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第十話:フルードVSアルカナ

一年の夏休み。静まり返った体育館に、激しい金属音と足音が響いていた。


事の経緯は単純だ。部活動の一環として創作した新魔法の試運転をするため、たまたま予約の空いていた体育館を借りたのだが、思いのほか作業が早く終わってしまったのだ。時間が余った俺とアルカナは、互いの実力を正しく把握しておきたいという想いから、模擬戦を行うことになった。

審判はエレナ先輩、怪我の手当要因としてルミナが控えている。


体育館の中頭、俺とアルカナは十メートルほどの距離を挟んで対峙した。


「……僕を楽しませてね、フルード?」

「よろしくな、アルカナ。手加減はなしだ」

「二人とも、準備はいい? ……それじゃあ、フルードVSアルカナ、模擬戦スタート!」


エレナ先輩の開始の合図と同時に、アルカナがすっと左手を前に突き出した。


「『魔力圧縮』――『ファイア』」


アルカナの固有魔法『魔力圧縮』。魔法回路の許容量を超えた高密度の魔力を力任せに流し込み、現象の威力を極限まで引き上げる力だ。原理は単純だが、その出力に限界はない。本来なら直径五十センチほどの火の玉に過ぎない初級魔法が、一瞬で直径三メートルを超える巨大な火焔の濁流と化して俺に襲いかかる。


「『水素変幻(ハイドロ・シフト)』――水よ、我を守れ!」


俺は咄嗟に厚さ七メートルにおよぶ膨大な水の壁を生成した。巨大な火焔は激しい蒸気音を上げて水の壁に衝突する。勢いは衰えたものの、大量の水を一瞬で蒸発させながら壁を突き破ってきた。威力だけでなく、熱量そのものが桁違いに跳ね上がっている。


「『速度上昇(アクセル)』」


俺は火焔の軌道上から間一瞬で跳び退いた。壁を貫通した火球は体育館の壁面に激突したが、あらかじめ施されている防護結界に阻まれ、光の波紋を広げて消滅した。


「ふふ、挨拶代わりのつもりだったけれど……結構ギリギリだったね」

「冗談じゃない、殺す気かよ。」

「次は――『魔力圧縮』、『速度上昇(アクセル)』」


突如、アルカナの姿が掻き消えた。俺の『速度上昇』とは比べ物にならない異常な初速。気付いた時には、すでに俺の懐へと踏み込んでいた。


「『水素変幻(ハイドロ・シフト)』――!」

「遅い。『魔力圧縮』――『身体強化(ビルドアップ)』」


ドガァンッ! と、重い衝撃が俺の腹部を撃ち抜いた。


「ガハッ……!?」

「……へえ。とっさに全身に氷を纏って衝撃を殺したかい。致命傷は避けたようだね」

「……痛ぇな。渾身の演技のつもりだったんだが……っ!」


俺は打ち込まれたアルカナの右腕を離さずに。


「『水素変幻(ハイドロ・シフト)』! 氷よ、こいつの腕を固めろ」

「なに……!?」


拘束されたアルカナの右手。逃げ場を奪ったところで、俺は残った左手で即座に魔法を構築した。


「中級魔法――『氷雷剣(ニヴルヘイム)』!!」


『水素変幻』で生成した氷の剣に『サンダー』の電撃を纏わせ、『形状制御』と『付与』で切れ味と強度を極限まで引き上げた即席の中級魔法。俺はその鋭利な刃をアルカナの首元へ向かって思い切り振り下ろした。

だが、アルカナの『魔力圧縮』による物理防御の前に、刃は皮膚の表面で弾かれ、深く刺さらない。


「硬すぎる……なら、これでどうだ。水素変幻(ハイドロ・シフト)』――刀身よ、水になれ!」


瞬時に刃を「水」へと状態変化させる。液体となったことで電撃の逃げ場がなくなり、超高圧の『サンダー』がアルカナの首筋から全身へと一気に駆け巡った!


「なっ……ガッ、ア……!?」


強烈な感電により、全身の筋肉が強張って動きを止めるアルカナ。


「追撃だ! 中級魔法――『氷雷拳(ヨトゥンヘイム)』!、返すぜ仕返しだ!」


電撃を纏わせた氷の拳を、アルカナの無防備な腹部へ一直線に叩き込む。

痺れで防御魔法を展開できないアルカナは、激しい衝撃とともに後方へ派手に吹き飛んだ。


◇


「……ハはッ。まさか、ここまで腕を上げているなんてね。参ったよ」


壁際で態勢を整えたアルカナが、不敵に微笑んだ。


「けどフルード……僕の出力を、君の防御で全て防ぎきれるかな?」

「『魔力圧縮』――『ファイア』! 『形状制御(コントロール)』――連射!」


アルカナの両手から、圧縮された火球が途切れることなく怒涛の如く連射される。


「『速度上昇(アクセル)』!」


俺は体育館を縦横無尽に駆け回り、猛攻を回避する。どうしても避けきれない弾道には『水素変幻』で氷や水の壁を何層も構築し、威力を削ぎ落としながら最小限の動きでかわし続けた。


「そんな風にむやみに魔法を使いまくって大丈夫かい? フルードより僕の方が元の魔力量は遥かに上だ。このままじゃ君のじり貧だよ?」


アルカナの言う通りだ。『魔力圧縮』の魔力消費量は凄まじいはずだが、それを考慮しても彼の魔力保有量は異常だ。身体検査で俺より上のBランクを叩き出しただけはある。魔力量でも、出力のコントロールでも相手が上だ。どこかで一発、起死回生の反撃に転じなければジリ貧で負ける!


