信濃国攻防戦3
■真田家諸将紹介■ あくまでこのゲーム内における設定です。
真田信綱 幸隆長男 現真田家当主
武田家への忠誠心が高い。
しかし、外様なので、武田家累代の重臣からは嫌われている。
武田家内部で武勲を積み上げ、小県を回復しようとしている。
能力としては、平均的に高い。
真田昌輝 幸隆次男
兄信綱を補佐する先鋒。
武力以外の能力は兄に劣るが、スキル『騎馬部隊指揮』によって、
騎馬部隊の性能を飛躍的に上昇させる。
真田昌幸 幸隆三男
幼時に(人質として)小姓をしていたため、
真田家の中では最も武田家内部に詳しく、コネが利く。
能力値は知略突き抜け型。他も相応に高い。
真田信尹 幸隆四男
加津野氏の名跡を継いでいる、
武田本隊の一員として、上杉戦線(お館の乱)に参戦中。
矢沢頼綱 幸隆弟。隠居中。
兄幸隆を支えた武力系武将。
今のところ出番は無い。
■
直接的に武器を振るうことは無いが、今までに何度も戦場を駆け抜けてきた。
その成果によって、喧騒の中でも落ち着いて戦況を把握し、部隊を進退させることができる。
ゲーム的に言うのであれば、『逃げ足』『危険感知』で、ヤバそうな場所を避けたり、軍師役の配下武将の進言に従って、適当な方向に進んでいるだけではあるが。
俺の周囲では、岩斎がボディーガードについているが、
圧倒的な兵力差から来る分厚い布陣のおかげで、今のところ出番は無い。
我々側の兵力14000の布陣は、3000が本陣直属。
主将が俺、副将にぽえる。三毛村さん、岩斎に加え、ぽえるの護衛武将が所属する。
残りは、元太と信康くんが率いる騎馬部隊、相馬姉弟が率いる槍兵部隊、孫一配下の鉄砲兵たちが、
各々2000-3000を率いて周囲を固める。
対する真田部隊は、1000の騎馬と昌輝と3000の槍兵。
さすがに騎馬適性の高い真田昌輝の指揮だけあって、騎馬部隊が強い。
先日手に入れた「遠眼鏡」を取り出して前線の左翼を見てみると、最初に信康が視界の中に入った。
中国大戦後に与えた名馬を乗りこなし、騎馬部隊を指揮している。
副将の元太の姿も傍らに見える。
二人は、元将軍の軍学講義のおかげで武将としての能力が上がっている。
そして、足が止まっている敵騎馬隊の横合いから、相馬姉弟が指揮する槍兵が噛みつく。
相馬の「陣形」スキルで強化された槍兵たちは、敵騎馬部隊の中央部を抉り、部隊を混乱に陥れる。
真田昌輝の騎馬指揮は、混乱状態だと効果が半減する。
敵騎馬隊が怯んだ隙を逃さず、信康は配下を突入させていく。
部隊の背後では、負傷した兵と元気な兵の入れ替えも行われている。
さすがの真田一族と言えど、うちの一線級配下武将4人相手には分が悪いようだ。
にやりと笑いながら、視界を動かす。
今度は遠眼鏡の中に、六文銭の旗が見えた。
信綱指揮下の槍兵は、ぽえる配下の武将の槍兵と一進一退の戦闘を行っている。
真田信綱は、倍の兵数にもひるまず、配下の一部を離脱させ、昌輝の援護に向かわせるが、待機していた孫一の鉄砲隊の前に、ぱたぱたと倒れていく。
そして、向かって右側に位置するのが、海野率いる寝返り(予定)部隊。
こちらの部隊とおざなりな戦闘をしながら、打ち合わせ通りに、ゆっくりと陣を動きつつある。
この調子でいけば、遠からず信綱配下の騎馬隊は壊滅するであろう。
順調に進行しつつある戦場から視線を上げ、周囲の景色を見渡してみると、山裾にきれいな紅葉が見えた。
ゲーム世界であっても、季節は再現されている。
赤と黄色に染まった山の中には「戦場見物」をしているプレイヤが潜んでいる。
このゲームはプレイヤ間の競争が奨励されているため、公開される情報がほとんど無い。
普通のMMOでは公開されるような、連合の構成員数や規模は実地で調べるしかない。
各勢力が手の内をさらす戦争は、格好の情報収集の場になる。
そして、第二に、このゲームでは、ほとんど何処でも戦闘(PVP、PK)を行うことができるが、山賊行為で得られるモノは無い。
だが、場所が戦場設定された場所だと状況が変わる。
戦場で武将やプレイヤを倒せば「身代金」や「名声」が手に入る。
銃器の有効射程が短い事もあって、兵力を率いて参戦中の武将を狙撃することは難しいが、「戦場見物」をしている、単独行動の武将を倒すのは、難しい事ではない。
