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昌幸の野望

深志城に、だだをこねている領主が居た。

「大和に会いに行きたいんじゃ~~」

「バージョンアップはリアルで3か月も先です。

ゲーム内時間だと、1年近くかかりますよ。まだ出現して無いですってば」

「佐久間って軍艦好きだからなぁ。戦艦のプラモとか部屋に飾ってるし」

「こないだ、『雪風』なんてマニアな事言ってましたよねぇ」

「いや、真田丸より全然メジャーだろ!?」

呆れたような顔で佐野とぽえるが首を振る。



「ぽえる、信濃から一番近くて、港を持つ街はどこだ?」

「え~っとですね」

ぽえるが地図を呼び出して確認する。

「直線距離なら、越後府中(今の上越市)ですかね~。でもここ」

「よし、早急にそこを手に入れるぞ!」

ぽえるの言葉を遮り、俺は高らかに宣言する。

城下町は、その街が所属する城を陥落させれば、支配権が手に入る。

「えっ!?」

「お~いいねいいね。

雪が降る前に、砦の建設と道の整備をやっておくか」

佐野が積極的にのってくる。

最近、戦闘に参加できなかったから力を持て余しているのだろう。

「任せた!俺は武田の切り崩しをやってくる。

ぽえるは、越後府中の城の攻略法考えといてくれよ~」

呆然とするぽえるを残して、俺と佐野は大広間を走り出した。



「え~と、越後府中の城って『あの』春日山城なんですけど~」

残されたぽえるの声は、飛び出して行った2人に届かない。


「難攻不落のヤバイ城なんですけどぉ~~」




■ ■

高山の一角で、真田昌幸が二人の子供と配下たちを連れて円座で座っている。

この場は、けもの道を長々と通らなければたどり着けない。

忍者に幾重にも囲まれ、厳重な警備の中で彼らは密談をこらす。


配下といっても、実質は自称「真田十勇士」のプレイヤ達。

自発的に、昌幸の元へ駆けつけた真田家に殉ずる気概を持った漢だ。


彼らは自分の領地で忍者を要請している。

このゲームで兵士は、募兵等のコマンドで一般人を集めることで増える。

募兵した彼らを維持するために、「兵舎」「侍所」などの宿舎がいる。

しかし、これだけでは「歩兵」という無装備の農民兵にしかならない。

兵種に応じた養成所で訓練を行い、「鍛冶」もしくは商人から武具を買うことで、槍兵や騎馬といった兵種にクラスチェンジできるようになる。


一方で、忍者は「修験寺」「隠れ里」といった特殊施設が必要になる。

それらの施設に、『忍者』スキルを持った武将を配備すると、忍者部隊を養成できる。

忍者と相性が良い施設として、毒や薬の供給源となる医療系施設がある。




「最後の確認だ。よく聞け」

昌幸の言葉に、その場の全員が頷く。

「此度は、我が望むもの全ての総取りを目指す。

真田家宗主の座、憎き山県の首。そして……」

「爺さまの悲願、真田旧領の奪還ですね?」

真田信繁(幸村)が、父の言葉を先回りする。

「そうだ」



真田家は、もともと信濃に根差した豪族。

それが戦国の習いで没落し、流浪の末に武田家に付くことになった。

その過程で、武田家と戦ったこともあり、武田家の先鋒として、苦境を救ってくれた長野家とも矛を交えた。

真田家が武田家の譜代武将に信用されない理由がそこにある。

外様であることに加え、生き残るために敵味方をころころと入れ替えてきたからだ。



現当主、真田信綱は武田家に骨を埋めるつもりで粉骨砕身している。

しかし、時勢の変化に加え、譜代の老臣に阻まれてその努力は実っていない。

もともとは支城を2つも持っていた真田家が、今はちっぽけな砦一つ。

真田家家臣の心情は徐々に信綱から離れ、案に兄を批判する昌幸に夢を託す者が増えつつあった。



「まずは山県を操り、兄たちを出陣させる。

佐久間の使いと兄たちのやりとりは山県に筒抜けだ。山県の疑心は大いに膨れ上がっておる」

「佐久間に『付かず離れず』と答えるとは、踏ん切りのつかぬ伯父上ですな。

裏切るなら裏切る、裏切らぬのなら裏切らぬ 敵だけでなく、

味方も、将の覚悟を見ているという事が解らぬようで」

真田信之が話に割り込む。


「山県は白黒つけぬ者を嫌う。

出陣のおり、兄は先陣に立たされるであろう。

国替え直後とはいえ、相手は合戦経験豊富な佐久間のこと。

冷静さを欠いた山県に勝ち目はない。まぁ、我らも助けるからの」

昌幸がちらりと、大柄なプレイヤを見る。


顔を真っ白い仮面で隠した巨漢が昌幸の視線に応えて頷く。

「兄たちの件も入道にまかせよう。

我が兄たちは、山県の私的な怨讐を雪ぐための戦に駆り出され、

無残にも戦場に散った」

既に、過去の事を話すように目をつぶる。

「我は兄たちの遺志を継ぎ真田家を継ぐ。

だが、兄たちを捨石にした武田家には与せぬ!」


「武田に与していても、どうせ旧領を返してもらえませんものね」

最も小柄な「十勇士」が横からちゃちゃを入れる。



「ワシは、頃合いを見計らって白洲砦に赴く。

白洲砦の逍遥軒程度、わが手の中で転がして見せよう。砦の兵を出陣させる。

そして、隙をみて逍遥軒を人質とし、白洲砦を掌握する。

最後に、北杜砦だ」


昌幸は二人の息子たちに目を動かす。

「信之、信繁。お前たちは人質として北杜砦に行け。

そして、山県の出陣中の隙を狙い、門扉、施設を焼き打て」

「ははっ」

「佐助、才蔵、くれぐれも頼んだぞ」

「あいよ」「承りました」

名前を呼ばれた2人のプレイヤが頷く。



「信濃三砦ををもって佐久間と談判だ。

信濃と甲斐の大道を塞ぐ信濃3砦と、我らが旧領、砥石城を交換する」

「佐久間が飲まねばどういたしますか?」

「家康と交渉することになるだろうよ。

が、佐久間は今、上杉と事を構えようとしている。

十中八九乗ってくるだろう」

「父上は、本心から佐久間に与するおつもりですか?」

「さぁてな。

いずれにせよ、砥石城と小県を取り戻さねば身動きが出来ぬ。

信玄公も上野国から越後に侵出し不在だ。今こそ、時至れり!」


「おう!!」

全員の声が唱和する。



■そして、ゲーム内1月後■

仮想世界では夏が終わり、涼風が吹き始めたころ。

早馬が速報をもたらした。


諏訪盆地の入り口付近に砦を建設していた部隊が急襲され、壊滅した……



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