陰陽師 ~おんみょうじ~!
学校の休み時間。
携帯端末で、今回のイベント情報を調べる。
いろんなスレが乱立していた。
『俺様攻略板』
『変なもの見つけたぞ』
『異星人みたやつ画像貼ってけ』
平安京には、異星人と検非違使が出没していた。
そして、特定の場所に行くと、魔法陣のようなものが見つかるらしい。
場所は、サーバによりランダム。
1467サーバでも、ひとつ報告が出ていたので、後で見に行ってみよう。
情報を流し読みしていくと、このイベント、プレイヤに武将を獲得させる狙いもあるらしいことがわかる。
武力キャラの佐野には、知力型の陰陽師が仲間になったと話していた。
既に2人スカウトした報告もちらほら。
能力値合計が概ね200前後なので、使える武将の大盤振る舞いだ。
さぁて、家に帰ったらログインするか。
「お館さま。残った肉、燻製にしておきましたぜ」
ログイン早々、八野が話しかけてきた。よしよし、食糧は大事だからな。
「鴨川の河原に移動するぞ。ちょっと見たいものがあるんだ」
「アユですか?」相馬が突っ込む。
それもあったな。この場合、魔法陣なんだがな。
鴨川には、人だかりが出来ていた。
みんな、例の魔法陣を見に来ているようだ。
パンッ。手を打ち合わせる音が聞こえてくる。
いや、練成陣じゃないんだから、それは無いだろ。
河原には、1mくらいの、石が取り除かれた範囲があり、魔法陣が見えている。
魔法陣の直径は30センチほど。二重円の中に竜の絵が書いてある。
掲示板に書いてあった発見報告によると、
焚火をしようとして石をどけたら、魔法陣を見つけたそうな。
「青竜……でしょうね。東方を守護する聖獣です」
相馬が解説してくれた。確かに、なんとなく青い気がする。
他のサーバからも、朱雀、玄武など、他の聖獣の報告が挙がっている。
だが、これをどうすればいいのか まではまだ報告が無い。
石を投げたり、触ってみたり、謎の呪文を唱えたり、水をぶっかけたり
集まったプレイヤたちは、いろいろと試している。
まぁ、東西南北にこういうのがありそうだ ってことが解ったんだから、一歩前進だよな。
鴨川まできたんだから、アユ食うか。
近くで釣りをしているプレイヤに断りに行く。
「ちょっと、『投網』させてもらっていいかな?
迷惑にならないように、少し下流でやるから。」
「いいぞ~。でもとりすぎるなよ?
桂川のほう、いつもならアユがいるんだが、今は居ないようだからさ」
「ありがとう」
八野にアユ採取を指示。おれはその辺に腰かけて、イベントについて考える。
何か、ひっかかるものがあるんだ。
イベント中はこのエリアから出ることができない。
ということは、あの魔法陣を動かすには、この裏平安京エリアで、
何かしらのキーアイテムが入手できるはずだ。
この裏平安京エリアがいつもと違う部分を考える。
桂川にアユが居ない。
昨日、桂川に行くつもりだったから無駄足になるところだった。
もし、イノシシに会わずに桂川行ったら、白虎の魔法陣でも見つけたかもしれないな。
白虎は西を守護する聖獣。ライオンの居ない古代中国では、虎こそが百獣の王。
たぶん、イノシシの存在も、このイベント特有のものなんだろう。
サバイバル用の「食糧」と思っていたが、それなら桂川のアユ消滅が矛盾する。
「お館さま~、アユ取れましたぜ。これから焼きますが、鱗はとりますか?」
「まかせる~」「あいよ」
鱗かぁ。古代中国では、魚を鱗族といっていたんだっけ。
それにあわせると、白虎は百獣の王ではなく、毛族の王 というべきなんだよな。
毛だらけだから毛族。ちなみに、人間は膚族。
玄武は甲族(虫)の王、朱雀は羽族の王、青竜は鱗族の王。
おや? 西に獣はいるが、魚はいない。
東に魚はいるが、獣はいない。
そういえば、裏平安京に入ってから、鳥の声を聞いた覚えがない。
以前に来たときは、どこにいっても雀がいたのに。
「おい、相馬。この平安京に来てから、鳥って見たか?」
「見ませんねぇ。イノシシが居るのですから、居てもよさそうですが、影も形もありません」
「八野!まだ鱗とってないアユをよこせ」
「お館さま、生はやめといたほうがいいですぜ?」
「違うって、ちょっとかせ」「はい」
俺の勘が正しければ、青竜の魔法陣のキーは魚(の鱗)だ!
だから、イノシシは「毛」が残ったんだ。
「ちょっとどいてくれ」
プレイヤをかきわけて、魔法陣の前に立つ。
「えい」アユを魔法陣の上に置いてみた。
アユが、ぴちぴち跳ねてる。これ、何も起こらなかったら笑いものだな。
しばらく待つと、すっとアユが消えた。
魔法陣が、鼓動するようにゆっくりと青く点滅する。
「おぉ!」「光った」「魚だと!」周りのプレイヤ達が驚く。
「八野、採ったアユ、全部持ってこい!」
追加でアユを投入していくと、鼓動はどんどん早く、光は強くなる。
きっかり100匹目を投入したところで、さらなる変化が起こった。
途中で何度諦めようと思ったことか。
みんなが助けてくれたし、『投網』漁じゃなかったら、心がくじけてたぞ。
青竜の魔法陣は、回転しながら地面ごとゆっくりとせりあがっていく。
1mくらいの高さまでせり上がったとき、既に円柱となった魔法陣から、
上空に青い光が迸った。
上空に、巨大な青竜のホログラフが映し出される。まるでDBだ。
エリアメッセージが流れた。
『我は、セイリュウ。東方を守護する聖獣。
だが、我の力は失われて久しい。
残る聖獣も蘇らせろ。さすれば、この都を元の地に戻そう』
メッセージが終わると、ホログラフも消えた。
しばらくの沈黙ののち。
「うぉぉぉぉ!誰だかしらんがGJ」
「うぷよろ!」「kwsk」「一番乗りだ!」「乙」
流れるような勢いで、エリアメッセージが乱舞する。
さっそくブラウザを立ち上げて書き込み、て、もうだれか書いてやんの。
「青竜の魔法陣、魚入れたら反応があったぞ!」
「マジか、じゃ朱雀は鳥か?」
「羅生門の赤いカラスの事だな!?」
「技術さんプリーズ。刀じゃ鳥倒せない」
「玄武って何だ?」
「虫」
「船岡山の巨大カブト虫だな。逝ってくる」
すごい反響だな。北には、巨大カブト虫なんていたんだ。
これは、4つクリアするのも時間の問題だな。
興奮して今夜は眠れそうにない。
魔法陣解放の方法は、あっという間にネットで広がり、各サーバでどんどん魔法陣が解放されていった。
4時間後、1467サーバでは目の前にある「朱雀」を残すのみとなった。
朱雀のキーアイテムを落とすのはその名の通り、赤い雀。
飛んでいるので、鉄砲か弓矢でないと倒せないうえ、小さくてすばしっこく、
さらにドロップがものすごく悪いというおまけつき。
そのため、朱雀が最後まで残ったのだ。
鳥の羽が投入され、朱雀のホログラフが現れる。
そして、例のセリフを言ったあと、消えていく。
だが、それ以上は何も起きなかった。
四聖獣は復活した!だが、その先には、まだ残る謎。
平安京の謎は解けるのか?
次回「その男、最強につき!」




