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我が名、雲の上まで!

【イベン後半戦 開始です!】


目の前で、二条御所が燃えている。

周囲は松永家の旗をもった雑兵がうろうろしている。

家紋の『蔦』だけでなく、「松永」とご丁寧に書いているあたり、

ありがたい というか、ご都合というか。


【戦国時代に戻れた!

だが、平安京では、松永久秀が征夷大将軍足利義輝に叛旗を翻していた!】

【豪族の皆様には、松永方の与力として「永禄の変」に参加して頂きます。

イベント6日目の23:59までに、足利義輝を討伐もしくは捕縛することがクリア条件です】

【但し、特定の条件を満たすことで、松永家から離反し、将軍家に与することが可能になります】

【各自、おのが信じる道を探し、選んでください】

怒涛のように、システムメッセージが流れた。


「ほほう、歴史上の事件に関係できる ってのは面白いな」

「ほえもんさん、永禄の変って?」

俺は理系なんだ。わかんないよ。まぁぐぐればいいんだが。

「永禄の変は、松永久秀が、時の将軍足利義輝を二条御所で討ち取った事件だな。

剣豪将軍とも言われた足利義輝は、何本もの銘刀を用意し、雑兵を斬って斬りまくった と言われている」

「ほほ~。で、そのまま逃げたんですか?」

「柳生の里に逃げたという説もあるが、鉄砲で蜂の巣にされたか、襖障子で囲まれて槍衾 というのが実際のところらしい」

「でも、ゲームだと、鉄砲の弾も切り落とせますよねぇ?」

「うん。システムアシストで、勝手によけてくれるしな」


周囲では、NPCの雑兵が二条御所に突っ込んでいるが、

プレイヤの大半が様子見なのは、足利義輝の人気の高さなのかもしれない。

「リア充自爆しろ!」と言いながら二条御所に突っ込むプレイヤも、少数ながらいるが。

日本初の自爆武将、松永弾正 VS 悲劇の剣豪将軍 足利義輝。

さてはて、どっちが勝つのやら。


「伏せろ!佐久間殿」

変な事をかんがえながらぼーとしていたら、いきなりほえもんに突き飛ばされた。

俺たちの目の前に、いつのまにか、抜身の刀をひっさげた、精悍そうな顔をした30がらみの男がいた。

俺をかばったせいで、ほえもんは初撃をかわし損ね、左腕から血の赤い筋が滴る。

「お館さま!」

八野が、俺とその男の間に立ちはだかり、相馬が俺の体を後方に引きずる。


ほえもんが動く右手で刀を引き抜くと、待ちかねたかのように、男がほえもんに斬りかかってくる。

二合、三合と刀を打ち合わせるたび、片手で刀をふるうほえもんの体勢が崩れる。

「いたぞ!こっちだ!」

周囲から、雑兵やプレイヤが集まってくる。

男は、ニヤリと野獣の笑みを浮かべると、雑兵を蹴散らしながら、何処かに走って行った。


「あれが、足利義輝……なのか?」

「すみません、俺が迂闊だったせいで」

「いや、あれはしょうがない。特殊なスキルで、いきなり間合いを詰めてきた。

斬撃も鋭いな。刀がこのとおりだ」

ほえもんが刀を見せてくれる。

刀は、打ち合わせた場所に大きくヒビが入っており、

このまま使うことは出来そうにない。修理が必要そうだ。

「すまんが、今日のところは、あがらせてもらおう。

もう、好い時間になってるし、怪我で能力値が減ってるからな」

「そうですね。明日もやります?」

「もちろん!このままじゃ、寝起きが悪いからな、一太刀返したい」

「俺もです」

翌日の再会を約束し、ログアウトする。


風呂に入り、眠ろうとしたが、足利義輝の斬撃の鋭さが思い出され、なかなか眠れない。

怖い というのとは、違う。

どうすれば、あの雲の上の征夷大将軍に、一撃が届くのか。

そういう、ワクワクするような気持ち。

ずっと昔、小学校のサッカークラブで、Jリーガと模擬試合をした時のような。

そんな事を考えているうちに、いつの間にか眠っていた。



イベント5日目


今日の講義は午前中だけ。午後からのバイトの合間に情報収集をする。

既に、全てのサーバで「永禄の変」に入っているようだ。


足利義輝は、平安京の何処か、彼にまつわる場所に潜伏し、不定期に移動する。

プレイヤは平安京を歩き回り、彼を発見すると、戦闘になる。

戦闘時、ある一定時間以上奮戦すると「配下になれ」フラグが立ち、

将軍派になることができる。

将軍派になると、将軍の平安京脱出のための陽動作戦として、

平安京に散らばる松永家の足軽や武将に戦闘を仕掛けることができるようになる。

システムメッセージの内容によると、足軽や武将の撃破数が一定以上になると、

「将軍が平安京から脱出」という事になるらしい。


そして、実際の将軍の能力。

もうでたらめに強い。

能力値としては、武力100超は確定。他の能力も軒並み高い。

登用(すかうと)」を行う場合、被登用側の能力値合計が高いと、登用しにくくなる。

他にも、隠しパラメタの「野望」や、彼我の官位差なども影響してくるので、

魅力100でも将軍の登用は不可能という結論に達していた。


戦闘動画がいくつかあがっているが、戦闘特化でない限り、

一撃の重さに耐えられず、吹っ飛ばされて追撃を受ける。

技術特化のスナイパーは、あっさり距離を詰められ、叩き潰される。


イベント直前のバージョンアップで追加された、名前だけ知られていた『縮地法』『剣聖』『抜き打ち』といった超レアスキルを所持しているらしい。

ゲームであるので、プレイヤも配下武将も、倒されても死なず、安全地帯(イベント中は羅生門そば)に退避 という事になるのだが、満身創痍で能力値が激減し、全快するまでしばらくは戦線に立つことができない。ゾンビ戦法にも限界がある。


バイト中も、うなりながら将軍対策を考え込んでしまった。

幸い、客が少なかったので、怒られはしなかった。

とりあえずは、まだ5日目なので、あと1日ある。

出会えると限ったわけでもないし、将軍のお手並み拝見といくか。


ログインし、約束の時間まで平安京を一回りしながら待つ。

平安京は、どこもピリピリした空気が流れていた。

ピーンポン。ほえもんからのコールだ。

合流し、情報交換をする。ほえもんの怪我は一晩で完治している。

「ちょっと回ってみたのですが、ありがちな場所は、みんな貼りついてますねぇ」

「出ていない って事なんだろうな」

ブラウザの攻略サイトの地図を見ながら相談する。

将軍の出没が確認された場所にX印が書かれている。

さっき、一回りしてきたが、どこもプレイヤが張り込んでいた。

「う~ん、ということは、Xのついていないところで、将軍に関係のありそうな場所かぁ」

ほえもんが、首をひねりながら考え込む。

そして、Xのついていない、地図の一点を指差す。

「ここ、行ってみないか?

