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魔断の剣11 人妖の罠  作者: 46(shiro)
第2章 宿命たる邂逅

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第23回

 隊の逗留場に到着してみると、すでにほとんどの者が町へ散ってしまっていた。


 窮屈な天幕暮らしをしていた者は、町に着けば大低が清潔な寝床を求めて宿をとるものだ。サキスはあいにく宿不足から大部屋ばかりで満足に個室をとることができないということがあったから、皆ここぞとばかりに宿へ出ているのだろう。


 とはいえ、荷をそのままに隊をもぬけのからにするわけにもいかない。

 残っていたのは、隊長を含めて十数人といった程度だった。


 屋台が並び、夕食用の席が設けられ、かぐわしいにおいがたちこめている。

 そんな場であっても、さすが商売人。


紅玉(リュビ)で何かいい細工物はあるか?」


 との言葉と見せられた金のつまった袋に、ほくほく顔で食事の手を止めると荷車の荷をほどき、布の上に手早く品を広げた。


「これとこれ、それからそっちにある腕輪も見せて」


 本当にちゃんと見て選んでいるのか疑いたくなる速さでさっさと選出したのは、翡翠に紅玉の嵌まった耳飾りと腕輪を数種、そして銀細工の髪飾りだった。

 鳥をあしらったり花をあしらったりした細工物で、ひいきめなしにどれも一級の品だと売人は産出地

からはじまる決め口上を並べたて、「濃い赤をお探しなら紅瑪瑙はどうですか」と勧めてくるが、エセルはそういった売り文句を無視して次々選んでいる。


「肌の色に合わせて台座は銀として……やっぱり石は目にあわせた方がいいな。

 おい、もっと濃い翠はないのか? 暗いんじゃなくて、明るいやつ。深みのある翠だよ。違う、そんなまだらじゃない。

 竜石――があるわけないか」

「何をおっしゃいます、旦那。この輝き、この深み。魔を遠ざける強力な守り石の竜石ならずしてどうして出せましょうや」


 男の売り文句に、ふんと鼻を鳴らす。


「すかしてんじゃない。 この程度の品ならこの半値でいくらでも売ってる。第一、これが竜石としたらかなりの粗悪品だぞ。カットの形も古い。そんな物を平然とほかの品と一緒に並べるな。格が下がる」


 横柄な態度に出るところから交渉というものは始まる。

 エセルは首を振って男の妥協案をはねつけている。その手にはすでに交渉済みの三連の腕輪が握られており、口の開いた袋がまるで餌のように金をちらつかせ、膝の上に乗っていた。


 どうやら言い値で買う気はさらさらないらしいその強気な姿を離れた場所から眺めながら、そういえばあいつも商人だったな、と今さらながらにセオドアは思いだしていた。


「なかなかの商売人だな、あの男も」

「……あ。すみません」


 自分も話の途中だったことを思いだし、急ぎそちらへ向き直る。

 レンダーは気を損ねている様子もなく、同じようにエセルを見ていた。


「すっかりダラムのほうが押されている。それに目もいい。選び出すどれもがあの中では特に抜きん出た品ばかりだ」

「エセルも、商人ですから……」

 返事は、多少の後ろめたさからつぶやきとなった。

 まさか盗品専門の商人だなどと言えるはずもない。


 そりゃあ目は確かになるだろう。表の商売よりも裏のほうが厳しく、目利きが重要なのは容易に想像がつく。

 だが、それはあくまで盗品だ。他人から盗んで売りさばいているのだと思えばなんら褒められたものではない。


「商人やるよりヒモやったほうがずっと楽して儲かるんじゃないの?」


 仏頂面で至極もっともなことを言ったのはエイラスだった。

 車の荷台にまとめられた商売用絨毯の山に俯せに寝転がったまま、面白くなさそうな顔をして、やはりエセルの様子をうかがっている。


「見てごらんよ。うちの女たち、みーんなあいつに見とれてる。実際きれいだもんねっ。さっきの店でだって、盗み見てないやつのほうが少なかったし……店先を通りすぎてった者もさ、戻ってきて、立ち止まって、見惚れてた。

 あいつほんとに人間?」


 声から不機嫌さを隠そうともしない。


「何に見える」


 応えたのはレンダーだ。声に蔑っする響きがあったのを耳聡く聞きわけて、鋭いとがめの視線がエイラスへ飛ぶ。

 エイラスは逃れようとするように首を竦め、一方で、言われてはじめて気付いたとセオドアは天幕にこもった女たちへ目を向けた。

 なるほど、仕切り布の間から見える好奇の目は、全部エセルへと釘づけになっている。子を抱えた妻までが呆けたようにうっとりとした夢心地の視線を投げかけており、それと対照的に男たちは口を引き結んでにらみつけていて、なかなかにすごみがある。


 セオドアは幻聖宮で、蒼駕を筆頭としてみごとなほど美形ぞろいの魔断たちと接しているおかげでか、現実離れした『きれい』さには多少免疫があった。

 エセル自身、自分の外見に対して無頓着なせいもあって特に気にしてはいなかったのだが、彼女と違い、そういう者を目にする機会があまりない外部の者にはかなり強烈な存在感となるのだろう。


 ましてやエセルの桁はずれの美貌からつくられる、生き生きとした強い生気にあふれた表情は、見慣れているはずのセオドアすらときどき魅了しかけるのだ。当然といえば当然の視線だろう。


 セオドアも初めて会ったとき、あまりの美々しさにもしや人でないのではと疑ったりしたけれど、魔断のような人外のもの特有の威圧感は全くないし、魅魍であるならそれこそ守護結界の張られた町へ入ること自体不可能だ。

 信じがたいが、やはり人なんだろう。


 もっとも、それは人にとって付属というべきもので、真の価値というものは造作がすべてではないし、むしろエセルの場合、あの性格で十分おつりがくるというものだが。


「それで?」


 エセルから目をはなすのを待ちかまえていたように、レンダーが話の続きを促した。

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