ディプロマシー!
ディプロマシーとは、「外交」の事です。
そういうゲームもありましたね。
領地が7*7マスに拡張された。
1マスサイズの平屋だった館も、2マスサイズの2階建てに変わった。
2階の物見から見る、我が領地の景色は最高だ。
館は小高い丘の上にあるので病院(3階建て)の屋上から見おろされる事が無い。
ほんの少しだけど、こっちの方が高い位置にある。
そう思っていたら、病院の屋上で洗濯物を干している看護師の男と目があった。
丁重なお辞儀をされる。
よしよし。
6*6マスの時でも結構空き地があったのだが、7*7マスに拡張したため、
建設可能マスの3割ほどが空き地になっている。
建築できる施設の種類も徐々に増えているので、何を建てるか悩むところだ。
さらに、システム的な追加で「外交」コマンドを行う事が出来るようになった。
外交は「朝廷」「幕府」「大名(NPC領主)」が相手だ。
他の大名と友好的な関係を築いておけば、周囲から攻め込まれにくくなるし、援軍要請ができる。
朝廷からの「勅命」で停戦命令を出してもらったり、幕府から周辺武将への援軍要請が出来たりするので、無視できない要素だ。
さらに、朝廷の官位や幕府の職に就くと、指揮できる兵士の最大数や士気、登用成功率にも影響が出る。
外交はリアルと同様、まず伝手を探すところから始まる。
プレイヤは、伝手の好感度を上昇させ、より上位の相手に紹介してもらう。
そして、上位の相手の好感度を上げ、さらに別の人を紹介してもらう。
その繰り返しによって、各組織の構成員に自勢力の好感度を浸透させていくのだ。
好感度を上昇させるには、ザ・賄賂!が主な手段になる。
我が領地名物「もんぶらん」と「金」を外交弾薬として三度目の平安京に向かう。
向かうといっても、実は一度行ったことのある「国」へは一瞬で転移ができる。
「自分の領地」へも帰還転移が出来るので、やろうとすれば簡単に往復可能だ。ゲーム世界って素晴らしい。
時折、リアリティに欠けると批判スレが立つが、
決まって「転移禁止したら誰得?」で終わる。
今回は、転移をせずに、時間をかけて平安京へ向かうことにした。
わざわざ時間をかける理由は2つある。
一つ目は、平安京イベント報酬のスキルガチャで手に入れた、
魅力系スキル『勧誘』の使い勝手を調べるため。
『勧誘』は、能力値合計100未満のいわゆる「モブ」を裏切らせ自領の兵士にするスキルだ。
成功率は敵部隊の指揮者の能力値合計と兵の士気、スキル使用者の魅力値から弾き出される。
プレイヤ(能力値合計250)が指揮する部隊だと運が良くて離反は1%止まり。
しかも、同じ相手に連続使用が出来ないので合戦ではほとんど使い物にならない。
だが、フリーエリアでは、話が違ってくる。
山賊・盗賊に会いやすい山道を選ぶと、わりと遭遇する。
「げへへ、荷物を置いてここから立ち去りな!」
スキル『勧誘』使用。
「お前たち、うちの兵士にならんか?今ならワンルームで食事つきだぞ?」
「ついて行きます!」「犬と呼んでください!」「抱いて!」
フリーエリアで出会う山賊、盗賊はボスの能力値合計がせいぜい100前後。
配下は4割から5割の確率で俺の配下になるし、時にはボスも兵士に堕ちる。
半数が戦闘不能になると逃げ出すロジックが組み込まれているため、
『勧誘』1発で戦闘が終わるし取りこぼしても元太が1人2人倒せば逃げていく。
ランダムエンカウントの山賊は、いいカモだ。
ネギ(ドロップ銀&兵士)しょって向こうからやってきてくれるのだから。
この調子だと、平安京に着くころには、兵士が20人くらい増えそうだ。
自領で「募兵」をすると100人規模で兵士数は増やせるが、銭もかかるし税収も下がる。
『勧誘』は、機会があったら積極的に使っていこう。
二つ目の理由だが、最近ちょっと元太との間がぎくしゃくしている気がしたのだ。
俺と元太は、養子縁組をした親子の関係だ。
だが、俺とそのちゃんの間に実子が産まれると、庶兄という難しい立場に立たされることになる。
家柄で見ると、そのちゃんは代々続く公家の野々宮家。元太の出身、佐野家は所詮地方豪族。
このままだと元太は傍系ということになり、これから産れる弟に頭を下げなければならない。
たかがAIと切り捨てることもできるが、史実ではそういうところから離反が起きていたりするんだよな。
だから、親子2人、水入らずで旅をすることにした。
山あいの道を抜け、平地に出た時、意を決して口を開いた。
「なぁ、元太。お前さ、そのの子供が産まれたら、どうするつもりだ?」
「父上のお許しが頂けるのであれば、庶兄として、佐久間の家に尽くす所存です」
「そうか……。つらいようなら、佐野のところに戻っても良いんだぜ?」
元太は、少し考えてからニヤリと笑って、答える。