将軍が茶の湯に来ていた といわれる、泉緑寺ってのがあるんだ」


泉緑寺は、初夏の日差しが和らぐほどの濃い緑に包まれた、鄙びたお寺だ。

湧水が有名で、現代では境内で茶店が抹茶プリンを出し、なかなか絶品らしい。

ほえもんの実家はこの近くだそうな。

カコン、コトン と、ししおどしの音が軽やかに境内に響く。

人の気配は無い。誰もいないようだ。


「すみませ~ん」

ほえもんが声をあげる。

「ほえもんさん、ちょっと。声だしちゃ不味くないですか?」

「あ、すまん。つい癖で」


寺の中から、突然、人の気配が感じられた。

「あがってこい」

俺は、ほえもんと顔を見合わせる。

そして、寺の中に入っていく。

障子をあけるとき、転移特有の浮遊感に襲われた。


転移した場所は、鄙びた寺の中とは思えないほど、広い空間。

剣道の道場のように、床が板張りになっており、周囲は締め切られた障子で閉じ込められている。

ボス戦用の、戦闘エリア ってやつだ。

中央に、座禅を組んでいる男が一人。『剣聖』将軍、足利義輝だ。

「嗅ぎ付けたか、松永の追手。

その功績を称え、将軍直々に、成敗してくれよう」

座禅をほどき、ゆっくりと立ち上がる。


「佐久間殿、ここは、任せてくれ」

ほえもんが俺を制し、ゆっくりと道場の真ん中に歩みを進める。

将軍まで、5mほどまで近づくと、腰の刀を抜き、正眼に構える。

刹那。義輝がほえもんの眼前に居た。動きが、見えない。

ほえもんはなんとか反応し、後ろに飛びのく。

だが、義輝の一閃で、ほえもんの刀が真っ二つに折られていた。

「征夷大将軍の眼前に、鈍ら刀を出すとは不敬なり」

義輝は傲岸そうにほえもんを見降ろす。

さらに飛びのいて距離をとったほえもんは、ゆっくりと腰から二本の刀を抜く。

刀が反射する光が青白く、美しい。

素人目にも、さっきの刀とは違う、名のありそうな業物であることがわかる。


そして、斬撃と斬撃の応酬が始まった。

いなし切れなかった刃が、お互いの体に傷を増やしていく。

だが、傷は浅く、致命的な一撃とはなっていない。

激しい撃ち合いがしばらくの間続いた後、ほえもんと義輝の動きが止まる。

止まったまま、永い、長い時間が過ぎていく。空気が、重い。

ゲーム中であるはずなのに、空気がのしかかってくるような、重さを感じる。


義輝が刀をゆっくりと振りかぶる。

「やぁっ!!」

裂帛の気合とともに跳躍し、ほえもんの頭上から刀を打ち下ろした。

ほえもんは腰を落として、剣風を頭上で流し、義輝の脚に切りつける。

義輝の返す刀に阻まれ、ガキッと刃が噛みあう。

さらに、逆手の刀を義輝の腹に突きいれるが軽々とかわされ、

よろめいたほえもんの腹に、義輝の蹴りが入る。

だが、蹴飛ばされながらも突きだした、ほえもんの刀が義輝の脚を削ぐ。

義輝の袴の裾が、みるみる赤く血に染まっていく。

「ははは!楽しいぞ、公家、武家、官位、将軍、くそくらえだ。

俺は、俺のために戦う!!」

すさまじい気合いとともに、立ち上がったほえもんに向けて義輝が迫る。

必殺の一刀。ほえもんは、二本の刀でそれを受け止めた。

が、次の瞬間、ほえもんの刀が折れ、砕け散る。

折れた刀の欠片が、2人の間に飛び散り、星のようにきらめく。

「うぉぉぉ!」

ほえもんが、宙を舞う折れた刀を素手で握りしめ、義輝に突きいれる。

間髪の差で義輝は刀で弾く。

もう一本のほえもんの刀が義輝を捉え、右手首を切り落とす。

