幸せガールとおじいさん
あなたの周りには幸せガール居ますか?
夜の街というものはどうしてここまで綺麗なのだろう。
私は街を見渡せる丘に設置されているベンチに座っている。
近代の街は眠らない。
それは都心に近いほど、だ。
おや?私以外にもお客さんがいるようだね。
紫色の丈の長いパーカーに黒のショートパンツを着ている少女。
フードを被っていて顔は見えない。
ふむ。私の存在には気づいていないようだね。
少女は街の夜景が一番綺麗に見える場所、腰の高さまでの柵がある崖の淵まで歩いた。
そこには私が座っているベンチとはまた少し違う形のベンチの前にゆく。
座るのかと思ったらベンチの後ろに回り、ひょいっと跳びベンチの腰掛けの上に立った。
おお、なんと身軽なお嬢さんだ。
しかし、危ないですな。
ちょっくら注意しましょうか。
私が少女に注意しようと立ち上がろうとした時だった。
少女はフードを取り、中に仕舞っていたのだろう長い黒髪を払い出した。
「おじいさん大丈夫、あたし別に自殺志願者じゃない。ただこの夜景を見にきただけ」
おや、私の存在に気づいていたのか。これは私の勘違いだったようだね。
少女の黒髪が街の光に照らされ微かに輝いている。
綺麗な黒髪を靡かせて、少女はこちらの方を向き、笑う。
「そうだ、おじいさん。少しの間私の話し相手になってよ」
少女はいきなりそんな提案を出す。私もちょうど話し相手が欲しかったところ。
「いいですよ、ちょっと待ってくださいね、そちらに向かいますから」
杖を使って、ベンチから立ち上がる。
「よっこらせ、っと」
少女はベンチから降り、こちらに駆け寄ってくる。
「おじいさん大丈夫?」
ええ、と相づちを入れて歩く。
私も歳を食ったなぁ、つい最近までは杖なんて要らんかったのに。
ベンチに到着し、街の夜景を見ながら座る。
少女は座らず、また腰掛けの上に立っていた。
ふむ、香港の夜景を100万ドルの夜景と言い表すようだけどこの夜景も負けてはおらぬよ。
「ねぇ、おじいさん。何でそんなに暗い顔をしているの?」
若い人は感受性が高いのかな?
「お嬢さんよ、私ほどの年齢になるとね、色々な経験を積んでいるから生きることに執着しなくなるんだよ。最近に至っては幸せとは何なのかすらわからなくなってきた」
見上げて少女の顔を見ると和やかに笑っていた。
「ふぅーん。そうなんだ……。おじいさんに言いたいことが出来ちゃった。それはね」
お嬢さんからは何か不思議な物を感じる。
「それは?」
私が聞き返すと少女は腰掛けからジャンプして空中で一回転したのち柵すれすれの所に私の方を向いて着地した。
「おじいさん、幸せっていうのが一体何なのかはあたしもわからないけど、幸せはこの広いようで狭くて、狭いようで広い、この世界にたっくさんあって、あたし達がそれに気づくかどうか何じゃないかな?あとはっきり言えることが一つあるよ。自分は不幸だ不幸だって思った人には幸せなんて見つけっこないよ。おじいさんには知識も経験もあるんだからたくさん幸せを見つけられるはずだよ」
…………私の中で何かがまた火が灯った。それは小さいものだけど私にとっては途轍もなく大きなものだった。
「ふふ、お嬢さんに教わるなんて私もまだまだのようだ」
と私がほんの少し目をつむって感傷に浸っていた間に少女はいなくなっていた。
つむっていた時間は一秒にも満たなかったというのに。
ふふ、ほんと不思議なお嬢さんだ。
もしかしたら、私に幸せを見つける方法を教えるために神様が遣わした天使かもしれない。
「ふう、よっこらせ、っと!」
私はベンチから立ち上がり、夜道をふらりふらりと外灯の明かりを頼りに家路へと着いた。
幸せガールに出会ってみてはどうですか?




