佐久間領経営開始!
俺の領地、佐久間領。
領主、佐久間律人。人口100人。
吹けば飛ぶような、1階建て平屋の我が家。
寒村としか言えない我が領地には、田んぼと小さな商店があるくらい。
チュートリアルで『領地』の開発方法を習う。
京からやってきた設定の政治指南役とやらが言うとおりに、田畑や商店を増やしていく。
本当なら開発にはそれなりの時間がかかるところだが、チュートリアルでは一瞬で開発が終わった。
チュートリアルを終えたところで、田畑、商店ともに3件ずつ、
鍛冶屋と兵士詰所が各1出来あがった。人口も120人まで増加。
「食糧難は困る。畑の増築を急げ。あと、治水もやっておけ」
自由になったところで、NPCの政治受付役に、コマンドを処理させる。
配下武将が増えたり政治が高ければ同時処理数は増やせるのだが、今現在は2枠だけ。
チュートリアルの30分は、覚えることだらけで怒涛のように過ぎたが、
チュートリアルが終わり、自由となってみると、開発待ちで暇になった。
「ひまになったから、領地を回ってみるかな」
館の外は、戦国時代。
脚色もあるので、道行く人は小奇麗な格好をしているし血色も良い。
言うまでも無い事だが、餓死死体なんて転がっていないぞ?
チュ-トリアルで作ったばかりの田んぼでは、既に稲が青々と茂っていた。
兵士詰所の前では兵士たちがのんびりと寛いでいる。今度鍛錬をさせねば。
「お館さま、おはようございます」
「おらが畑の大根もってってけろ~」【食糧+1】
魅力100の影響なのか、領民に人気が高い。
相手はただのAIなのだけど、これちょっと癖になるかも。
領民の一人に意識を集中し、ステータスを見てみる。
『武力:? 知力:? 政治:? 魅力:? 技術:?』
俺の知力では、ステータスが見えない。
さっさと、配下武将をスカウトしたいところだが、領民の大半は能力値10前後という調査結果がある。
そんな一般人をスカウトしても、あまり意味が無い。
普通は、旅人や隠居所を見つけて、スカウトすることになるのだ。
とりあえずは、土地勘を覚えるため、自分の領地をひとまわり。
まだまだ発展途上の我が佐久間領。
空き地はたっぷりある、というか、ほとんど空き地。
「お館さま、じつはお願いがありますのじゃ」
早速、お願いが発生した。依頼主は、白いひげの老人。
「腰痛に効く薬草が欲しいのですが、山には山賊が居ますのじゃ。
どうにか、ならんものですかのう」
自慢じゃないが、俺の武力は40だ。
NPCのモブ山賊なら、4、5人くらいはなんとかなるぞ。
「まかせとけ爺さん、山に行ってくるぞ」
「ありがとうごぜえます お館さま~」
「あ、こりゃ無理だ」
山に行ってみると、山賊が10人、森の中で寛いでいた。
ネット情報だと、このクエストでの山賊の数は2~10人。
よりによって、最大値を引いたらしい。
「これは、強い配下武将を登用してからリベンジだな」
諦めて山を降りる途中、道に誰かが倒れていた。服装は薄汚れている。
このゲームでは、フレンド間以外ではプレイヤーは他人の領地に入れない。
NPCなら死んだら『消滅』してしまうから、まだ生きているのだろう。
「おい、大丈夫か?」彼を抱き起こす。
「は、腹が減った……」
変なAIだな。まぁ、助けて配下武将第一号にしてやろう。
さっきもらった大根を渡してみる。
ガリっしゃくしゃくもぐもぐ、すごい勢いで大根を1本食いやがった。
うがった事を言えば、森で食糧くらい取れそうなもんだが、『狩人』とかの専門スキルが無いと、食糧確保ができないようになっているのだ。
「は~ひとごこち着いた。拙者は相馬神楽と申す」
「いきなりで済まないんだが、俺の配下にならないか?
