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▼物思いに沈む金色▼


まっすぐ向けられた瞳は、見えない鎧で守られているかのようにユウスケに感情を読むことを許さなかった。

花火大会はクライマックスを向かえ、大輪の菊が絶え間なく空に咲く。


「なんつー表情してんの」


ユウスケの眉間には皺がくっきりと浮かんでいる。フフッと、リサにしては珍しい控えめな笑みをこぼした後、真顔になって続けた。


「あの時ユウスケが答えなかったのは、仕方の無いことだと思う」


「一人で立っていられなくて、恋愛じゃなくて依存できる相手を探してたんだと思うから」


先ほどまで生暖かく感じた海風が、今は心地よく感じる。もう少しだけ風が止まない様に、心の中で見えない何かに祈る。


「だから、あたしに後ろめたいとか申し訳ないとかって心を残して甲斐甲斐しく世話するのはナシ、おわかり?」


おどけた口調で肩を竦める。その仕草は、リサが好きなハリウッド映画のキャラクターのものまねで、大学時代はよくやっていたのだ。

ユウスケは自分が考えていたよりもずっと真っ直ぐに立っているリサを見て、自分の考えが恥ずかしくなる。まさかアヤがそんなことを考えているとは思わなかったし、当の本人であるリサに指摘されるとは微塵も思わなかったのだ。

自分の愚行に言葉が出ず行動できずにいるユウスケを見かねて、リサはトンと背中を押した。


「ホラ、はやくアヤちゃんのところに行ってプロポーズでもしてくれば?」


尚も何か言い募ろうとするユウスケの背中をグイグイ押して、リサはユウスケを拒絶する。

早く、早く、風が止まないうちに。剥がれそうな鎧の中でリサの心が叫ぶ。

その必死な様子に、ユウスケは先ほどは強固だと思えたリサの見えない鎧が揺らいでいるのを感じ取った。


「サンキュ、それと、ごめんな」


頭に一回ポンと手をやって撫でる。リサが好きだったユウスケの癖。その後ユウスケはリサに目を合わせることなく、真っ直ぐにアヤの元へ向かう。

最後の最後で必死になって纏っていた鎧が剥がれて、リサは思わず叫んでいた。


「ユウスケ!!」


振り返ったユウスケの表情を、リサは歪んだ自分の視界の代わりにファインダーに収めた。

ユウスケは一瞬驚いたが、すぐに向き直るとアヤの元へ向かう。


気がつけば風は止んでいて、今日で一番綺麗な金色の菊の様な花火が空に咲いていた。


相変わらず、リサの周囲では人々が家族連れの子供が興奮したり、寄り添った恋人が感嘆したりしていたがリサはもう気にならなかった。

少しだけ、金色に染まったこの空間で一人物思いに沈みたかったから。



―――――― 物思いに沈む 金色 



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