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魔断の剣11 人妖の罠  作者: 46(shiro)
第3章 酷薄たる陥穽

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第12回

「当然だが、宴席の出席者たちは適当にごまかして帰らせ、目撃者にも「そんな酔っぱらいの与太話など迷惑だ、吹聴するな」とロ止めをした。

 この館内でシェスタの失踪に魅魎が関わっているということをはっきり知っている者は、あの部屋にいた者たちだけだ。

 魅魎が町中に堂々出没したなんて広まったら大混乱だし、町長やサリエルの管理能力の有無、信用問題にもなり、ガザンをますますつけ上がらせることになる。それどころじゃない問題を抱えているこちらとしては、へたにからんでこられたくなかった。


 で、5日ほど館の者は――といっても、やっぱり厳選した数人だけだけど――町中を秘密裏に捜索したんだ。


 この町にはまだまだ無人家屋がある。特に南の居住区はほとんどがそうで、閉じこめられているならその辺りが怪しいってね。でもシェスタは見つからなかった。法師に気付かれずに入ることが可能なら、出るときもそうだろう。

 俺たちの動きを読み、すでにこの町から連れ出されている可能性が高かったけど、だれもそれをあの人たちに言えなかった。みんな、あの人達が好きだし、シェスタを愛してる。彼女がこの町から消えてしまったなんて、そんなこと、だれも信じたくなかったんだろう」

「おまえも捜索に加わっていたのか?」

「ああ。宴席にも出てたしな。俺は、5カ月前からここで世話になってたんだ」


 5カ月前、と言われて、はっとなった。

 エセルもルビアで肩に大けがを負っていたのだった。

 魅魎に付けられた傷は負の気を帯びて、魅魎の目には闇夜の灯火のように目立って見えるらしい。また、中級魅魎には付け入れられる傷にもなる。ルチアのように。


 おそらくエセルの傷は、サリエルに浄化してもらったのだろう。そして、ここで療養していた。セオドアが蒼駕から受けていたように、手厚い介護を彼女から受けて……。


 その様子が浮かんできて、またもや胸に重いものがたまって気が沈む。

 なぜかは分からない。


 無言で考え込んでいるセオドアの姿に、エセルは、彼の話していることについて真面目に考えているのだと思ったのだろう。話を続けた。


 これがガザンの仕業であると言う者も、はじめはいなかった。

 ガザンは言動が派手で、町長とはとび抜けて目立って対立しているけれど、町の運営といった政務的なことで彼に不満を持ち、確執を持つ者もいないことはないし、もしかするとガザンに恩を売ろうと考えた者の犯行かもしれない。ガザンに罪をなすりつけようとしている可能性もある。

 物的証拠はおろか状況証拠ひとつない状態で、彼しかいないと犯人を限定することは、魔女狩りにつながる。みんな理性的になるべきだと町長が言い、館の者たちも納得した。


 やがて、魅魎のうわさを耳にして、こっそりとサリエルに訊きに行く者も出だしたが、彼女自身滅多なことを口にできない立場であるため、発言は控えていた。


 犯人の妨害を警戒して深夜の行動は慎み、個人行動も避け、ひたすらシェスタの無事な姿を求めて彼等は慎重に情報を収集していたのだ。


 そして、そうこうしているうちに、ガザンから宴席への招待状が送付されてきた。


「べつにそうめずらしいことじゃない。近辺の町の有力者や訪れたでかい商隊の者を招いて月イチくらいで開かれてるものだ。この館でもときどき開いてるし。

 ただ、あいつの場合、目的は成金にありがちな露出狂だけどね。自分の半生を披露し、悦に入ってその手腕を自慢する。事実それだけの事をこなしているんだから、あの男は。それがはたして陽の下で胸を張れる類いのものであるかどうかはともかくとしてもさ。


 それに、今回の宴席の理由として、王都に店をかまえた大手の商人を迎えてとあった。

 特にこれといった売りもない、こういった町じゃあそういうつきあいが大きな意味を持つ。今まで出ていたのに今回ばかり出ないというのも変だ。だから、断るわけにはいかなかった」


