構吐いてたもんな。

休憩を告げると、元太は荒い息のまま、草むらに横たわった。

何処かから、水の音が聞こえてくる。

「元太、ちょっと待ってろよ。水汲んできてやるから」


水音を探して、道から外れる。

気を付けながらちょっとした崖を下ると川を見つけた。

竹の水筒に水を浸し、ついでに手拭いを水につける。

VRは冷たさも感じる。気持ちいいな。

「おじさん、何やってんの?」

6,7歳くらいのガキ数人が河原に居た。おじさんときたかぁ。

ちょっと「教育」しとかないとな。


『投網』!

「うわぁぁん」「やめろ!」「助けてぇ」

一網打尽だ。最近、投網してなかった。スカっと爽快。

「お兄さん、ちょ~っと手が滑っちゃった。ごめんな」

網から出してやってから、お詫びに栗ようかんをあげて手懐ける。

「たけちゃん」と呼ばれているガキがボスのようだ。

「お前、名前は?」

「たけ……たけぞう」

「ふ~ん。たけぞう、上の道に戻りたいんだけどさ、どうやって行けばいい?」

今は相馬が居ないのでステータスが見えないが、目鼻立ちの整ったガキNPCだ。

投網されたときも、子分たちを後ろにして守ろうとしていた。見所があるぞ。

子供たちに先導されて道に登り、元太のところへ戻る。


「どうしたの?この、おじ…お兄さん」

「酒の飲みすぎ ってやつだよ。気にするな」

「それなら、いい薬草があるよ。

大人が、酒を飲みすぎた時によく使ってるやつ」

たけぞうが、腰にぶら下げたいくつかの袋の中から、ひとつの袋を渡してくれた。

袋を開けると、乾燥した薬草が入っており、少し苦みのある匂いがする。

元太に薬草を含ませると、少しずつ顔色がよくなってきた。


「たけぞう、お前、見どころがあるぞ。よかったら、俺の配下にならないか?

俺は、佐久間っていうんだ。西のほうに領地を持ってる豪族だ」

「う~ん、うれしいけど、親父が困るからやめとくよ。

なんかあったら、行くかもしれないけど、その時はよろしくね」

「あぁ、わかった」

今は戦国時代。

たけぞうも、いつ戦争で親を亡くし、孤児になるかもしれない身の上だ。

あいつが頼ってきたら、力になってやるか。

岡崎城の方へ帰っていく彼らを見送ってから、水筒の水を口に含む。

ちろりん とコネが出来た時に鳴るいつもの電子音が流れた。



【松平信康とコネができました 武力+1】


思わず、口に含んだ水を吹きだす。

え!?たけちゃんって、まさか竹千代?ちょっとこれマズイよ。

彼の言葉が、やけにリアリティを帯びて感じる。


史実では、松平信康は武田家との内通の疑惑をかけられ、

20歳の若さで切腹した、悲劇の貴公子。

若いころから勇猛果敢で、数多くの戦功を挙げたという。

関ヶ原の戦いでは「信康が生きてたらなぁ」と家康がグチったほどの、出来た嫡男だ。


なんかあったら、って絶対、切腹イベントだろ?

「イベント起きたら助けにいかないといけないのかな……」

三河の空は青く、遠くまで広がっていた。


『メーデーメーデー。地雷フラグを踏んだ。繰り返す。

地雷フラグを踏んだ。至急、爆弾処理班頼む』

甲斐の国、信玄の町、甲府。

その街が火の海に沈む。

次回「コウ・フィナーレ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