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家康の野望

■ ■

三河、遠江、駿河3カ国の大守、徳川三河守家康。

その総石高は、ざっと70万石。


家康は本能寺の変を受けて「復活」した武田家から、領土を守り抜いた。

のみならず、滝川一益が持てあまし始めた信濃を狙って、北条家と不可侵同盟を結ぶ。

しかし、その矢先、信濃大守にある豪族(プレイヤ)が移動してきた。



夏の浜松。

元は、曳馬と呼ばれていた土地を、徳川家康が改めて浜松と名付けた。

ゲーム上では、混乱を避けるために「浜松」で統一されている。

この地は、温暖な海域と浜名湖に接するため、良質な漁場に恵まれ、水産物の宝庫である。

城下はさんさんと日差しが立ち上り、ウナギが焼ける匂いが立ちのぼる。

浜名湖名物は、やっぱりウナギのかば焼き。

プレイヤの中には、「VRの中だけでも国産ウナギ喰っとけ」という食い倒れ派と、

「リアルでも喰いたくなって、悲しくなるからあえて寄り付かない」という逃避派に分かれる。

他にも、新鮮(?)なしらすや桜えびを食べさせる店が軒先を並べる。



食通もうならせる城下町を見渡す位置に、浜松城がそびえたつ。

浜松城の大広間では、徳川家の面々が集まり、会議を開いていた。


「佐久間め……、きゃつは、亡き若殿の仇!」

開口一番、眉毛を11時5分に釣り上げた武将がいきり立つ。

信濃に国替えしてきた彼らと、どう付き合うかを合議するために武将たちが集まっている。

「言葉が過ぎる。彼は目付として立ち会っただけではないか」

「されど、無念なり。我は認めん!」

「ならば、お前はその時、若のために何をした!?」

「いや、それは……」

「では、口を慎め」


ヒートアップする徳川家配下武将たちのやりとりに、参加していた徳川派プレイヤ達は顔を見合わせる。

彼らにしてみれば、「信康処刑」は歴史の一コマ。

武田軍征西イベントと重なった事もあって、プレイヤ間でほとんど話題に挙がらなかった。

「すっかり忘れていた」というのが、この場に並ぶプレイヤ達の感想。

今さら、蒸し返しても「その時、何をやったか?」と言われると弱い。


国政的に、同盟が必要なほど追いつめられてはいないが、

敵対できるほど平穏というわけではない。

それに、信康処刑を決定したのは上座に座る家康本人であり、

立会いに過ぎない人物を責めたとしても、しょうがない。


「是も無く非も無くか」

上座の家康が呟き、席を立ったことで会談は終わった。



処刑寸前で救出し、匿っていた徳川信康も今や20代後半。

平時は寺で先の将軍の薫陶を受け、戦時には兵を率いて戦場に出る。

局地戦では指揮を取り、大戦争だと、毛利元就の『戦場掌握』の洗礼を受けたり、吉川元春配下の騎馬隊と張り合った経験を持つ。

攻城戦でも、名城 月山富田城の攻略に参加し、経験を積んでいる。


質朴な東海地方と比べ、近畿・中国地方には毛利・宇喜多のような一癖も二癖もある大名家が多い。

異なった両地域の戦場で揉まれ、もともとは中の上くらいだった彼の能力値は、今や上位クラスと言ってもいいほどに跳ね上がった。

何処に出しても恥ずかしく無い一線級の武将である。


俺たちは、隣接する徳川家へ挨拶をしに、浜松を訪れた。

そのはずだったが、いつの間にか一人の男に見つかって、浜松城下のうなぎ屋に案内された。

ここに案内したのは、服部半蔵。

信康の件で、秘密を共有しあった仲である。

このうなぎ屋の各所に彼の「配下」が配置され、俺たちを監視しているらしい。


「城では佐久間殿への対応をどうするか協議中ゆえ、いま暫くお待ちくだされ」

服部半蔵がそう言った後、かば焼きから始まり、白焼き、肝吸い、そして〆のうな茶漬けのうなぎフルコースが部屋に運ばれてきた。

言ってることは剣呑だが、出てきた食事の豪華さを見てしまうと、生唾が出てくる。

「いっただきま~す」

佐野がフライングして箸を取ったのにつられ、俺も「浜松ウナギフルコース」に挑んだ。

リアルで食べれば、万札が必要になる量を食べつくす。

「あ~、幸せ……」


俺たちの食事が終わる頃合いを見計らっていたのか、半蔵が現れた。

「佐久間殿のおかげで、若はお家を背負って立てる名馬に成長したと見受けました。

心から、お礼申し上げます」

半蔵は、深々とお辞儀をする。

何も言っていないのだが、彼の役目がら聞き及んだ事なのだろう。


「で、その件なんだが、」

うな茶漬けのどんぶりに残った茶を、すすり終わってから話し出す。

「今、信康を徳川家に戻しても良いけれど、上手く元の鞘に落ちつけると思えない」

こっそりと『脅迫』を起動してから、切りこむような口調で半蔵に畳みかける。

「はい、上様もそうお考えのようです」

(ぷぷっ)

