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魔断の剣11 人妖の罠  作者: 46(shiro)
第2章 宿命たる邂逅

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第25回

●2 人


 イマラをつなぎとめ、野営場と決めたのは、砂上から露出した巨大岩の群れのある平坦な岩場で、夜気を避けるには絶好の場だった。


 砂漠用固形燃料の口を割って火をおこすエセルの手慣れた作業を横目に糧食をとり出す。肉が一包みに黄色味の強い(きび)、レイティヴにシアとアミカの皮が2束ずつ、それにチェリクと呼ばれる栄養価の高い上質の飲物が1瓶。

 小瓶だが、これだけあれば2人だと1週間分にはなる。

 旅費の半分を先払いしていたということを聞いたエセルが隊長と交渉してくれたおかげで、リィアまで結構贅沢な食事の席が広げられそうだった。


 イマラの貸し出しが許されたのは、エイラスの口添えのおかげである。


「7日したらリィアへ迎えに行くよ。サキスまで一緒だ。

 約束だよ?」


 「ずいぶんなつかれたもんだな」とエセルがあとで茶化してきた。

 セオドアにしてみればそれだけのことをした覚えはないし、むしろ反対に、世話になっただけのよう

な気がするのだが、その経緯はあえて口にしなかった。


 年下の子に心配をかけさせているなどと――おそらくあの提案は、行きであんな状態になった自分がはたしてまともに帰れるかどうかの心配からだろうと、セオドアはまたもや無難な結論を出していたので――とてもじゃないが言えない。


 たしかに自分は世間知らずで世事にうといとの自覚はあるが、成人した大人だという自尊心だって、一応あるのだ。


「そら、かしてみろ」


 黙々と肉の表面を削ってカビをとりのぞいていたら、準備を終えたエセルがそう言ってきた。

 言われるままにナイフと肉を渡すと、彼女よりずっと手際よく続きを仕上げる。


「うまいな」

「そりゃ、物心ついたころからしてるからな」


 得意気に言って、エセルは小切りにしたそれを鍋に沸いた黍入りの湯の中へ次々放りこんでいった。

 持参の味付け用の香辛料をばらばら入れ、レイティヴの小袋を浮かべる。蓋をして、あとは黍が煮えるのを待つだけだ。

 噴きこぼれたり味がかたよったりしないよう、ときおり中をかきまぜるエセルの脇で、セオドアはチェリクを飲料水で割って濃度調節をしていた。

 沈殿した脂肪を溶かすため、撹拌したチェリクは、黄濁色を強めて卵黄のような元の色あいに戻る。それを、まろやかな乳白になるまで薄めるのだ。


「どうだ?」


 少量をとり、味見に渡して意見を訊く。「ちょっと薄いんじゃないか」という言葉に従ってチェリクを継ぎ足し、再び混ぜ始めたセオドアの名を、このときふと、エセルが口にした。


「なんだ?」


 応じて彼のほうに面を上げたセオドアの顔は、横髪を透けた火に赤く照らされて、きらきらと、あたかも宝石のごとく碧翠色の瞳を輝かせている。


 もしかすると、呼んだのは間違いだったのかもしれない。


 そんな考えが、何も知らないセオドアを見た瞬間、エセルの中をよぎっていた。ほんの一瞬のゆらぎ。


 知ればきっと、彼女は二度とこんなふうに自分を見ることはないだろう。

 穏やかな眼差しをしたあの瞳はやがて嫌悪に染まり、なじり、許せないと……彼を憎むかもしれない。


 だが、ある意味で、後悔だとかためらいだとかを持たない彼は、らしくないと、その考えを一蹴してしまった。

 第一、もうすでにこうしている。今さら帰れとは言えないし、言ったところで彼女も帰りはしないだろう。あのことを聞くまでは。


「呼んだだろう……?」


 ただ見つめるだけでいつまでも用件を口にしようとしないエセルに、もしや空耳ではなかったかとセオドアが疑いはじめたのを見て、エセルは急ぎ頭を回転させた。


「あ、いや。町で見つけたときから思ってたんだけどさ」


 と軽口の口火をきって、背にした岩壁に肩をつく。


「おまえ、もしかして縮んだ?」


 前はこのあたりまであったよな、と額のところで手を水平にする。

 その、声の調子だけとれば真剣なふざけ文句にセオドアはムッと眉を寄せたものの、それでも律義に膝立てて見せた。


「今度はちゃんとした砂漠用だ。前のはヒールがついていたからだ」


 分かっているくせに、どこまで意地が悪いんだ、と口内でぶつぶつぐちる。

 その横顔に、エセルはひとしきり優しい眼差しを投げかけながら、独り言のように告げた。


「そうか。そのほうがいいな」


 その言葉の柔らかさに見合った表情を、めずらしく彼はしていたのだが。

 あいにくセオドアはそれをからかいの続きであるとしてもはや目もくれようとせず、逃してしまっていた。

 そうなると承知で、むしろだからこそエセルも浮かべていたのだが。


 もし見ていたならセオドアはまたもや目を奪われ、無防備に見とれていたことだろう。

 この男にはこんな表情もできたのか……驚くほどこの上なく優しい、穏やかな表情で焚き火の炎に赤く染まった彼女を見つめながら、彼は、粥ができあがるまでのしばしの間、あの地でセオドアを待ち受ける苦難について、思いを巡らせていた。

ここまでご読了いただきまして、ありがとうございます。


今回で第2章が終わりです。

第3章が始まる前に、先日見つかった短編を公開したいと思います。


『魔断の剣12 月の夜からはじめよう』

全5~7回くらいだと思います。

『猫の瞳~』ほどではないですが、ちょっと軽めのお話。


こちらもよろしくお願いいたします。

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