「お言葉ですが、父上。
佐野家に戻ったところで、兄貴が上に2人も居ますし、いずれ甥も出来ますから冷や飯食いですよ。
それなら、ここで庶兄のほうが偉そうにしていられるじゃないですか」
からり とした屈託のない笑顔で元太に突っ込まれた。
あ~、そこまで考えて無かった。
元太がこのまま佐野家に戻ったところで、良くてニート悪けりゃ陪臣。
ところが、佐久間家だと、唯一の庶兄として尊敬される重臣確定。
こりゃ悩むまでも無いな。
「和尚殿と相馬殿に相談したら、笑いながら諭されました。
これからも、よろしくお願いします。父上」
「あぁ、元太。頼りない親父だけど、こっちもよろしくな」
どうも、考えすぎだったようだ。
平安京はすぐそこだ。
まずは野々宮家に行って、そのちゃんの近況を伝えた後、
改めて元太を紹介しておこう。
外交の顔になる人間は、一族武将の方が良いからな。
■
平安京はイベントで配られた転移札のおかげで、全国のプレイヤが一度は足を踏み入れた事がある場所になった。
一度来たことがあれば、多少の銀の支払いで転移できる。
そのため、ゲームでのプレイヤのたまり場として有名になり、露店を開く生産系プレイヤや、それを見に来るプレイヤ、野良PTの募集などが大々的に行われ、雑多な雰囲気を醸し出している。
運営側もそれを理解しているのか、平安京行きの「使い捨て転移札」に関しては、
初心者でも求めやすい金額で各地の主要都市のNPCが店売りしている。
今回は銀に余裕があるので、露店で「正装セット」を2人分購入し、その辺の宿屋で部屋を借りて着替えておく。
「I shoot you~(I shoot you~)」
大通りの方から、j-pop風の歌声が風に流れてくる。
平安京うまれの突撃アイドル、H&K G48がライブでもしているようだ。
こういうのはMMOならではの醍醐味。週末には、路上ライブのステージが立つ。
歌や楽器演奏に関しては能力値もスキルも無いので、誰でもこういった形で路上ライブを行い、みんなに聞かせることができる。こんど、佐野でも誘って聞きに来よう。
野々宮家に近づくと、家の前に牛車が止まっているのが見えた。
警備なのか、素襖に侍烏帽子の正装をしたNPC武士が何人かうろうろしている。
近寄っていくと、不審げな目でこちらを居丈高に睨みつけてくる。
俺も元太も何度も合戦に出てるし、征夷大将軍とすらやりあった経験がある。
今更、青白い公家侍に睨まれても、向こうの力不足。
「ちょっと、通してくれよ。野々宮家の当主様に会いに来たんだ」
「待て!野々宮家の当主は我が主と会談中だ。出直してこられよ!」
大声を聞きつけて、野々宮家の屋敷から召使が顔を出しすぐに注進に戻っていく。
「そうか。じゃ、中で待たせてもらうかな」
「我が主が中におられるのだ。貴殿のような者を通すわけにはゆかん!
帰られよ!」
酷い言われようだな。元太の顔が怒りで赤くなってきた。
ここで面倒を起こしても、後が面倒になるだけだし、出直してくるか。
その時、野々宮家の門が内側から開かれ、見覚えのある2人が出てきた。
一人は、この家の家宰さん。前に来た時にお世話になった。
もう一人は、以前の緊急クエストで内親王さまを助けた時に、内親王さまと一緒にいた側近A。
「ここで、佐久間殿をお返しさせては、恩義にすたります。
主も望んでおりますゆえ、是非、ご同席いただきたい」
側近Aが、俺を丁重に迎え入れてくれる。さっきの公家侍は青くなっていた。
部屋にいたのは、クエストでお助けした内親王さまと野々宮家の当主様。
内親王さまは、「麿」であることは変わらないが、汗で溶けていない分、あの時よりましだ。
「佐久間織部祐 久しいな と言っておられる」相変わらず側近が代わりに喋る。
野々宮家は、この内親王さまと姻戚関係にある。
だから、3女のそのちゃんが侍女に上がったし、
こうやって時折お忍びで遊びにくるらしい。
ちょうどいい時に来合わせたものだ。
「お久しぶりです。内親王様。
こちらは、つまらない物ですが、我が領地特産の甘味で、もんぶらん
というものです」
金5枚と共に、もんぶらんをかなり多めに渡しておく。
もんぶらんが朝廷で話題になってくれれば万々歳だ。
天皇家御用達になれれば、NPC商人からの発注が増え売上が大きく伸びる。
モブ工員さんには可哀そうだが、頑張ってもらおう。
3人共通の話題として、そのちゃんの話で多いに盛り上がった後、早々に辞退した。
内親王の側近その2さんと家宰さんに見送られて、野々宮家から退出する。
さっきの公家侍さんは、もう居なかった。鴨川の河原とかに居たらどうしよう。
ちろりん。
【内親王さまとのコネが出来ました。政治+2】
この章は、これでおしまいです。
次回からは新章。心機一転新しい旅立ち。
「北北東に進路を取れ!」