飯なら、腹いっぱい食わせるぜ?」
「ふぅむ、失礼ながら、見たところ田舎の貧乏豪族とお見受けする。
国家を論じる我の居場所ではないが、一飯の恩義もあるゆえお受けいたす。
これから、よろしくお願いします、お館さま」
チロリンという電子音とともに【相馬神楽が配下になりました】というシステムメッセージが流れる。
早速、ステータス画面から、相馬と配下PTを作成。
【配下PTが結成されました。配下武将の能力、スキルが反映されます】
【配下武将の所持スキル『人物評価』が反映されました】
連続してシステムメッセージが表示された。
確か、人物評価はステータス表示の精度を上げるレア技能。
相馬に意識を集中し、ステータスを見てみる。
『武:20超 知:90超 政:80超 魅:10超 技:60超』
なんか俺より強いんだが?といっても合計値で見ると、そこまで大きな差は無いか。
それはいいとして、これはスゴイ配下武将を入手できたらしいぞ。
このゲーム、武将のステータスがまるで見えない。
多少知力を上げたところで、能力値が50より高いか低いかくらいしかわからず、仕事ぶりを見て、評価していくしかない。
魅力振り最大の弱点というのは、ここにある。
スカウトしたところで使えるかどうかがまるでわからず、ごく潰しの配下武将ばかりを抱えてしまい、財政が圧迫されてしまうのだ。
「よし、早速だが、腰痛に効く薬草を取りに行きたいのだが、
山賊が10人くらいいてな。なんとかならんか」
「現地はどのような地形でしょうか?お館さま」
見てきたとおりに伝える。
「ふぅむ、この場合は、火煙混乱の計を使うべきですな
我に策があります、早速行きましょう」
山賊のねぐらに戻ると、相変わらず10人がのんびりしている。
彼らのステータスを確認すると、全員が武力10超。典型的なモブ山賊だ。
「では、お館さま。やつらを混乱させますゆえ、退治をお願いします」
そういうと、相馬はどこかに行ってしまった。
待っていると、どこからか煙がちょろちょろと情けない勢いで出てきた。
「うぉぉぉ!火事だ、山火事だ」「やばい、逃げるぞ!」
「待ってくれ、助けてくれ!」「うあぁぁ、俺死ぬのかぁ!」
そこまで混乱するようなものか?とも思うが、
これが知力補正による策効果UPなんだろう。
彼らにしてみれば、ひどい煙に巻き込まれているように見えるのだろう。
ゲームだし、気にしないことにしておくか。
いつの間にか、彼らのステータスの数字は、バッドコンディションを示す赤に色が変わっており、武力は3にまで落ちていた。
今がチャンス!
「うぉぉぉぉぉ!」
初期装備の刀を振り回しながら突っ込んでいく。
混乱のせいか、組織だった反撃は無い。
年齢制限があるのでて、斬ると血しぶきっぽいものは飛ぶが、傷口までのリアリティは無い。時代劇のように、一太刀浴びせれば倒れる。
そして『消滅』していく。
5人くらい切り倒したところで、残った山賊は逃げて行った。
【山賊退治により、領地の治安が上昇しました】
ぱちぱちぱち
「お見事ですぞ~お館さま」
何処からか現れた相馬が拍手してくれた。手伝えよ、お前も。
「さて。では邪魔ものが消えたところで、薬草を探しましょうか。何をお探しで?」
「え?腰痛の薬草なんだけど」
痛い沈黙が流れる。そういえば、名前も形も聞いていなかったな。
はっと気が付き、ステータス画面を開いて、クエスト詳細を確認する。
「え~と、コンジュ草ってやつ、これこれ」
すぐ目の前に生えていた。よく見ると、山の至る所に群生してるな。
もしかして、山賊退治する必要なかったんじゃないか?
コンジュ草を持って、依頼主の爺さんのところに行く。
爺さんは喜んでくれ、わずかではあるが、食糧と銭をくれた。
VRだと、依頼主が「喜んでくれる」というのがダイレクトに伝わってくる。
たとえAIだとしても、一日一善っぽいな。
こうして、初めてのクエストは成功した。
次回「子供ができたぞ!」