第18回
ダーンがこの計略を知ったとき、すでに事は止めようがないほど動いていた。魘魅の召喚、そしてシェスタの誘拐。
互いがした算段など、この策謀自体に価値を見出せない以上、結局憶測でしかない。
町長への揺さぶりに魅魎出没のうわさを流してはいるが、この館の内でも魅魎と魅魎使いであるこの者の存在を知っているのは父とシャリド、それに自分だけだ。それが真実と考えている町の者は、ほとんどいないだろう。まさかそんなはずはない、と。
この地を7年も離れていた身では情報と呼べるだけのものも収集できず、不確かな足場で日ばかりが過ぎて、薄霧の中にいるような気分になることもあったが、これでようやく1つはっきりしたわけだ。
この者は、雇い主である父の立場が不利となることなどまるで頓着していないということが。
父が利用できる間は言い分にも耳を貸し、ある程度通すだろうが、形勢が傾けば容赦なく見捨てるだろう。いや、先の物言いからして土壇場で裏切る可能性も高い。目的が異なる以上、運命共同者と安心するにはあまりに癒着部分が希薄すぎて、曖昧だ。
「もう質問はしまいか?」
押し黙ったまま、口を開く気配も見せずまた立ち去ろうともしないダーンに、焦れたように仮面の者がつっかかってゆく。
「私がこんなくだらない問いなんぞに答えてやるのは今きりだぞ。もともとおまえは私の雇用主じゃない。あの男の息子ではあるが、立場は私と似たようなものだ。いや、やつにとって私の助力が不可欠である分、私のほうに比重があるか。
にもかかわらず、答えてやる義理もなかったのをその横柄な口ききにたえてまで相手をしてやっていたんだ。私の機嫌が良かったことに感謝しろ。本来なら相応の料金をいただくところだ。
もっとも、あの男の後ろ盾でもなければおまえごときにそうそう払える額ではないから、請求するだけ無駄なのは分かりきっているがね。
せいぜい私の慈悲深さをありがたく思うことだな」
どこまでも恩着せがましく告げる仮面の者から顔をそむけ、あらためて背を向けたダーンは、初めて感情のこもった言葉を発した。
「きさまの本意が何を目的としていようと興味はない。だがきさまは父の補助を契約でかわしたということを忘れるな。
契約を軽んじ、裏切る素振りをわずかでも見せてみろ。そのときは誓ってただではすまさん」
よくよく覚えておけ。
こけおどしではないとの鋭い殺意を視線に込めて、肩越しに仮面の者をにらみつける。
それを最後に再び歩き出したダーンの背に追いすがるように、
「おおこわいこわい。王都まで、一体何を学びに行ったのやら。
不肖の愚息めと、また父が嘆くぞ」
と、ここぞとばかりに仮面の者の嘲笑が響き渡る。
しかし、会話を終えた以上、もはや仮面の者の言葉など一切耳に入らないと言いたげに、ダーンは歩調に乱れを見せず、無反応を徹している。
そしてそのまままっすぐこの、いるだけで背筋がうすら寒くなる空間から一刻も早く抜けるべく、最短の道を進んで行ったのだった。




