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クラスの氷姫と偽の恋人になったけど、最後には本物になりたい ―利用されたはずの恋は、すれ違いの果てにもう一度やり直す―  作者: ルキノア


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13/21

陽真のお家デート

土曜日。

駅前の待ち合わせ場所。

休日ということもあって、人通りはそれなりに多い。

俺は少し早めに来て、柱にもたれながらスマホを見ていた。


(……なんか、落ち着かないな)


理由は分かっている。

今日は、学校じゃない。

制服でもない。

ただの“外で会う”日。


しかも――


「陽真くん」


声がして、顔を上げる。

一瞬、誰か分からなかった。


「……あ」


そこに立っていたのは、雪城凪だった。

でも、いつもと違う。

黒を基調にした私服。

無駄のないシンプルなデザインなのに、やけに目を引く。


細身のパンツに、少しゆるめのトップス。

全体的に落ち着いた色合いなのに、逆にそれが凪の存在感を際立たせていた。


そして――


髪。

いつもの真っ直ぐなストレートじゃない。

軽く動きをつけたスタイル。

黒髪の毛先に入ったアッシュが、光に当たって少しだけ柔らかく見える。


「……」


言葉が出てこない。


「どうしたの」


凪が首を傾げる。


「いや……」


一度言葉を切ってから、


「雰囲気、違うな」


とだけ言う。


「そう?」


「……うん」


正直に言えば、“かなり”違う。

学校の“氷姫”とは別人みたいだった。


「変?」


「いや」


即答する。


「……普通に、いいと思う」


むしろ。

かなり。

凪は少しだけこちらを見て、


「そう」


と短く答えた。

でも。

ほんの少しだけ、表情が緩んだ気がした。


「行く?」


「……ああ」


そう返しながら、歩き出す。

(……やばいな)

さっきからずっと、意識してる。

ただの“偽恋人”のはずなのに。

もう、それだけじゃ済まない気がしていた。

 

横を歩く凪を見る。

表情はいつも通り。

でも、ほんの少しだけ周りを見ている気がした。


「……緊張してる?」


聞いてみる。


「してない」


即答だった。


「ただ」


少しだけ間を置いて、


「人の家、あまり行かないから」


と付け足す。


「……ああ」


それは、なんとなく分かる気がした。


「まあ、普通の家だよ」


「そう」


会話はそれだけ。

でも、不思議と沈黙は重くなかった。

しばらく歩いて、家の前に着く。


「ここ」


「……」


凪がじっと外観を見る。

特に大きくも小さくもない、普通の家。


「……入っていいの?」


「ここまで来てそれ言う?」


「確認」


真面目な顔で言う。


「どうぞ」


ドアを開ける。


「ただいま」


いつも通りの声。

少しして――


「おかえりー!」


元気な声が返ってきた。

バタバタと足音。

そして。


「……え?」


リビングから顔を出した妹の陽菜が、固まった。


「お兄ちゃん……誰!?」


目を見開いたまま、凪の方を見る陽菜。


その視線が、上から下までゆっくり動く。


「え、ちょっと待って」


一歩近づく。


「……スタイル良すぎない?」


遠慮ゼロ。


「足長……てか細……」


さらにまじまじと見る。


「顔小さ……え、なにこれ……」


完全に語彙が崩壊している。


「モデルじゃん」


「違う」


俺が即否定する。


「いや絶対違わない!!」


食い気味に返してくる。


「ねえちょっと待って」


凪の髪を見る。


「髪も綺麗すぎない?」

「その色なに!?めっちゃおしゃれなんだけど!」


凪は少しだけ自分の毛先を触る。


「……アッシュ入ってる」


「え、やば」

「似合いすぎでしょ……」


それから顔を見て、


「てか普通に芸能人レベルなんだけど」


目を見開いている。

そりゃそうだ。

いきなり、美人がいる。


「同級生」


とりあえずそう言う。


「同級生!?!?」


声が一段上がる。


「いやいやいや!」


陽菜がこっちに駆け寄ってくる。


ぐいっと俺の腕を引っ張る。

小声になる。


「ねえお兄ちゃん!?どういうこと!?!?」


「落ち着け」


「落ち着けないって!!」


テンションが高すぎる。


「……紹介するから」


ため息をついて、凪の方を見る。


「こっち来ていいぞ」


凪は一歩前に出る。


「雪城凪です」


ぺこりと軽く頭を下げる。

その仕草が、妙に丁寧だった。


「……」


陽菜が固まる。

数秒。


「……え、綺麗すぎない?」


正直な感想だった。


「ねえお兄ちゃん、これ同級生って嘘でしょ?」


「嘘じゃない」


「いやいやいや!」


完全にパニック状態。

凪はその様子をじっと見ていた。

そして。


「……面白い」


ぽつりと呟く。


「え?」


妹が反応する。


「反応が」


真顔で言う。


「普通だと思うけど……」


陽菜が少しだけ戸惑う。


(……こういうとこだよな)


