スリー・リバース!
いやぁ、困った困った。
何が困ったって?
お供の元太と相馬が二日酔いで、げろげーろしてるからだ。
全く旅ががはかどらない。
昨日は、木下家で派手に飲んでからログアウトした。
「酒」というか、アルコールはプレイヤには影響を与えない、フレーバー的なものに過ぎない。
だが、AI制御のNPCはきっちり酔う。
元太と相馬は、俺が不在中も、飲まされていたらしい。
「今孔明!」とか「古今無双の豪の者」とか言われて調子に乗ったんだろうな。
尾張の国を出立し、三河の国に入る。
そして、なんとか本城の岡崎城の城下町まで辿り着いた。
商店施設の一角にある旅籠で部屋を取る。
宿泊費用は、一泊二食付で一人銀10枚。全国統一されたお値段だ。
ちなみに、いわゆる「銀稼ぎPT」で、時給にして銀5百から1千枚が稼げる。
主に日別クエストのクリア報酬なので、10時間やったから1万枚というわけではないが、
旅籠費用程度は大した負担にならない。
元太と相馬は旅籠に入ると、しばらくは厠と部屋を往復する人生を過ごしていたが、
そのうち静かになった。
三河の国。岡崎城は、松平(徳川)家康公の領地。
こないだ、佐野が合戦で手柄をたてて、本多忠勝とコネが出来たと喜んでいた。
なんといっても、戦国時代を勝ち抜いたのは、徳川家だから、
俺もここいらで徳川家とコネを結んでおきたいわけよ。
ここでうまく売り込んでおけば「なんかのはずみ」でゲーム世界に飛ばされても、
そのちゃんとうきうき生活が保障されるからね。
二匹目のどじょうを狙って、岡崎の城下町を歩く。
しかし、尾張とくらべると、いっちゃ悪いが田舎くさいな。
ブラウザを立ち上げ、「三河 名産」でぐぐってみる。
尾張名産だと「味噌カツ」が引っ掛かってきたので、清州城下の味噌カツ店で
いくばくかの銀を出して味わってきた。
広告のスポンサーサイトだから「気にしてはいけない」
結構美味しかった。リアルで名古屋に行く機会があったら、味噌カツ食べに行こう。
三河は…………自然にあふれた素晴らしい土地だ。
思っていたより何も無く、やることも無いので、やっぱり泊まらずに次の国に向かうことにした。
あんまり途中で時間をかけすぎると、北国は雪が降って行けなくなるからな。
「お館さま……、俺はここまでのようです」
「相馬、諦めるのか」
「どうしろって言うんですか。切り捨てていって下さいよ、頼むから」
「わかった。先に行く。置いて行くから、追いついてこい」
二日酔いくらいで煩いやつだな。馬呼笛は渡してあるから、追いついてくるだろ。
相馬を置いて、青い顔をした元太と先に進む。
■
この辺で一休みするか。
岡崎城から、馬で20分くらい進んだあたり。徒歩なら小一時間はかかる距離。
小さな村が遠目に見えるところで、小休止することにした。
さすがに、村のなかに連れて行くのは気が引けるので無し。
元太、馬上で結構吐いてたもんな。
休憩を告げると、元太は荒い息のまま、草むらに横たわった。
何処かから、水の音が聞こえてくる。
「元太、ちょっと待ってろよ。水汲んできてやるから」
水音を探して、道から外れる。
気を付けながらちょっとした崖を下ると川を見つけた。
竹の水筒に水を浸し、ついでに手拭いを水につける。
VRは冷たさも感じる。気持ちいいな。
「おじさん、何やってんの?」
6,7歳くらいのガキ数人が河原に居た。おじさんときたかぁ。
ちょっと「教育」しとかないとな。
『投網』!
「うわぁぁん」「やめろ!」「助けてぇ」
一網打尽だ。最近、投網してなかった。スカっと爽快。
「お兄さん、ちょ~っと手が滑っちゃった。ごめんな」
網から出してやってから、お詫びに栗ようかんをあげて手懐ける。
「たけちゃん」と呼ばれているガキがボスのようだ。
「お前、名前は?」
「たけ……たけぞう」
「ふ~ん。たけぞう、上の道に戻りたいんだけどさ、どうやって行けばいい?」
今は相馬が居ないのでステータスが見えないが、目鼻立ちの整ったガキNPCだ。
投網されたときも、子分たちを後ろにして守ろうとしていた。見所があるぞ。
子供たちに先導されて道に登り、元太のところへ戻る。
「どうしたの?この、おじ…お兄さん」
「酒の飲みすぎ ってやつだよ。気にするな」
「それなら、いい薬草があるよ。
大人が、酒を飲みすぎた時によく使ってるやつ」
たけぞうが、腰にぶら下げたいくつかの袋の中から、ひとつの袋を渡してくれた。
袋を開けると、乾燥した薬草が入っており、少し苦みのある匂いがする。
元太に薬草を含ませると、少しずつ顔色がよくなってきた。
「たけぞう、お前、見どころがあるぞ。よかったら、俺の配下にならないか?
俺は、佐久間っていうんだ。西のほうに領地を持ってる豪族だ」
「う~ん、うれしいけど、親父が困るからやめとくよ。
なんかあったら、行くかもしれないけど、その時はよろしくね」
「あぁ、わかった」
今は戦国時代。
たけぞうも、いつ戦争で親を亡くし、孤児になるかもしれない身の上だ。
あいつが頼ってきたら、力になってやるか。
岡崎城の方へ帰っていく彼らを見送ってから、水筒の水を口に含む。
ちろりん とコネが出来た時に鳴るいつもの電子音が流れた。
【松平信康とコネができました 武力+1】
思わず、口に含んだ水を吹きだす。
え!?たけちゃんって、まさか竹千代?ちょっとこれマズイよ。
彼の言葉が、やけにリアリティを帯びて感じる。
史実では、松平信康は武田家との内通の疑惑をかけられ、
20歳の若さで切腹した、悲劇の貴公子。
若いころから勇猛果敢で、数多くの戦功を挙げたという。
関ヶ原の戦いでは「信康が生きてたらなぁ」と家康がグチったほどの、出来た嫡男だ。
なんかあったら、って絶対、切腹イベントだろ?
「イベント起きたら助けにいかないといけないのかな……」
三河の空は青く、遠くまで広がっていた。
『メーデーメーデー。地雷フラグを踏んだ。繰り返す。
地雷フラグを踏んだ。至急、爆弾処理班頼む』
甲斐の国、信玄の町、甲府。
その街が火の海に沈む。
次回「コウ・フィナーレ!」




