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クラスの氷姫と偽の恋人になったけど、最後には本物になりたい ―利用されたはずの恋は、すれ違いの果てにもう一度やり直す―  作者: ルキノア


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言葉にできない気持ち

昼休み。

教室の中は、いつも通りのざわめきに包まれていた。

凪は、自分の席で弁当を広げたまま、箸を止めていた。


(……遅い)


さっき。

「朝日奈」

と呼ばれて、陽真くんが席を立った。


恒一だった。


(……)

すぐ戻ると思っていた。

でも。


(……まだ戻ってこない)


時計を見る。

数分。

それだけなのに、妙に長く感じる。


(……何を話してるんだろう)

考えても仕方ないのに。

考えてしまう。


「……」


箸を置く。

食欲も、少しなくなっていた。


その時――


「凪」


声がした。

顔を上げる。

教室の入口に立っていたのは、雨夜鈴(あまよすず)だった。


(……鈴)

今は別のクラス。

一年の時に同じクラスだった関係。

でも、こうして時々、ふらっと顔を出す。

私の最も仲の良い同性の友達。


「珍しいね、一人?」


そう言いながら、教室に入ってくる。


「……うん」


「彼氏は?」


「……呼ばれて行った」


そう答えると、


「あー」


鈴は納得したように頷いた。


「橘でしょ」


(……)

少しだけ驚く。


「……見てたの?」


「さっき廊下でそれっぽいのをね」


軽く肩をすくめる。


「朝日奈くん、なんか一方的に言われたよ」


「……」


やっぱり。


「で」


鈴はそのまま、凪の前の席に座る。


「最近さ」


少しだけ真面目な声になる。


「橘、凪のこと気にしすぎじゃない?」


(……)

言葉に詰まる。


「前からそういうとこあったけどさ」


続ける。


「最近ちょっと、露骨だよね」


「……」


否定できない。


「今もさ」


鈴は軽く顎で廊下の方を示す。


「外で朝日奈くんとなんか話してたし」


胸が、少しだけざわつく。


「……何話してるんだろ」


小さく呟く。


「さあ」


鈴は肩をすくめる。


「でもまあ、想像つくでしょ」


「……」


つく。

ついてしまう。


「で?」


鈴が覗き込むように言う。


「気になる?」


「……」


少しだけ、間が空く。


「……うん」


正直に頷く。


「なんで?」

「彼氏だから?」


「……」


言葉が止まる。


(……なんで)

分からない。

ただ。


「……気になるから」


それしか言えなかった。

鈴はそれを聞いて、


「へぇ」


と少しだけ笑う。


「それ、ちゃんと好きなんだ?」


「……違うそうじゃなくて」


すぐに否定する。


「どういうの?」


「……」


言葉に詰まる。


(……違う)


これは。

そういう感情じゃない。


「ただ」


ゆっくり言う。


「安心してるだけ」


「……安心?」


「うん」


頷く。


「一緒にいると、楽だから」


「……」


「元カレのこともあったし」


続ける。


「今、普通に過ごせてるのが楽なだけ」


「……」


鈴は何も言わない。

ただ、じっと見ている。


「それだけ」


言い切る。


(……)

そう。

それだけ。

そう思っている。


「……ふーん」

「なんか訳ありなのかな」


鈴は小さく息を吐いた。


「じゃあさ」


少しだけ身を乗り出して、


「いなくなっても平気?」


と聞いた。


「……え」


「朝日奈くんがさ」


淡々とした声。


「いなくなっても、今と同じでいられる?」


(……)


胸の奥が、少しだけ強く鳴る。


「……それは」


言葉が出てこない。

考えたことがなかった。


でも。

想像した瞬間。

少しだけ。

胸が苦しくなる。


「……分からない」


正直に言う。

鈴はそれを聞いて、


「そっか」


とだけ言った。

でも。

その目は、全部分かっているみたいだった。


「凪ってさ」


鈴が、静かに言う。


「昔から、抱え込むよね」


「……」


「橘が何か言っても」

「自分の中で処理して終わり」

「正直それでも良いかなって去年はおもってた」

「橘が凪を見てたし、幼なじみみたいだし」


否定できない。


「でもさ」


少しだけ真剣な声になる。


「今回はそれ、やめた方がいい」


「……どうして」


「もう一人、巻き込んでるから」


その言葉が、静かに刺さる。


「朝日奈くん」


名前を出される。


「凪一人の問題じゃなくなってる」


「……」


「だから」


少しだけ優しく、


「ちゃんと見なよ」


と言った。


「自分の気持ちも」

「相手の気持ちも」


逃げられない言葉だった。


「……でも」


凪は小さく言う。


「分からない」


「……何が」


「これが、何なのか」


正直な言葉。


「安心してるだけなのか」

「それ以外なのか」


「……」


「区別がつかない」


言葉にして、初めて気づく。

自分が、曖昧なままここにいることに。

鈴は小さく息を吐く。


「まあ、いいけどさ」

「橘と元カレしか今まで異性と接してないし」

「正直私からしたらどっちも凪に近すぎたよ」


そう言って立ち上がる。


「無理に決めなくていいよ」


「……」


「でも」


少しだけ振り返って、


「逃げてると、あとで後悔するよ多分だけど」

「朝日奈くんいい人って評価されてるみたいだし」


とだけ言った。


(……)

その言葉が残る。

教室に、少しだけ静けさが戻る。


一人になる。

考える。

陽真くんのこと。

一緒にいると、楽で。

落ち着いて。

普通に話せて。

それが、なくなったら。


(……)

胸が、少しだけ締め付けられる。


「……」


でも。

すぐに首を振る。


「……違う」


小さく呟く。

これは。

そういうのじゃない。


元カレのことが終わって。

やっと普通に戻れて。

その中で。

たまたま一緒にいる相手が。

陽真くんってだけ。


そう。

それだけ。

そう思い込もうとする。

でも。

消えない。

胸の奥に残る、違和感。


(……)


その時。

教室の扉が、静かに開いた。

振り返る。

陽真くんだった。


「……待たせた」


短い一言。

でも。

ほんの少しだけ、いつもより硬い。


(……)

やっぱり。

何かあった。


「……ううん」


凪は小さく首を振る。


「今、私も友達と喋り終わったとこ」


そう言って立ち上がる。

そして。

陽真くんの隣に並ぶ。


(……)

ほんの少しだけ、距離を詰める。


でも。

その距離が。

今日は、少し遠く感じた。


理由は分からない。

でも。

ひとつだけ。


このままじゃ、ダメかもしれない。

そう思ってしまった。

まだ。

何も、分かっていないのに。

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