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信濃国攻防戦 2

決戦までに集める事が出来た兵士は1万5千。

御神楽の政治系スキル『緊急収集』で、なんとか5千の兵士を集めた。

政治系武将は目立った戦闘スキルこそ無いが、「縁の下の力持ち」的なスキルに優れる。


「御神楽、助かった。長居と留守を頼む」

「承りました」

御神楽を守将として2000ほどを守備兵として残し、戦場の諏訪湖南岸へと急ぐ。




「佐久間さん、ちょっと布陣を確認してもらえますか?」

進軍しながら布陣を確定していたぽえるに請われ、状況を確認していく。


万を超える戦闘になると、右翼、左翼、中央、後衛、遊撃の5陣に分かれて布陣を行う。

それぞれの陣部隊には複数の部隊が配置でき、統括する「大将」が配置される。

「大将」のうちの一人が、要の「総大将」になる。

大将が倒れると彼が掌握する陣の士気が半減し、他陣の士気も10減る。

2部隊潰れると士気が20落ちるので、戦線維持が難しい。

「配置しない」という方法もあるが、「複数の陣に囲まれると包囲効果発動」という包囲ルールもあるので、兵力の一点集中が唯一解ではない。

そこに、駆け引きが生きてくる。



今回は左翼に『諏訪大社』、中央に全軍を配置し、遊撃として佐野部隊という設定にしている。

右翼と後衛は無い。

戦場が狭い盆地なので、右翼は行動が制限され、あまり意味が無いからだ。

敵の布陣は、右翼にプレイヤ連合、中央に山県勢、左翼に真田部隊。

左右の翼を先行させた、鶴翼の陣として侵攻してくる。


「真田部隊をどれだけ早く落とせるかにかかってるよなぁ」

武田側は、信濃から甲斐に至る道筋にある3つの大砦の兵をほとんど投入し、真田部隊は4000、山県部隊は12000。

こちらの手兵は、急ぎかき集めた兵が14000。そして北征途中だった佐野が2万を保持している。

我々のもくろみとしては、真田部隊をうまく誘導して、山県部隊の参戦をできるだけ遅らせる。

左翼部隊と中央部隊を同位置に配置することはできないので、山県部隊が参戦するためには正面の真田部隊を迂回するか、突っ切るかの二択。



「突っ切る」は、代償として双方の部隊が一時的に「混乱」状態に陥る。

敵の眼前で「混乱」したら、知略系武将の『同士討ち』『罠』等の知略スキルの餌食となる。

彼我の知略差に自信が無い限り(例:呂布VS孔明)自滅一直線。


山県部隊が迂回する前に佐野が間に合うかどうかが、今回の山場になる。

間に合えば、兵数差で真田部隊を削った後に、山県部隊の包囲で勝てる。

迂回されたところで、兵数は同等。

防御に専念すれば持ちこたえられるし、佐野が参戦すれば持ち直せる。



「山県部隊が来るまでに、何処まで真田部隊を削れるか が勝負の分け目です。

出し惜しみ無しで行きましょう」

「調略とかで切り崩せないもんかなぁ」

「出来ればありがたいですけど、時間的にいけそうですか?」

「う~ん」

調略をするのであれば、魅力の高い俺自身が行くのが成功率が高い。

しかし、開戦直前に、総大将の俺が敵陣に行くのはリスクが大きい。

運よく捕縛されなかったところで、開戦に間に合わない可能性がある。


「無理だなぁ」

「せめて、『不戦』で戦闘領域から抜けてくれるだけでも大きいんですけどね」

AI武将相手の調略に成功すると、何段階かの反応をする。

『不戦』は、敵の武将が、何かしらの理由をつけて兵士ごと戦闘領域外に出てくれる。


最も効果の大きい『寝返り』は、武将が配下の兵士ごと戦闘中に寝返ってくれる。

兵数そのものの変化に加え、不意打ち扱いになるので、敵の士気が減少する。

他にも、武将が身一つで落ちのびてくる『引抜』などがある。

真田部隊が『寝返り』してくれれば、敵は山県部隊だけになるので、包囲効果で勝ちは確定したも同然。

「やるだけはやってみるかなぁ」

忍者を手配し、不戦の手紙を仕込ませてみる。



行軍状態や時間経過から推測して、開戦はリアルで明日になりそうだ。

もちろん、敵が不眠不休の強行軍をやれば開戦は早まる。

しかし、士気が半減した部隊なら、自動制御のAIですらなんとかできるところまで戦力が落ちる。

「ま、今日のところは布陣と警戒だけちゃんとしておいて落ちるか」

「ですね~。こういうとき、夏休み万歳です」

「そういえば、ぽえるは実家に帰らんの?」

「うちは代々、奈良住まいなのでここが実家みたいなもんなんですよ~」

「あ~うちも同じだ。江戸っ子ってやつ。一度実家に帰るとかやってみたい」

