尾張良ければ、全てよし!
佐久間一行の旅は、出発前からいきなりピンチを迎えていた。
もんぶらんが、今上天皇陛下のお口に入り、追加注文が発注された!
注文主は、宮内庁直々。ここで失敗するわけにはいかない。
工芸所をランクアップさせ特産物工場に変えておいたのだが、この期に及んで、工芸所の所長が過労のあまり隠居してしまった。
最近、彼から「もう、ダメなんです」という言葉しか、聞いた事がなかった。
ついに限界を迎えたようだ。老後はゆっくりと休んでくれ。
後続として、阿部を工場長に設定する。
各施設の長は、普通はモブ(政治20前後)が勝手に行うが、武将を据えることもできる。
その場合、武将は施設に拘束されて他の行動ができなくなるが、施設の効果は武将の政治能力に応じて増加する。
阿部は政治能力が80超と高いのでうってつけだ。
決して、幼女事件での、留置所や強制労働的な意味合いで設定したわけでは無い。
なんとか納品を済ませ、領民や配下に見送られ元太と相馬を引き連れて旅に出発。
馬呼笛を使い、3匹の「名馬」を呼び出して騎乗する。
このゲーム上、乗馬の基本はできるので、
街道を進むくらいなら問題なく馬を乗りこなすことができる。
名馬を使っているせいなのか、揺れもほとんどなく、のんびりと旅ができそうだ。
水戸黄門になった気分。こんど、印籠でも見つけておくかな。
■
美濃の国から尾張の国に入る。
シームレスに接続されているし、今は関所のような面倒なものは無い。
フリーエリアの「国」には、1つの本城と複数の支城、いくつかの村落がある。
本城や支城はプレイヤの領地の作りと同様に、拠点となる城を核にして周囲に内政施設が立ち並ぶ。
だが、本城はリアルにあわせて川が流れていたりするので、画一的な街並みではなく、攻め込むには戦術性が必要になる。
いずれ、プレイヤが本格的にフリーエリアに進出すると取り合いの激戦地になるであろう。
村落はクエスト用NPCや旅をする時の物資補給・休憩用に存在する。
戦略拠点にはならない。
尾張国の場合、本城として清州城、支城に犬山城、勝幡城、鳴海城、小牧山城等がある。
名馬の移動速度上昇効果のおかげで、尾張国に入ってから10分程度で清州城が見えてきた。
俺の領地がみすぼらしく感じるほどの、広い町、デカイ城。
そして、城下町が活気に満ち溢れている。
うちも歌舞伎町とかで活気はあるつもりでいたが、その比ではない。
「この町に満ち溢れる生気は素晴らしいですね。きっとここから次世代の覇者が出てきますよ!」
相馬がドヤ顔で解説してくれる。そんなのは、日本の常識だよ。
それにしても人が多い。
騎乗だとぶつかりそうなので、馬から降りて笛形態に戻す。
ちらほらと観光らしきプレイヤが散見されるが、大半はAI制御のNPCがこの町を作りだしている。
「○○流槍術免許皆伝」という幟を立てた落ち武者のようなおっさんがいたりする。
農民Aと町人Aが道端で話していたりしているところは、うちの領地と似たようなもんだな。
お登りさん状態できょろきょろしていると、馬に乗った髭面のNPC武将が兵士を引き連れてくるのが見えた。
町民のマネをして道の端に避けながら、こっそりステータスを確認する。
『武:90超 知:50超 政:70超 魅:70超 技:50超』
名前まではわからないが、きっと織田家の武将なんだろう。
うちの武将で対抗できそうなのは和尚ぐらいだ。
さすが、人材の織田家といったところか。
なんとなく雰囲気に飲まれてしまった。
「外交」の伝手探しという目的もあって、清州城に立ち寄ったのだ。
俺の領地が近畿地方である以上、織田家とコネを持っておくのは必須事項だ。
でも、今更さっきのおっさん追いかけて話するのも、なんか恰好悪いよな。
「う~ん、どうすべぇか」
