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クラスの氷姫と偽の恋人になったけど、最後には本物になりたい ―利用されたはずの恋は、すれ違いの果てにもう一度やり直す―  作者: ルキノア


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2/19

日常

朝の教室は、いつも少しだけ騒がしい。


その騒がしさの中で、ひときわ視線を集めている席がある。


教室の窓側、後ろから二列目。


そこに座っている女子の名前は――雪城凪(ゆきしろなぎ)


長い黒髪に、整った顔立ち。クラスの男子がよく話題にしている、美人で少し近寄りがたい女子だ。


本人は特別なことをしているわけじゃない。


ただ友達と普通に話しているだけ。


それでも、なぜか自然と目立つ。


俺はそんな様子を少しだけ見てから、視線をノートに戻した。


ここは県立青葉高校(あおばこうこう)、二年三組の教室。

四月のクラス替えから、もう一ヶ月くらいが経っていた。


最初の頃は少しよそよそしかった空気も、今ではだいぶ落ち着いている。席の近いやつ同士でグループが出来て、昼休みに一緒に飯を食うメンバーもだいたい固定されてきた。


窓から差し込む柔らかい光が机の列を照らしていて、まだ一時間目が始まる前の時間だからか、あちこちから会話が聞こえてくる。部活の話、昨日見た動画の話、テストの愚痴。内容はバラバラだけど、どこか同じ空気が流れていた。


そんな中で、俺――朝日奈陽真(あさひなはるま)は自分の席に座り、ノートを開いていた。


数学の予習。


別にやらなくても困るほどじゃない。

でも家に帰ると、なかなか机に向かう時間が取れないことが多い。


母さんは仕事で帰りが遅いし、家には中学生の妹がいる。

だから夕飯を作ったり、洗濯を回したりしていると、気づけば夜になっている。


そのせいで、こうして朝や放課後に少しずつ勉強するのが習慣になっていた。


シャーペンを走らせながら、ふと窓の外を見る。


校庭では運動部が朝練をしていた。

ボールの音と、遠くから聞こえる掛け声。


いつもと変わらない景色。

俺の高校生活も、だいたいそんな感じだ。


目立つことはない。

特別なこともない。


ただ普通に学校に来て、授業を受けて、家に帰る。

それで十分だった。


「朝から勉強とか偉くね?」


突然、横から声がした。

顔を上げると、クラスメイトの男子が俺の机を覗き込んでいた。


相澤蓮(あいざわれん)


