▼複雑な再会▼
待ち合わせ場所に着くと、そこは人がごった返しているうえにすでに乗船が始まったため、なかなかメンバーを見つけることが出来なかった。
リサは携帯電話の着信履歴から、ユウに電話をする。
「もしもしユウ?今どこ?」
『リサ着いた?私たちは船の銅像の前ら辺にいるよ、まだ動いてない』
「あ、わかった、見えたよ」
『待ってるね~』
言われたとおりに銅像に目を向けると、その傍に周囲よりやや浮いた集団が見えた。
人の波を掻き分けたどり着くと、そこにはすでに四人全員が揃っていた。
「リサ~」
「ユウ~」
ユウがリサに向かって両手を広げると、リサもユウに向かって両手を広げて抱きついた。
人目も憚らずにハグをする二人はれっきとした日本人だが、こうやって抱きしめあうのが二人の間で通例となっていた。
背が高くて細身のりリサは出るところはきちんと出ているが、ロールアップの黒いカーゴパンツに七分袖グレーのパーカーとダークブラウンのショートカットが中性的な印象を与える。また、黒いグラディエーターサンダルがカッコよさを演出し、さながら宝塚の男役のようだ。
一方のユウは背は高いがリリサには一歩及ばす、肉付きは程よくグラマラス、ハッキリした目鼻立ちのドーリィフェイスは実際より幼い印象を与え、そこに黒地にマゼンダ色の大輪の芍薬が入った浴衣が合わさり、妖しい魅力を放っていた。
「お前らってタトゥみたいだな」
「ロシアの女性ユニット?」
「そうそれ」
「なに、ミツヤ先輩あたしにまでヤキモチ?」
「違うわ!!」
「呆れてるんだよ、ここ、公衆の面前デスヨお二人さん」
「あぁ、ユウスケいたんだっけ?」
「ひでぇな」
「アヤちゃんも久しぶり~、元気だった?」
自分もハグされるのでは、と身構えたアヤだったが、リサをそれを察したのか苦笑するだけだった。
「大丈夫、アヤちゃんのカレシはものすごーく嫉妬深いからハグしないよ」
「それ、俺のことか?」
「それ以外、誰がいる?」
ニヤリと笑って、リサはユウスケをからかう。ユウスケは「ひでぇ」と言いながら、リサの肩からバッグを受け取ろうと手を伸ばした。
「触らないで!!」
ユウスケに触られたら、醜い感情が伝わってしまう。
瞬間的にそう思ってしまったリサは反射的に手を払っていた。しまったとリサが気づいた時には、もう反応した後だった。
「ユウスケ、それリサちゃんの商売道具なんだから、そりゃ触らせたくないんじゃないか?」
ミツヤがやれやれといった風に、フォローを入れる。
「そうだろ?リサちゃん」
「はい。だから、ごめんね?ユウスケ」
「そうだよ、ってか、リサの荷物持つぐらいならアヤちゃんの荷物もちなさいよ!!ねぇ?」
「え?アタシですか?」
突然話を振られたアヤは驚いた顔をするが、すぐにユウスケを見上げて尋ねた。
「お願いしてもいい?」
「もちろん」
とびっきりの笑顔、という言葉が似合いそうな笑顔を見せると、ユウスケは巾着袋を受け取る。
そのまま手をつないで、動き出した列に合わせて前に進んだ。
ミツヤもユウが転ばないようにと、さりげなく背中を支えてステップを上らせている。
その後ろを、黙ってリサが続いた。
生暖かい海風が、リサの身体に纏わりついた。