凪のズレた感じ。

学校ではあまり出ない部分。


「とりあえず上がって」


俺が言う。


「う、うん……」


陽菜はまだ混乱したまま。

凪は靴を脱いで、きちんと揃える。

その動作が、妙に綺麗だった。


(……やっぱ育ちいいんだろうな)


そんなことを思いながら。

リビングに入る。


「座ってて」


「うん」


凪がソファに座る。

少しだけ周りを見る。

珍しそうに。

その間に、俺はキッチンへ向かう。


「何か飲む?」


「なんでもいい」


「一番困るやつな」


適当にお茶を用意する。

その横で――


「ねえお兄ちゃん」


小声で陽菜が話しかけてくる。


「……何」


「彼女?」


直球だった。


「……まあ」


少しだけ間を置いて、答える。

陽菜の目がさらに大きくなる。


「えええええ!?!?」


小声のはずなのに、全然小さくない。


「ちょ、静かにしろ」


「無理でしょ!?!?」

「だってあの人だよ!?!?」


「知ってるのか」


「有名じゃん!!氷姫!!」


やっぱりそうなるか。


「え、ちょっと待って」

「なんで!?なんでお兄ちゃん!?」


「なんでって言われてもな……」


答えに困る。


「え、マジで?」

「夢じゃない?」


「現実だ」


陽菜はしばらく固まってから――


「……やば」


とだけ呟いた。

その反応に、少しだけ笑いそうになる。

(……まあ、普通そうなるよな)

お茶を持って、リビングに戻る。

凪は静かに座っていた。

でも、ほんの少しだけ表情が柔らかい。


「どうぞ」


「ありがとう」


コップを受け取る。

その仕草も、やっぱり綺麗だった。

でも。


「……」


一口飲んでから。


「ちょっと熱い」


と真顔で言う。


(……そこは普通なんだな)


思わず少しだけ笑ってしまった。


「……で」


リビングに座ったまま、陽菜がじっとこちらを見てくる。


「本当に彼女?」


さっきよりも落ち着いた声。

でも、目はまだキラキラしている。


「そうだって言ってるだろ」


「え、ほんとに?」


「ほんとに」


何回目だこれ。

陽菜はちらっと凪を見る。

そして、もう一度俺を見る。


「……お兄ちゃん?」


「なんだよ」


「人生で一番びっくりしてる」


「大げさだな」


「大げさじゃないよ!?」


声が大きい。

凪はそのやり取りを、じっと見ていた。

そして。


「仲いいね」


ぽつりと言う。


「え、そうですか?」


陽菜が嬉しそうに反応する。


「うん」


凪は頷く。


「いいと思う」


その言い方が妙に真面目で。

陽菜が少し照れる。


(……珍しいな)


凪がこういうことを言うのは。


「ねえ雪城さん!」


「凪でいい」


即訂正。


「じゃあ凪さん!」


テンションが上がる陽菜。


「お兄ちゃんのどこがいいの!?」


「おい」


止める前に聞いた。

直球すぎる。


「……」


凪は少しだけ考える。

数秒。

そのまま、こっちを見る。


「……ちゃんとしてる」


一言だった。


「それだけ!?」


陽菜が食いつく。


「うん」


迷いなく頷く。


「……料理できるし」


ぽつりと付け足す。


「え、料理!?」


陽菜がまたこっちを見る。


「できるのは知ってるけど!」


「そこ評価されるの!?」


「いいだろ別に」


少しだけ気まずい。


「じゃあ今日もお兄ちゃんがご飯作る感じ?」


「そうなるな」


いつも通り。


「え、見ていい!?」


「邪魔しないならな」


「するわけないじゃん!」


絶対する。

そう思いながら、キッチンに向かう。

凪も少し遅れて立ち上がった。


「手伝う?」


「……できるのか?」


「……分からない」


正直すぎる。


「じゃあ見ててくれ」


「分かった」


素直に引く。

そのまま、少し離れた位置に立つ。

陽菜はその横。

完全に観客。


(……やりづらいな)


