信濃国攻防戦 終話
■ ■
信濃に武田軍が侵攻し、主人公たちが迎撃で忙しくなる1ヶ月ほど前。
有岡城攻略戦に動きが現れた。
中国地方の大大名、毛利家が攻略戦に参加する
という噂がネットとゲーム内の双方で流れた。
その噂を裏付けるように、毛利家当主、毛利輝元から親毛利派プレイヤに向けて、瀬戸内海を大船団で移動し、海側から有岡城に迫るという策戦が発令。
大々的な兵員募集が行われた。
兵員輸送の為に、瀬戸内各地から集められた船は500隻を超えた。
毛利家の復権を目指して参加したプレイヤも多く、
参加兵員は十万の大台にのった。
当然ながら、その動きは有岡側にも伝わり、毛利船団の到着にあわせて決戦と見込まれていた。
期待を背負い、安芸から出港した大船団であったが、
日が悪かったせいか、備後(岡山県)辺りまで来た時に嵐にあい、足止めを余儀なくされた。
密集陣形で互いの船が激突し、損傷を受けた船の修理もあり、毛利船団の先行きは怪しくなってきた。
一方で、有岡近辺に駐留していた部隊は、船団の到着と足並みを揃えて大攻勢にでるはずだったが
その足止めによって、立ち往生となる。
そこへ、荒木側の大々的な反攻作戦が行われた。
そもそも荒木に与するプレイヤは、寄らば大樹でなく、戦果目的の飢えたプレイヤの集団である。
彼らの有志が進めた反攻作戦は大成功をおさめた。
攻め手は大打撃を受け、いくつかの砦が奪取・破壊されるに至った。
一時は山城にまで攻め込まれそうになった包囲軍だが、その裏側で、毛利軍を率いる小早川隆景は動いていた。
彼は、足止めされていると見せかけながら、備後で渡海軍を回収。
秀吉と秀長と合流して、『中国大返し』の助力を受ける。
史実通りの山陽道ルートを、羽柴軍ではなく、毛利軍が急進。
ゲーム内時間で5日後、総勢15万の毛利部隊が有岡城を強襲した。
反攻作戦で獲得した砦に守備兵を分散していた荒木側は、各部隊が分断・各個撃破されていった。
攻城部隊も敗兵を纏めて砦を取り返し、いっきに形勢逆転となった。
攻勢の中で、有岡城三の丸の武器庫兼牢屋から黒田官兵衛が救出された。
致命傷状態にあった彼を、秀吉は嫡子の秀路をお供として、湯治の為に信濃に向かわせたのだった。
■
佐野と山県隊との遭遇戦は、佐野が20倍の兵力差で押し切った。
後で佐野から聞いた話では、山県昌景は全身赤鬼のようになりながら、
赤備えの部隊とともに本陣ちかくまで喰いこんできたらしい。
間一髪、補習から解放された佐野のログインが間に合い、疲労困憊した山県昌景と立ち合って彼らの勢いを削ぎ、追い返したそうだ。
あと一息 というところまで追い詰めたところで、どこからか現れた伏兵の反撃にあい、山県昌景に重傷を負わせることはできたが、捕えることが出来なかった。
そして、信玄は約束どおり3砦を無人で明け渡して去って行った。
真田一族は約束通り、属国として従っている。
山県昌景の暴走で発生した中部戦線。
我々は、勝利はしたものの、投入した兵の損耗が激しく、再度の北征は諦めざるを得なくなった。
そして、信濃の冬が始まる。
冬が終わり春が過ぎれば、次回のバージョンアップが行われる……
■
いつものように深志城の大広間にログインした俺は、皆に挨拶してからこたつに潜り込む。
冬が訪れつつあるこの国では、広間の真ん中に、大きなこたつが置いてある。
こたつの上には、みかんが乗っているあたり、べたではあるが、日本の冬には欠かせない。
時間にきっちりとした性格のぽえる、御神楽の二人は既にログインし、地図を前に話し合っている。
その傍らで、赤影さんと猿飛が、みかんを食べながらくつろいでいる。
おそらく、佐野もそろそろログインするだろう。
「で、猿飛。何でお前までここに居るんだ?
お前うちの連合の所属じゃないだろ?」
「諜報活動だよ。真田家の諜報担当としては、忙しい限りだぜ」
「お前、忍者なら、もっと、こそこそやれよ」
「寒いからやだ。
それに、ちゃんと聞いた方が間違いが無くて、お互い手間が省けるだろ?」
何がお互いなのかわからないが、彼の主君である真田家とは、従属関係を結んでいる。
あの時の約束通り、真田家は砥石城の城主として、小県を治めている。
彼らにも関係のあるし、聞かれて困る話でもないので、深くは突っ込まない事にしておいた。
「さて、今日の議題は、冬のうちに何をしようか?だ」
■ ■
春日山城では、遠くから潮騒の音が聞こえてくる。
冬だろうが夏だろうが、海が休まることは無い。
だが、人間の側はそうはいかない。
雪深い北越では、本格的に雪が積もると、ゲームの中でも戦どころでは無い。
プレイヤ本人は寒さに対して耐性がある設定なので、大きなペナルティは無い。
だが、率いている兵士や武将は寒さの影響によって
進軍速度が大幅に下がる、普通に歩いているだけで士気がダダ下がりする と、デメリットだらけ。
だが、「攻めてこないだろう」という隙を突かれる季節でもあるので、
春日山城の将兵は気が抜けない日々を送っている。
その一間で、上杉景勝が重臣たちと会議をしていた。
その中にはプレイヤの姿もある。
「先の件、武田が佐久間に敗北したそうです」
まだ若い側近が、戦闘経過を報告する。
「お館の乱」では、
東の上杉景虎=北条家=徳川家
西の上杉景勝=『俳人旅団』(プレイヤ集団)=武田家
が、上杉領を東西に分割してしのぎを削っている。
プレイヤたちは、史実上の勝利者であった景勝に味方する者もいれば、
あえて史実をひっくりかえそうと働く者もいる。
織田家は信長死去のごたごたで上杉に奪われた旧領奪還に動いており、
景勝は苦しい立場に置かれていた。
「前門の虎、後背の狼 というところか。
織田め、貪欲な狼のようだ」
織田家の戦法である、柴田勝家が、景勝の背後を襲い、越中の切り取りを始めていた。
だが、上杉景勝側は頼りにしていた武田が撤収したことで、城を守ることで手いっぱいになっていた。
「起死回生の策があります」
側近の発言に、周囲の重臣が注目する。
彼は、家老の家の出であり、いずれは重臣となる若者であるため、一目置かれている。
「柴田と羽柴、彼らを争わせる事が出来れば、織田は自壊するでしょう」
「だが、そううまくかみ合うものか?」
「佐久間を利用します」
つづく