同じクラスで、たまに話すやつだ。


「別に」


俺が答えると、蓮は苦笑いする。


「いや普通やらないって」


「家でやる時間あんまりないから」


「あー」


蓮は納得したように頷いた。


「妹いるんだっけ?」


「うん」


「中学生だよな」


「そう」


そんな話をしているとよく聞く会話が聞こえてくる。


クラスの男子がよく言っている。


「雪城って綺麗だよな」


「分かる」


「でも近寄りがたい」


その意見には、俺も少し同意していた。


綺麗だとは思う。

でも、話しかけようとは思わない。


……いや、正確には。


話しかけられない。


凪は教室の中を軽くあいさつしてから、自分の席へ向かった。

途中で女子に声をかけられて、少しだけ会話をしている。


笑ったり騒いだりするわけじゃない。

でも普通に会話はしている。


その姿を見ながら、蓮が言った。


「やっぱ美人だよな」


「……そうだな」


俺は短く答えた。


蓮はニヤッと笑う。


「朝日奈ってあんま女子の話しないよな」


「別に」


「興味ない?」


「普通」


適当に答えると、蓮は肩をすくめた。


「まあ雪城はハードル高いよな」


「そういう話じゃない」


そう言ってノートに視線を戻す。


シャーペンを動かしていると、蓮がまた話し出した。


「そういえばさ」


「うん」


「雪城の元カレの話知ってる?」


その言葉に、手が少しだけ止まる。


「元カレ?」


「うん」


蓮は声を少し潜めた。


「結構しつこいらしい」


「しつこい?」


「別れたのに、まだ学校の近く来てるって」


「……そうなんだ」


正直、初めて聞いた。


俺は何となく凪の席を見る。

本人は普通に友達と話していた。

そんな事情があるようには見えない。


「大変だよな」


蓮が言う。


「まあ…」


俺は曖昧に答えた。


チャイムが鳴る。

朝のホームルームが始まり、担任が教室に入ってくる。


いつも通りの一日。

後にこの日常が大きく変わるとは

この時はまだ、頭の片隅にもなかった。


昼休み。

俺は自分の席で弁当を広げていた。


今日は卵焼きとウインナー、それに少しだけ野菜。

朝、簡単に作ったものだ。


「やっぱ自作?」


また蓮が覗き込む。


「そう」


「すげえな」


「慣れ」


「俺コンビニばっか」


そんな話をしていると、ふと視線を感じた。

顔を上げる。

教室の反対側。


そこに雪城凪がいた。


……そして。

なぜか、こっちを見ていた。


一瞬、目が合う。

凪はすぐに視線を逸らした。


俺は少し首を傾げる。

気のせいだろうか。


「どうした?」


蓮が聞いてくる。


「いや、別に」


俺はそう答えて弁当を食べ続けた。

だけど。


その後も、何度か同じことが起きた。

授業中。

ノートを書いていると、ふと視線を感じる。

顔を上げる。

雪城凪が、こっちを見ている。

そして、目が合うと視線を逸らす。


……やっぱり気のせいじゃない。


でも、理由は分からない。

俺が何かした覚えもない。


考えても仕方ない。

そう思って、ノートに視線を戻した。


午後の授業は、少し眠くなる。

昼休みのあとというのもあるし、教室の空気がどこか緩んでいるからだろう。


教師の声を聞きながら、ノートを取る。

特別難しい授業でもない。

黒板の文字を書き写して、時々説明を聞く。それだけだ。


窓の外では、風で木の葉が揺れていた。

そんな何でもない時間が流れていく。

ふと、前の席の男子が振り返った。


「朝日奈」


「ん?」


「この問題分かった?」


ノートを指さして聞いてくる。

俺は少し身を乗り出して見た。


「ここ?」


「そう」


「この式をこう変えるだけ」


軽く説明すると、そいつは「おー」と頷いた。


「助かった」


「別に」


俺がそう答えると、また前を向いた。


特別仲がいいわけじゃない。

でも、こうやって話しかけられることはたまにある。


目立つタイプじゃないけど、クラスで浮いているわけでもない。


そんな立ち位置。

それが、俺の学校でのポジションだった。


チャイムが鳴る。

今日最後の授業が終わった。

教室の空気が一気に軽くなる。


「やっと終わったー」


「部活行くか」


「今日カラオケ行く?」


あちこちで声が上がる。

俺は鞄にノートを入れながら、今日の予定を頭の中で考えた。


今日は母さんの帰りが遅い日だったはずだ。

だから夕飯は俺が作る。

冷蔵庫に何があったか思い出す。

確か、鶏肉が残っていた。


「おい朝日奈」


蓮が声をかけてくる。


「帰るの?」


「うん」


「寄り道しない?」


「今日は無理」


「妹?」


「うん」


俺がそう言うと、蓮は笑った。


「いい兄ちゃんだな」


「普通」


「俺だったら絶対サボる」


そんな会話をしながら、俺は鞄を肩にかけた。

その時だった。


ふと視界の端に、黒い髪が映る。


雪城凪だった。


友達と話しながら席を立っている。

やっぱり目立つ。

別に騒いでいるわけでもないのに、自然と周りの視線が集まる。


男子が何人か、さりげなく見ているのも分かる。

でも本人は、そんなこと気にしていないみたいだった。

ただ普通に友達と話している。


……そういえば。


今日のことを思い出す。

何度か視線を感じた。

気のせいかもしれない。


でも。


俺は少しだけ凪の方を見た。

その瞬間。

また、目が合った。


ほんの一瞬。

凪はすぐに視線を外した。

まるで何もなかったみたいに。


「どうした?」


蓮が聞く。


「いや」


俺は首を振った。


「何でもない」


きっと気のせいだ。

そう思うことにした。


俺はそのまま教室を出る。

廊下には帰る生徒たちの声が響いていた。


階段を降りて、昇降口へ向かう。

外に出ると、夕方の空気が少しひんやりしていた。


家までは歩いて十五分くらい。

途中でスーパーに寄って、足りない食材を買う。

夕飯は照り焼きチキンにすることにした。


妹は甘い味付けが好きだから、その方が喜ぶ。

そんなことを考えながら歩く。

空は少しずつオレンジ色に染まっていた。


今日も、特に何もない一日だった。

学校に行って、授業を受けて、家に帰る。


それだけ。

でも。

なぜか、頭の片隅に残っていることがあった。


何度か目が合った、あの瞬間。


雪城凪。

クラスでも有名な、美人で少し近寄りがたい女子。

俺とは、特に接点もない。


住んでいる世界が違うような人。


だからきっと――


これからも関わることなんてない。

俺はそう思っていた。


この時までは。

初めまして。ルキノアと申します。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

こちら60話程のプロットを組んでいます!

書きたいことが増えたりして多少オーバーするかもしれませんが、ぜひお付き合い頂けると幸いです。

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