でも、いつも通りやるだけだ。

冷蔵庫を開ける。

食材を確認。


「今日は……」


軽く考えてから、手を動かす。

包丁を持つ。

野菜を切る。

フライパンを出す。

火をつける。

無駄のない動き。

いつもの流れ。


「……」


ふと視線を感じる。

横を見ると、凪がじっと見ていた。


「……どうした」


「手際いい」


素直な感想。


「慣れてるだけだ」


「すごいと思う」


真顔で言う。


(……そんなにか?)


その横で。


「ねえ凪さん」


陽菜が小声で話しかける。


「なに陽菜ちゃん?」


「お兄ちゃん、あれ普通じゃないからね?」


「そうなの?」


「うん、だいぶおかしい」


「おい」


聞こえてる。


「褒めてるの!」


本当か?

凪はもう一度、俺の方を見る。


「……いいと思う」


さっきと同じ言葉。

でも。

少しだけ、トーンが柔らかい。

(……なんだこれ)

変に意識する。


「……皿出してくれ」


「どれ?」


凪が動く。

棚を見て、少し迷う。


「上の段」


「これ?」


「そう」


皿を取る。

でも。


「……あ」


一枚、少しだけずれる。


「危な」


思わず手を伸ばす。

凪の手と、一瞬だけ触れる。


「……」


「……」


ほんの一瞬。

でも、妙に意識する。


「……ごめん」


凪が小さく言う。


「いや、大丈夫」


そのまま皿を受け取る。


(……近いな)


距離が。

さっきまでより、少しだけ。

料理が完成する。

テーブルに並べる。


「いただきます」


三人で座る。

凪が一口食べる。


「……どうだ」


少しだけ気になる。

凪は数秒考えて――


「美味しい」


と答えた。

シンプル。

でも、嘘はなさそうだった。


「ほんとに!?」


陽菜が食いつく。


「お兄ちゃんの料理うまいでしょ!」


「うん」


素直に頷く。


「毎日食べてるの羨ましい」


ぽつりと。

何気ない一言。

でも。


「……」


なぜか、少しだけ引っかかる。

その言葉。


「……」


凪は特に気にしていない様子で、また食べ始める。

その横顔を見ながら――

(……なんだろうな)

うまく言葉にできない。

でも。

少しだけ、胸の奥が温かくなる。

食事が終わる。


「ごちそうさま」


凪が言う。


「ごちそうさまー!」


陽菜も元気よく言う。


「片付けるから、そのままでいい」


立ち上がる。


「手伝う」


凪も立つ。


「いいって」


「やる」


引かない。


「……じゃあ、軽いのだけ」


「うん」


皿を運ぶ。

隣に立つ。

自然に。

その時。


「……こういうの」


凪が小さく言った。


「うん?」


「いいね」


「……何が」


「普通のやつ」


少しだけ曖昧な言い方。

でも。


「……」


なんとなく、分かる気がした。

そのまま、少しだけ静かな時間が流れる。

外の世界とは違う空気。


「……」


凪が、ふと窓の外を見る。


「……どうした」


「いや」


少しだけ間を置いて。


「こういうの、久しぶりだから」


「……そうなのか」


「うん」


それだけ。

詳しくは言わない。

 

でも――

(……誰かと、ってことか)


少しだけ、頭に引っかかる。

その感覚。

でも、深くは聞かない。

今はまだ、そこまでの距離じゃない。


「……そろそろ帰る」


凪が言う。


「送る」


「いい」


即答。


「近いから」


「……分かった」


無理にとは言わない。

玄関まで送る。

靴を履く凪。


「……ありがと」


振り返って言う。


「楽しかった」


その言葉が、少しだけ意外だった。


「……なら良かった」


短く返す。

凪は一瞬だけこちらを見て――


ほんの少しだけ、笑った。

学校では見せない表情。

それを見た瞬間。


(……ああ)

はっきりと、思った。


(やっぱり、好きだな)


言葉にはしない。

まだ、言えない。

でも。

もう誤魔化せないくらいには。

気持ちは、そっちに傾いていた。

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