「どうなされましたか、お館さま」
相馬が、思わずこぼれた独り言を拾ってくれた。
「せっかく清州まで来たから、織田家の武将と伝手を持っておきたいんだよ」
「織田家 というと、柴田、林、佐久間といったところですかな」
「同姓のよしみで、佐久間に行ってみるか?」
もしかすると、遠い遠いガチご先祖様かもしれん。
「いやぁ、出羽介どのについても、分家扱いされてこき使われるだけでしょうぞ。
ここはひとつ、織田家の出世頭、木下藤吉郎というのはどうでしょう?」
いつの間にか現れた、人懐っこそうな笑顔を浮かべた小男のNPCが、話に割り込んできた。
ステータスを見てみる。
『武:50超 知:90超 政:90超 魅:100超 技:80超』
「おまえ、何者だ?」
元太が誰何してくれる。
こんなチートがごろごろしてたら、この時代おかしい。理系の俺にも予想がつく。
むしろ、チートがごろごろしてたから、この時代がおかしかったのか。
「とよ(げふん)、木下藤吉郎殿とお見受けするが」
「いやぁ、先日の稲葉山城攻めでは、あの銃火の中、
敵将を見事調略して、敵城一番乗りの佐久間うじに出会えるとは、奇遇ですな~」
稲葉山城攻めは、鷹目の一件だ。
あの時、搦め手門側は鷹目の射撃があまりに正確すぎて、守備側のプレイヤもNPC武将もやることが無くなり、みんな大手門側に行って、血で血を洗うような激戦をしていた。
鷹目と、彼女が率いる精鋭鉄砲部隊が「調略」で居なくなった後に残ったのは、モブ武将と数人の兵士だけ。
うちの戦闘系武将、元太と中原があっという間に片づけて一番乗りをした。
じつは、この搦め手門側の指揮をとっていたのは、木下藤吉郎。
時間ぎれに終わった攻城戦だったが、唯一彼の持ち場だけは城門を突破!
敵の本城に土をつけたのだ。そりゃあ、上機嫌にもなるか。
鷹目の件でいっぱいいっぱいだったので、NPC側の事情は気にしてなかった。
「すまん 佐久間殿。いま、お館さまはこの城に居られないのじゃ。
狭い我が家で恐縮だが、是非、是非、うちに遊びに来てくれ!
配下どのもご一緒に、ささ、ささ!」
口を挟ませない勢いで手を取られ、強引に木下家へ連れて来られた。
平屋が並ぶ質素な一角に、木下家はあった。
「おうい、ねね、女房殿、今帰ったぞ!
客人だ、命の恩人だ!例の、佐久間殿だぞぅ」
家の奥から、ふっくらとした黒髪の美人が出てくる。
「あらあら、いらっしゃい。ゆっくりとしていってね」
「えーと、佐久間です。これ、つまらないものですが甘味です。お口に会えば」
なんとなくつられて、もんぶらんを何個か渡す。
「あら、ありがとうございます」
奥に引っ込んだかとおもうと
「まっちゃ~ん!いいものもらったぁ~食べよ~」
裏から寧々さんの元気な声か聞えてきた。
「まつどの!又左よんでこい 又左!あと酒も」藤吉郎がデカイ声で叫ぶ。
■
「いやぁ、あの時は、もうわが身ひとつで突撃するしか無いかと思った。
大手門では激戦で、こっちでは何もしてない とばれた日には、
お館さまに首を引っこ抜かれますわ わっはっは」
「俺も森部で佐久間殿が伏兵を退治って、勝利に貢献してくれなかったら、
帰参が叶わなかったかもしれぬ」
「我ら両名の恩人だわさ!なぁ又左」
「そうだな 藤吉郎」
いつの間にか、前田利家も参加して盛大な酒盛りになっていた。
部屋の隅では、寧々さんとまつさんが、もんぶらんと特製もんぶらんを食べ比べしている。
そして、相馬と元太は早々に良い潰れている。
どうしてこうなったのか、誰か教えてほしい。
ちろりん。
【木下藤吉郎、寧々とコネができました。知力+1、政治+1】
【前田又左、まつとコネができました。武力+1、魅力+1】
尾張を超えて、三河に入る一行。
過酷な旅路の先で出会うのは?
次回「スリー・リバース!」




