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魔弾の射手! ~Kapitel 2~

俺は、佐野を置き去りにして逃げ出した。

どこをどう逃げ回ったのかも覚えていない。

気が付くと、味方陣営のプレイヤが率いる大部隊の中にいた。

佐野からは「やられた」というメッセージが、逃げている途中に届いていた。


「おい、大丈夫か?」

肩の怪我を心配して、そのプレイヤが話しかけてくる。

掲示板などでも時々名前を聞く、β上がりの古参プレイヤだ。

彼の配下武将が、手早く俺の肩の怪我に『治療』を使ってくれた。


俺は、彼に、起こったことすべてを話す。

ちょっと行ってみるか という彼の言葉に従い、恐る恐るさっきの場所に戻る。

多聞矢倉は、既に味方陣営が占領したらしく、味方の旗が翻っている。

矢倉に登って中を見てみると、そこにはいろいろなものが散乱していた。

早合(1発分の弾と火薬がセットになったもの)の入れ物と思われる空の竹筒、

携帯用の火薬入れ、火打ち道具、手のひらサイズの木箱が何個か。

鉄砲部隊がいた。と断言できる痕跡が見て取れる。

占領される前に、ここにいた鉄砲部隊は慌ただしく撤退したのだろう。


「あの辺りにいたのか?」

彼は多聞矢倉の横あいに開かれた切れ目から、俺たちがいた辺りを指差す。

「はい、そうです」

俺も辺りを警戒しつつ、切れ目から外を見る。

多聞矢倉は、門扉を突破し真下の曲輪を通る敵を攻撃するためにある矢倉だ。

銃撃用の切れ目は、前方には何個も空いているが、横には1個しか無い。

俺たちがいたのは、真下の曲輪を通過し、その先の曲がり角を曲がった奥になる。

切れ目からだと、その場所は城の土台の石積みによって、死角になっており、見ることが出来ない。

当然、射線は通っていない。

「もし、それが本当なら……御流後23だろうな」

ぽつり と彼がつぶやいた。


御流後23。

βテスト時代に、ほえもんさんと双璧と謳われた最強の狙撃手(スナイパー)

ほえもんさんが相手の場合、刀による近接戦闘であるために、

攻撃を誰から受けたのか、やられた側も認識することができる。

そして、相手があのリアル剣豪であれば、いっそ諦めもつく。

だが、狙撃手(スナイパー)が相手となると、与えられるのは一方的な敗北。

相手の姿を見ることすらできず、ただただ、嬲り殺しにされる屈辱。

合戦で出会いたくない相手として、非常に恐れられていたプレイヤだ。


正式サービスの開始後、ほえもんさんは公式イベントにおける将軍との一騎打ちで、

劇的な形で表舞台に登場した。その勇姿はTVCMとなり、お茶の間でも流れている。

だが、御流後23に関しては、今まで何の目撃情報も無い。

正式サービスには参加していないのではないか という噂まで流れていたのだ。


「でも、どうやってここから撃って、俺たちに当てることができるんですか?」

「スキル『跳弾』だよ。リアルの跳弾と違って、複雑な跳ね方はしないらしい」

改めて、矢倉の切れ目から外を見る。ビリヤードと思えば出来なくもないか?

ここから、俺たちの居た場所まで、考えられる射線を目で追ってみる。

無理だ。

ビリヤードとは違い、「高さ」という3次元的な広がりがある。

そして、反射できる壁が何処にでもあるわけではない。

第一、対象は見えていないのだ。その疑問をぶつけてみると、彼は部屋の片隅を指さした。

そこには、少しずつ大きさの違う鐘が何個かぶら下がり、細い紐がどこかへと続いている。

「鳴子だよ。大方、向こうに誰かが来ると、これが段階的に鳴るんだ」

背筋に寒気が走る。これは本格的な軍事テクニックじゃないか。

もしかして、俺たちは、何かとてつもなくヤバイものを相手にしているのではないか?

その恐怖から抜け出せないまま、その日の合戦は終わった。



翌日。昼飯を食いながら、昨日の事を佐野と話しあった。

置き去りにしたお詫びに、缶コーヒーを奢らされた。

「御流後23かぁ。苦手なんだよな、あの人」

「会ったことあるのか?」驚いて問い返す。

「いや、無い。一方的にぶち殺された」

「昨日と同じか」「うん、あんなかんじ」

はぁーっと、二人で大きなため息をつく。打つ手が見当たらない。

「しばらく、攻城戦はやめておくかぁ」

「そうだな」


午後の講義を終えたのち、帰宅。

もろもろの雑事を済ませた後、ログインする。

ログインしてはみたものの、あの圧倒的な恐怖感からまだ立ち直れていない。

ぼんやりとした頭で、適当に施設建設をセットする。

なんか、やる気も出ないし、今日はもうログアウトするかなぁ……


ピーンポン。

ほえもんさんから、コールが来た。

「佐久間殿。ひまなら、来ないか?」

「はぁ、いいですよ。いまどこです?」

「佐久間殿の領地の歌舞伎町」

なんで、また、そんなところに居るのやら。


歌舞伎町の酒場区画の中ほどに、地味な蕎麦屋があった。

そこの奥座敷で、ほえもんさんと義光和尚が、蕎麦をつまみに缶ビールを飲んでいた。

缶ビールは、ゲームの広告スポンサーからの提供なので、気にしてはいけないアイテムだ。

小坊主が一人、和尚の傍らについて手助けをしている。

「佐久間殿、駆けつけ3杯だ」

ほえもんさんが、缶ビールを3本押し付けてくる。

缶ビールといっても、VRなので、味があるだけで酔わない。ノンアルコールビールだな。

一本あけて、一気に飲み干す。

「佐久間殿、なんか悩んでいるのか?」

「おう、拙僧も聞こうぞ」

ほえもんさんと、のんべぇ和尚が尋ねてくる。

ため息と共に、今までの事を2人に話し始めた。


「俺は、『殺気感知』と『隠密検知』使ってるな」

『殺気感知』は、自分に対して攻撃してくる相手にガイドカーソルが付く技能。

『隠密検知』は、隠れている相手にガイドカーソルが付く技能。

もちろん、合戦で使えば、視界はガイドカーソルだらけになってしまう。

本来は、フリーエリア用のスキルだ。

ほえもんさんは、スキルの調整機能でガイドカーソルの色を透明に設定している。

こうすると、ガイドカーソルは見えなくなる。

だが、複数のガイドカーソルが同一対象に重なったときの、重複を意味する「2」という表記は残る。

これによって、隠れながら攻撃してくる狙撃手(スナイパー)を特定しているそうだ。


「撃ってくる位置さえわかれば、システムアシストが有効になるから問題ない」

そういう手があるのか!これで、御流後23に近づけるかもしれない。

「ほえもんさん、ありがとうございます。

これ、やってみます。友人にも教えても良いでしょうか?」

「良いよ。でも、佐久間殿はそれで良いのかい?」

「え?」ほえもんさんから、意外な問いが投げかけられる。

「俺や、武力特化のその友達ならその方法で対処できるし、一太刀報いることができる。

でも、佐久間殿がその方法を取ったところで、御流後23相手に何ができる?」

答えられない。投網?近づく前に撃たれる。

敵の位置が解っても、武力50にも満たない俺では撃たれてもシステムアシストが無い。

ましてや、攻撃力など皆無なのだ。

「佐久間殿は、佐久間殿らしい方法を見つければいいのさ」


次回「魔弾の射手! ~Kapitel 3~」

魔弾最終回。最強の狙撃手 御流後23

今、その幻想をぶち殺す!!


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