俺がアルカナの隙を伺い、『水素変幻』を発動しようとしたその瞬間――。


「よそ見は感心しないな。『形状制御(コントロール)』」

「なっ……!?」


かわして後方へ消えたと思っていた火球群が、空間で曲がり、天井付近から一斉に急降下してきた。アルカナに意識を奪われた隙を完全に突かれた。


「ガハッ……! くっ……!」


頭上からの爆風に吹き飛ばされ、俺の背中が強力な防護結界にしこたま打ち付けられる。


「これで勝負あったかな。『魔力圧縮』――『ファイア』」


アルカナが再び手を掲げ、巨大な火焔を練り上げ始める。

……あんな代物、生半可な氷の壁じゃ防ぎきれない。『魔力圧縮』という質量の暴力に対抗するには、こちらも常識外れの力で押し潰すしかない。


一か八か、試してみるか。ルミナとエレナ先輩は結界の外にいる。なら、思い切りやれる。」


「『水素変幻(ハイドロ・シフト)』! 『形状制御(コントロール)』! 水よ、この空間の全てを覆い尽くせ!! そして……我を水から守れ!!」


結界の内側にある全ての水蒸気が、水へと変換する。自分の身の回りだけをわずかな水蒸気として残し、呼吸スペースを確保する。

体育館の結界内が、一瞬にして巨大な「水中」へと変貌した。


圧倒的な水圧と密度の暴力。アルカナの錬成していた巨大な火焔は、発動する間もなく一瞬で鎮火し、泡となって消えた。同時に酸素が遮断され、アルカナの表情が驚愕と苦悶に歪む。


「『魔力圧縮』――『速度上昇(アクセル)』!」


アルカナは水中を掻き分け、必死に俺へ距離を詰めようとする。だが、水中での移動と、自分の周りの水を排除して地上と同じように動ける俺とでは、速度に圧倒的な差があった。距離は一向に縮まらない。酸素を奪われたアルカナの動きが、刻一刻と鈍くなっていく。


「降参した方が身のためだぜ、両手を挙げて降参しろ、すぐに解いてやるからな」


威勢のいい口叩いたが、ぶっちゃけ今の極大魔法で俺の魔力も底をつきかけている。頼むから大人しく諦めてくれ。

だが、アルカナは諦めるどころか、両手を前に突き出してきた。


(嘘だろ……まだやる気か!?)


「中級魔法――『焦土獄炎(メルト)』『魔力圧縮』――っ」


アルカナが魔法を放った瞬間、彼を中心とした周囲の水が一気に沸騰・蒸発し、凄まじい衝撃波が水中を走った。

俺の全魔力による水中化を上回る、極限まで凝縮された「質量の暴力」。だが、完全に制御しきれていないのか、アルカナ自身の服の袖は焼き切れ、両手には痛々しい火傷が広がっていた。

爆発的な熱量によって水が蒸発し、水面が一気に膝の高さまで押し下げられる。


「……化け物かよ」

「ハァ……ハァ……。君に中級魔法が使えて、僕に使えない理由はないだろ……? けどフルード、君ももう魔力は残っていないんじゃないかい? 僕の勝ちかな」

「……そういうアルカナだって、もう魔力はカラカラだろ。最後は殴り合いで決めようぜ」


お互いにふらつく足取りで構えをとった、その時だった。


「――お前たち、何をやっている!!」


爆音のような怒声が体育館に響き渡った。

そこに立っていたのは、頭から全身ずぶ濡れになった担任の先生だった。どうやらアルカナの過剰な火力と、俺が作り出した水の圧力が合わさったことで、体育館の結界の破壊され、漏れ出た大量の水が廊下まで溢れ出していたらしい。水が膝の高さまで減ったのは、蒸発したからだけではなかったのだ。


「えーっと……これは、その……」

「魔法創作部が試運転で使うとは聞いていたが、まさか本気の模擬戦をやっていたとはな、 お前たちいい加減にしろやるなら事前にしっかり申請を出せ、結界まで打ち破りやがって」

「「すみませんでした……」」

「謝罪などいらん! この惨状を報告する報告書と、反省文を提出しろ! お前たち二人……それと、結界の外で呑気観戦していたそっちの二人もだ!」

「……ばれちゃいましたかぁ」

「本当に……すみませんでした……」


エレナ先輩とルミナも肩を落とし、四人まとめて怒られるのだった。


◇


体育館を見下ろせる、校舎二階の教室。

窓辺からその様子を静かに見下ろす二つの影があった。


「あれがBランクのアルカナと、C+のフルードか。……ふん、俺も負けていられないな。おい、今から特訓だ」

「えっ、今からですか!? 今日はもう十分すぎるほど鍛錬を積みましたが……どうか休息を!」

「冗談を言うな。俺は一刻も早く強くならねばならない。クロバキアの王子として、必ずアストロフから我が祖国を取り戻すんだ」


強い意志を宿した紺色の髪の少年――ヴァルカンは、首元の宝石を強く握りしめた。


「フルードに、アルカナ……二年の最後にある大会で、奴らと拳を交えるのが楽しみだな。行くぞ、ここに用はない」

「はい! ヴァルカン様!」

一年生編はこれで終わりです。少ないと思うと思いますが書きたいことがないので二年生編行きます。

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