のどかに見える山の中でも、狩るものと狩られるものがしのぎを削っている。
「佐久間さん、山県部隊が来ました!」
「なにぃっ!」
ぽえるに声をかけられ、意識を戦場に戻す。
遙か山向こう、紅葉している山の影から、続々と赤い影が広がっていく。
「予想より、かなり早いぞ」
「迂闊でした。
スキル『赤備え』で強引に移動力をかさ上げしたんだと思います」
山県をはじめ、数人だけが持つ特殊スキル『赤備え』。
配下部隊の能力を増強させる決戦型スキル。
効果時間は短いが、上がり幅が大きいことで知られる。
「切り札を切って、間に合わせに来たか。
さすがに、読みが深い……。
ぽえる、急いで寝返りの合図を」
眼下に広がる、真田部隊の布陣は左右に引き伸びつつある。
はしっこで、海野の旗が翻っている。
彼らは、陣の中で寝返りの準備を行っているのだろうか。
寝返り合図の赤い吹き流しが、本陣に立ち上がる。
吹き流しは、五月の鯉のぼりのように、風にあおられて翻った。
一呼吸するかしないかの後、システムメッセージが流れた。
【海野業吉が配下を連れて佐久間軍に寝返りを行いました!】
【武田軍所属 真田部隊の士気が減少します】
地図をみれば、真田部隊の一角の色が味方の青色に変わっているだろう。
寝返った海野の部隊は、予定通り、ゆっくりと真田本隊から距離を開ける。
開いた隙間から、温存していた部隊が殺到する。
流れてくる喚声のボリュームが一際大きくなった。
「真田部隊、潰せますかね?」
ぽえるが心配そうに問いかけてくる。
「わからん。だが、こっちは予定通りの事をやるだけだ」
真田部隊は寝返りに加えて脱走兵が発生し、4000だった部隊が1000を割り込んでいる。
しかし、信綱も昌輝もよく兵を指揮して、致命的な崩壊をさせない。
決定打を出せぬまま推移を見つめていると、戦場で動きが起こった。
真田昌輝が残存の騎兵を率い、動き出した。
傷だらけの彼らは、軍馬に鞭をいれて眼前の雑兵を蹴散らしながら、戦場に乗り入れていく。
率いる騎兵は、100騎前後に過ぎない。
彼らは戦場を横断しようとあがくが、横腹から熾烈な攻撃を受け、100mも進まないうちに10騎、20騎と脱落していき、やがてすり潰されるように消滅する。
真田昌輝の白と浅葱の旗印が人波の中に沈んでいった。
しかし、強引な戦場横断によって、攻撃隊と真田部隊との間に距離が開いた。
その機を逃さず、真田信綱は、に配下部隊を一目散に撤退させていく。
「やばい、逃げられる!」
彼らが向かう方角に目を凝らすと、そこには平野を徐々に蚕食していく赤い軍が広がる。
信康と元太は、追いかけようとする配下を引き留め、部隊の収集を始めた。
■
ゲームであるがゆえに、「部隊崩壊」と「崩壊一歩手前」の差は大きい。
たとえ継戦能力が無くとも、「崩壊一歩手前」は、戦術的撤退に過ぎない。
「崩壊」のように、敵の士気を大きく削ることは無い。
「敵ながらやるな……。本隊、予定通り前進だ。行くぞ!」
「「「おう!」」」
俺の号令に応じて、配下の本隊3000が、手に杭を持って戦場後方に進む。
戦闘で踏み固められた跡地の手前につくと、本隊の兵士たちが散っていく。
第一ラウンドは、「寝返り」というカードを手に入れたことで慢心していた。
結果、真田部隊を崩せなかったばかりか、設営にかける時間も十分に取れていない。
突貫工事で地面に打たれた杭の林の間を、帰還してくる味方部隊が通り抜けていく。
彼らは、杭の後ろ側で僅かな休息をとったあと、次の戦闘に備えた配置場所へ向かう。
本隊は、戦闘部隊の回収が終わった場所から、縄が杭の間に張り巡らせる。
ぽえるが兵士たちの合間を走り回り、『設営』スキルで柵の強化をしている。
「部隊の回収終わりました。
馬防柵、あともう少しですが、時間が足りませんね」
ぽえるが、息を切らせながら戻ってくる。
既に、山県隊は陣形を整えながらこちらに向かって侵攻しつつある。
遠眼鏡を使えば、先鋒兵士の顔が見える距離だ。
兵力は、多少こちらの方が多いが、連戦で士気が落ちている。
戦闘力としては、ほぼ互角。
山県隊からほら貝が鳴り響き、先鋒の騎馬部隊が突撃してきた。