「見事なり!褒美だ!」

義輝は残った左腕一本で刀をほえもんの腹に突きとおした。

「ぐぅ、完敗…だ」

ほえもんの体がゆっくりと消えていく。

本当なら、自分の領地に強制帰還なんだが、

イベント中だから、朱雀門か羅生門あたりで復活するんだろうな。


義輝は荒い息のまま、俺たちの方を向く。

「かかってこい!」


『投網』『投網』『投網』『投網』『投網』………

将軍が動けなくなるまで、八野と2人で投網を投げ続けた。

いや~さすが『剣聖』だ。2回も投網を切り払ったよ。

ほえもんが頑張ってくれなかったら、やばかったかも。

こうして、俺は雲の上の存在だった『剣聖』将軍、足利義輝の確保に成功した。


確保はいいものの、足利義輝は片腕を失い、満身創痍。

まぁ、個人的な感情もあるのだが、どうにかして、助けたいよなぁ。

ステータスを見ると、怪我でどんどん数字が低下しているのがわかる。

このままじゃ、長く持たないし、抱えて逃げるのも難しそうだ。

何か、手を考えないとな。


「ふっ、俺の負けだ。久秀のところへ連れてゆけ」

「悪いけど、それはお断りだ。

どうせ、あんたは死んだ事になるんだから、俺の配下になってくれないかな?」

「断る。俺は武家の棟梁、征夷大将軍だ。人の下に付く気は無い」

「腕ぶった切られて、武家は続けていけないだろ?

うちに今度寺を建てるんだけど、良い和尚さんが欲しいんだよ」

「ふふふ、和尚か。人で無く、仏の下につけとな。

寺で産まれた俺が、寺に戻るとは一興。

良いぞ、久永の顔見るよりは楽しそうだ。主が領地、行ってやろう」

ふぅ。なんとか登用に成功。第一段階クリアだ。

足利義輝が腕を斬られて重傷扱いになり、ステータスが激減していたおかげで

ぎりぎり落とせた ってところかな。

どうせ、逃避行に備えて、配下にできる確率が残してあったんだろうなぁ。


今、俺には相馬と八野の2人の武将がいる。

そのため、ここで足利義輝を配下武将にしたうえで、入れ替えを選ばないと……

はい、義輝くん、俺の領地へ自動帰還(テレポート)しましたぁ!


を期待したんだが、さすがに運営も抜けていないか。

足利義輝は自動選択になっている。しょうがないから八野に戻ってもらった。

「では、お館さま、一足お先に帰還しまッス」


足利義輝のステータスは、怪我のせいでじりじりと下がり続けている。

このままじゃヤバイな。第二の策だ。

「義輝。隠居を命じる!」

『隠居武将』は、特殊なタイプの配下武将。

領地から出すことが出来ず、内政コマンドの登録もできない。

そのため、領内を回るときのお供か、籠城戦でしか使えない。

じつは、そのちゃんも隠居武将なのだ。ちゃんと能力値を持っている。


俺の領地でもない平安京に、うちの『隠居武将』は存在できない。

はい、義輝くん、俺の領地へ自動帰還(テレポート)しましたぁ!

今度は成功だ。さすがの運営も、配下にして、隠居までさせる事は想定外らしいな。

ま、領地には最先端の病院もあるし、怪我の手当てはなんとかなるだろ。

金歯の医者に期待だ。


そして、1467サーバでは、足利義輝が不在という異常事態が発生し、

いろいろ宙ぶらりんのまま、6日目が終わるまで、時が過ぎていったのであった。

次回「祇園精舎の鐘の音!」

平安京イベントの締めくくり、最後の7日目です。


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