未完成
掲載日:2026/05/09
先客が1名いた。
一席空けて腰を下ろす。
背の高い椅子は、足が床につかない。
皺ひとつないシャツの袖を軽く直す。
磨いた革靴の先だけが、薄暗い照明を反射していた。
「いつものを」
注文と一緒に小さく息を吐く。
マスターは小さく頷き、
メーカーズマークのロックを静かに置く。
先にチェイサーで口を湿らせる。
少しだけ酒を舐める。
隣の男は、グラスを持ったままほとんど動かない。
長い前髪が目元に落ちている。
シャツには細かい皺が残ったままだった。
氷が、静かに鳴る。
ふと隣を見る。
視線が重なった。
その目は希望に満ちた目だった。
ああ…そうか。
グラスには、長い前髪が映る。