横で食後の茶をすすっていた佐野が、含んでいた茶を吹きだす。

「それって、モロバレしてるってことか」

半蔵は何も言わないが、それは肯定を意味している。


「上様からの、お言葉を伝えます。

信康の件、感謝している と。

だが、織田家に処刑したと報告した手前、今は表立たせるわけにはいかない。

我らが組むのは、嵐が起きてからにしましょう との事です」

ここは、半蔵配下に厳重に囲まれた場所。

今の言葉が第三者に漏れる可能性は極めて低い。


(俺たちを警戒して閉じ込めたというより、

他者の密偵を警戒して密談の場を作ったと考えるのが妥当だろうな)

「わかった。いま暫く、預かっておくよ」

「感謝いたします。では、城へ案内いたします」


服部半蔵に連れられて、浜松城へ案内される。

広間では、左側にプレイヤ連合の代表、右側に徳川家の譜代武将が並ぶ。

徳川家康は、上座にデンと座っていた。

誰がモデルを決めたのか知らないが、このゲームにおける徳川家康は、一人の中年俳優が演じている。

彼は、十数年前に女性誌の読者モデルから仮面ライダー役に抜擢された俳優。

無口でクールな演技派で知られている。

年齢のせいで多少肉がついたものの、心を読ませないポーカーフェイスは変わらない。


(ライダーだ!超サイン欲しい!)

佐野が隣でうるさい。

俺自身もその番組を見ていたし、誕生日に変身ベルトを買ってもらった事を覚えている。

男子であれば、誰でも通る道であろうが、赤影さんは俺たちより少し上なので見ておらず、御神楽はまだ産まれてもいない。

そのライダーは、10年の間で最高 と評されただけあって、幼稚園時代の俺はかぶりつきでTVを見ていた。

徳川家に与するプレイヤたちの中にも、「ライダー愛」で徳川家に与している人間が居るに違いない。



「佐久間殿、楽になさられよ」

懐かしい声が、話しかけてくる。

(変身!って言ってくれないかな~)

「こたびは、どうなされた?」

(ポーズ付きだと最高なんだがなぁ)

横に座る、佐野のつぶやきが煩い。


「単刀直入に言いますと、夏のうちに武田領に攻め込みたい。

兵を貸していただけないでしょうか?」

徳川家康は、考え込むようなそぶりを示す。

「済まぬが、織田家より北に兵を出してほしいとの要請が来ておるのだ。

それゆえ、今は武田領に兵は出せぬ。

しかし、こちらも兵を信濃を通過せねばならぬゆえ、

停戦という形で親交を結ばせて頂こう」

「北 というと、上杉家の内乱ですか。

どちらに与するのですか?」

「我らは、ただ織田家の要請に応えるのみ」


停戦は相互不可侵条約。

石高ボーナスとしてはカウントされず、援軍の要請も出来ない。

単純に双方が攻め込まないよという約束だけ。

しかし、一応の拘束力はあり、理由なく破棄すると面倒な事になる。



「う~ん、結局、徳川家から兵を借りる事は出来なかったな」

「だな。これで、夏の間に突貫作戦は不可能か」

「冬が来るまでに、出来る事だけでもやっておこう」


脳裏に信濃国の地図を広げる。

防御用の砦建設、兵士と兵糧の配備、やることはいろいろある。

『耐寒』持ちの武将も探さねばならない。





■ ■

「それは聞き捨てならんな。本当であるのか?」

北杜砦を守る山県昌景の元を、密かに真田昌幸が訪れていた。

真田昌幸は、武田信玄の小姓として仕えていたので、信玄の使いとして山県のもとを訪れた事がある。

そのため、2人には面識があった。


「はい。確たる証拠は未だ掴めませぬが、

我が兄たちは、佐久間と談合を行っているようです」

山県昌景は、眼を細め、眼光を強める。

「ふぅむ。それを、何故ワシに告げる気になったか」

それは、AIに登録された「警戒している」ときの癖である。

「それは、あなた様の方がご存じのはず」

昌景は、かつて兄が信玄を裏切った時、兄ではなく信玄に就いた経歴を持つ。


「佐久間が信濃に就いてから2か月が経とうとしていますが、

兄たちは物見のひとつも出そうとはしていません。

佐久間の足固めを傍観しております」

「佐久間が、武将を募集したり砦建造を準備している という噂はワシの耳にも入っている。

確かに、そちの兄は怠慢のそしりは免れまいな」

山県は、腕を組み考え込むように首を傾げる。


「話はわかった。だが、お前の忠誠の証として、人質を置いてゆけ」

「信繁を連れてきましょう」

「嫡男も出せ。それが条件だ」

さすがの真田昌幸も、一瞬ひるんだ様相を見せる。

だが、意を決したように、返答を返す。

「解りました。二人とも人質として差し出しましょう」



夜道を急ぐ昌幸の前に、山伏たちが集まってくる。

「いかがでしたか?」

「予定通りだ。人質が2人となれば、多少小姓が多くてもごまかせる。

うまく化けろよ」

「ははっ」

山伏たちが駆け去っていく。

「ふふふ、山県め、首を洗って待っていろよ」

昌幸の目が怪しく光る。


ゲーム内の時間経過は、リアルよりも速い。

信濃の短い夏が駆け足で過ぎていく。



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