 心労に寝こんだ夫人の代理をサリエルが務め、エセルもついて行ったらしい。そこで、ひと騒動が起きた。


 商人に町長を紹介し、夫人の優れない体調を思いやるふりをしつつ、巧妙にガザンが夫人を貶める発言をした。

 2人の確執を知っている、大多数の賢明な招待客たちは不容易に近寄ることを避け、それぞれ話に熱中しているふりをしながら遠巻きにそのやりとりを眺めていた。

 いくら癇に障る物言いをしたといっても、まさかこの場を壊してまで怒鳴りつけることはできないし、町長自身、そういった騒ぎは好まない。

 ここ数日心の休まるときがなく、彼自身体調がおもわしくなかったこともあり、とにかくお愛想笑いで適当に受け応えをしていたらしい。


 1時間ほど経ったころか。面目も立っただろうから、そろそろ暇乞(いとまご)いをしようとエセルが切り出した折り。付き人が控えていた別室で、騒ぎが起きた。


 まさか、とエセルはそのときの自分の失態を弁護した。


 ガザン自身の開いた宴席だから面子もある。まさか、席上で何かしでかすとは思っていなかった、と。


 がらがらと椅子や机などのひっくり返る大音響が大広間まで響いてきた。

 陶器類が続けざまに割れる音までして、これはただごとではないと、騒然となり、宴は一時中断された。事の収拾に男衆の手がかり出される。


 争いの理由は、ほんのささいなことだったらしい。それこそ返答がなっていないとか目つきが気に入らないとかいった類いだ。

 普段は自重を心がける者なのだが、シェスタのこともあり、昼の捜索の疲れと一向に進展のない苛立

ちにかられて、挑発に乗ってしまったようだった。


 まず間違いなく、これもガザンの策略だっただろう。相手の男は体術をたしなんだ、ガザンの身辺警護の1人だ。そんな者がどうして客の付き人の間にいるのか?

 たとえ警備の者であったとしても、主の招待客の付き人に喧嘩をしかけるなどかなり(いぶか)しい。


 口汚く罵り、組みあう2人を引き放して事と次第を訊き出し、叱りつけるとガザンはしゃれた言葉までまじえて場をとりなした。

 それがまた、この騒ぎを予期していたようになんら動じたふうもなく、堂々とした態度で、まるで前々から用意してあったような物言いだった。招かれた客は長の側の失態を笑い、さぞかしガザンの度量に感心したことだろう。文句を言ったところでこの状況では負け惜しみかいいがかりとしかとられないのは分かりきっている。


 してやられたことを感じながらも、とにかく面目を保って帰ろうとした矢先のことだ。

 ガザンが、非礼の謝罪がてら挨拶をしたリランドに話しかけた。


『いやあ、お互い下の若い者を抑えることに苦労しますなあ。歳のせいか、すぐ侮られかける。若いころは姿を見せただけであの程度の若造など、口もきけぬほど震え上がったものでしたが。それが、今は何度言いきかせてもあのとおり。はたしてわたしの目の届かぬところで何をしておるものか、到底知れたものではありませんな。

 もっとも、わたしには息子がおりますから、わたしの目が行き届かぬ分を頼れるので、長どのよりはまだ恵まれておるというものでしょうが。


 おお、これはまたずいぶんと顔色がお悪い。先の騒動からの驚きがまだ抜けきっておられぬようで。目の下などすっかり土気色となっておりますぞ。

 いけませんな、われわれほど高齢になれば無理は禁物、養生しませんと、それこそ肝心のときに過労で倒れることになりかねませんからな。

 にしても、夫人ともどもそのように体調を崩されては特に、跡継ぎがおられぬことが心もとないでしょうなあ』


 胸の内を探るような言葉尻に、ぎくりと顔が強張った。

 この男にだけは悟られるわけにいかない。厚意の助力など到底望めないことは分かりきっている。それどころか知られたが最後、何をされるか知れたものでない。今はよけいなことにわずらわされる余裕はないのだ。


『ご心配、ありがとうございます。ですが……』


 鈍い光を放つ銀の目で下から覗き上げられ、満足な返答が返せずにいるリランドに、ここぞとばかりに声をひそめてガザンが顔を寄せていく。


『いやいや。これは要らぬ心配でしたな。あれほど神に愛でられ美と教養に富んだ女性は、都どころか国中捜してもどこにもおらぬと評判の娘御。うわさを聞き、遠く王都より足を運んで求婚する者までがあとを断たぬとか。

 そうそう、縁談がまとまったとも聞きましたぞ。お相手が上級貴族とあっては、さぞや長どのも鼻高々でしょうな。

 先日、婚約披露の宴を催されたそうで……いや、わたしもぜひ祝いにかけつけたかったのですが、あいにくその日はどうしても抜けられぬ商談でガダルの町へ行ってまして、な。

 もう1日あれば息子を向かわせることもできましたが、あれもまだ王都から戻ってはおりませなんだ。

 せめてと早馬にて若い衆に命じておいた贈り物は、無事届きましたかな?』

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