そんなリアルを話していると、相馬が慌てて走ってきた。

武力(体力やスタミナもこの能力)が一ケタの相馬は秋風の中でも、汗だくになっている。



「お館さま!ゼェゼェ 大変ですゼェ」

「どうした?伏兵でも見つかったか?」

相馬は慌てて顔の前で手を振る。

「違います。真田の武将が訪ねてまいりました。

我々に内通する準備がある と」

「なにぃっ!」

「幔幕の方に案内してあります。こっちですぜ」

相馬の案内で俺たちは走り出した。


幔幕の中には、真田部隊から来た軍使は、顔中が皺で覆われた老将が一人、床几に腰かけて茶を啜っていた。

元太とかえでさんが接待している。

彼は、敵陣にありながら落ち着いた雰囲気で座っていた。


老将は、幔幕に俺たちが入っていくと、一礼して迎える。

「話を聞かせてもらえないだろうか」

俺が話しかけると、彼はゆっくりと頭を下げてから口を開いた。


「我等は、佐久間殿にお味方しようと考えております。

海野の宗家は武田家の侵攻により滅ぼされました。

今は、不本意ながら武田についておりますが、武田家には恨みがあります。

さらに、我らは故郷である信濃に帰りたいのです。

小県の一郡を約束して頂けるのであれば、佐久間殿に付きましょう」

彼は、ゆったりとした口調で言葉を放つ。


「一郡を与える」というのは、言葉のあやであって、実際の処理としては

小県を掌握している「砥石城」の税収の一割を彼らに渡す事になる。

とはいえ、その額は40万石に及ぶ信濃全体から見れば、1%にも満たない。


「海野家が動かせる兵力はどの程度か?」

「我等単独で1000、支流の根津家もあわせ1500は動かすことができます」

「ふむ」

4000の真田部隊のうち、およそ4割が寝返ると影響は大きい。

真田部隊は、兵数の減少だけでなく、士気の大幅な減少(による兵士の脱走)で、壊滅は時間の問題だろう。


「少し、検討させてくれ」

そう言い残し、ぽえるとともに、幔幕を出る。

「どうする?ぽえる」

「かなり良い話ですよね」

ぽえるが、考え込んでいる時の癖で、おさげをひっぱりながら答える。

「彼らが寝返ってくれれば、敵左翼の真田部隊は壊滅します。

あとは敵中央の山県部隊だけなので、佐野さんが来れば包囲殲滅できますよ」


ぽえるが地面に簡単に絵をかく。

14000の我々と、その葉面に2500と1500に分割された真田部隊。

そして、真田部隊の後方に12000の山県部隊。


「この寝返り部隊に、1000ほど貼りつかせておけば、不意打ちは防げます」

計算上、真田部隊だけを見るのであれば、3倍の兵力差だったものが5倍差に広がる。

山県部隊が来る前に、壊滅させられる可能性が格段に上がる。


「うまく行きすぎている気がするんだよな。勘でしかないけれど」

どうも、首筋がかゆいような、変な思いがする。

冬になれば圧倒的有利になるはずの敵が、無防備にのこのこと出てきたり、

まるで「挟撃してください」と言わんばかりの日程であったり。

「でも、ここで申し出を受けなかったとしても、戦いになるのは変わらないですよね」

「だよな。寝返り部隊がどう動こうと、不意打ち効果が乗らなければ兵力差で何もできんしなぁ。

よし、受けよう」

幔幕に戻り、老将に受託した旨を伝えると、彼は喜び勇んで帰陣していった。



翌日、早めに夕食を済ませて夕方6時にログインする。

ゲーム内の時刻は、丁度リアルと12時間逆転した時間になっていたので早朝6時。

秋の朝6時なので、やっと日が出たばかりの薄暗がり。

兵士たちの炊飯の煙がたなびき、簡単な朝食を採っている。


「敵陣に動きは無いぞぉ。向こうも食事時だ」

昨日のログアウト後に合流したらしく、三毛村さんが答えてくれる。

「三毛村さん、間に合ったのか」

「うむうむ」

敵さんの位置は予想通り。

眼前には、簡易柵を巡らせて真田部隊が陣取っている。

山県部隊も佐野も、今日中には到着できる位置にあるようだ。


陣地を見回っていると、だんだんと日が昇り明るくなってくる。

士気は最大値。兵士たちの戦意は高い。

「おはようございます」

しばらくして、ぽえるがログインしてきた。

もう、お日様が完全に出て、周囲は明るく、兵士たちの準備も整っている。


「よし、全軍前進せよ!」

号令に従い、ほら貝の音が盆地に響き渡る。

先陣を切って元太と信康の部隊が動き始めた。



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