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魔断の剣11 人妖の罠  作者: 46(shiro)
第2章 宿命たる邂逅

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第19回

 あいにくというか幸いにというか、4人がけの席は表のロータリーまで埋まっていたため、2人ずつ席を分けて座り、飲物を注文したあと。


「だからね」


 と、セオドアの疑問を見抜ききった口ぶりで、まずエセルが話の口火をきった。


「幻聖宮からリィアへのルートなんて、たかがしれてる。回るのが東のトガか南のスーレンかはともかく、絶対イルを中継するのは分かってたから、手紙が3日だろ? 幻聖宮からイルまでこの時期だと2日半で来れるし、そしたら今日か、遅くても明日にはここにくるって分かってたから、迎えに来たわけ」


 けろりとした顔でさも容易そうに言ってのける。

 行き違いになるかもしれないということを考えてない、その、なんら確証のない思いこみと勘だけの行動にはめまいすら感じて、セオドアはぐったりと半眼を閉じた。


 大体、手紙が無事届き、さらに自分がその翌日すぐに行動に出ることを確信していなければ、普通できないことだぞ、と思うが、あえて口にはしない。言ったならこの男は意気揚々自分の読みの正確さと運の良さを、誇らんばかりに並べたてるだろう。そういうやつだ。


 実際、現実としてそのとおりになっているのだから、セオドアには何も返しようがなくなる。

 エセルの思いどおりに動いていたと思うだけでも癪に障るのに、わざわざ耳にまで入れることはないだろう。


 それにしても、どうしてあそこにいたんだ? この町にいるとしても、どうやって自分を見つけるつもりだったのか。


「あ、思いあたった?」


 にちゃりん。

 セオドアの心中を読みでもしたように、すかさずエセルの言葉が入る。


「これだよ、これ」


 そう言って、得意満面胸元から出したのはなんと、セオドアの入国許可書だった。


 あっけにとられ、呆然とその手元に見入ってしまっているセオドアの前に押し出す。


「受けとっておいてあげたよ。あいにく登録するときはすれ違ったみたいだけどね」

「……本人にしか、受けとれないはずだぞ……?」


 知らないはずはないと思うが、一応訊いてみる。

 そうしたら。


「うん、でも、くれたよ。「はいどうぞ」って窓口の女の子」


 このとき、その言葉が真実であると裏付けるようにタイミングよく女給の目配せつきでテーブルに置かれた飲物は、量も飾りもエイラスたちのいるテーブルに運ばれた物とは違う、完璧にひいきと思えるものだった。


 一体どこの世界に飲物を注文して、軽食がついてくるだろう? 間違いではとの驚きも、別途料金の心配もせず、 当然とばかりに口に放りこみ、飲物に口づけるその姿に、こいつはと苦々しく思う。


 こいつはきっと、自分の外見が他人――特に異性――にどれだけ影響力を持つのか、知りつくしているのだ。

 あの口のうまさと外見に騙され、期待したあげく裏切られた者がさぞかし山のようにいるに違いない。

 抜け目ないこいつのことだから、まず書質をとられたりはしてないだろう。その2枚も3枚もある長い舌で飴と鞭をうまく使い分け、錯誤させたりしているのだ。

 その者がどんな造作でこの世に生まれてくるかは神の管轄で、本人にはどうしようもない類いに属するものだし、相手の勝手な思いこみといえばそれまでだ。


 どんな夢を見るかは本人の自由であり、ほかの者が口出しできるものじゃない。……ある程度は、だが。

 しかしそれでも悪いと思うならまだ可愛げもあるだろうに、とてもそうは思ってなさそうなのがこいつだ。


(魅魍ほどじゃないが、こいつも立派に人間の敵だな)


 そんなセオドアの内心を知ってか知らずか、飄々とエセルは先の話題をついだ。


「しかしまぁまさかと思ったんだけどさ。候補生とはいえ一応退魔師だし、退魔師の特権のひとつに、ほとんどの国で入国許可書不要があるっていうのはおまえも知ってるだろ? よもや律儀に許可とろうとするなんてね。

 自覚の足りないおまえのことだから十分あり得ると思ってたら、ほんとにそうなんだもんなぁ」


 からからから。

 軽快に笑って氷を突きこむ姿にむっとくる。


 ……この男ははたしてひとの気に障らない物言いというのをする気になるときはあるのだろうか。


 はなはだ疑問視のする問題に、セオドアは膝上で組んだ指に力をこめて怒りを静めるよう努力する。

 できない、というわけでないのはもうとうに判りきっている。自分と違ってその方面には二十も三十も長けている、達者な者なのだから。

 もし許可をとらないでいたらどうするつもりだったのか、という質問の答えも、もはや聞きたいとは思わない。こいつのことだから間違いなく何か手を考えてあるに決まっている。ひけらかしはごめんだ。


「……そろそろ用件に入ってもいいか」


 じんじん疼くこめかみに堪えながらロにしたセオドアの前、飲物に口付けながら喜々とした声でエセルが応じる返事を返す。


「なぜわたしを呼んだ」


 人付きあいをへたとする者らしい、前置きも何もない率直な一言には、 エセルもほんの少し苦い顔をして口端を歪める。


「会いたかったから」


 せっかく殊勝にも好意的に受けとられそうなことを口にしながら、その口を閉じる前に


「なんて言っても信じないだろうな、セオドアってばおかたいから」


 などと要らぬ言葉をしれっとつけ足した。


「ああそうだ、信じないとも」


 売り文句に買い言葉。まさにこのときの会話はそれだ。

 ここまで棘立てた言葉を口にすることが自分にできたのかとひそかに驚きながら、エセルの反応を待つ。

 内容如何によっては、ここですませてさっさと帰るということもできるだろう。


 気を損ねている今、翌日帰りではエセルに失礼だと思っていたことまでばからしく思えた。

 相手の厚意にどっかりあぐらを組んで横柄な口ききをするような、こんな図々しい輩を相手に誠意で接しようとしたなら、したこちらのほうが割にあわない目をこうむることになるのだ。


 そう言うも同然のセオドアのにらみに、エセルは頭を掻いて、なにやら思案しているふうな、めずらしい姿を見せたあと。


「あのさ、とりあえずこの町出てからにしない? この話題」

と言ってきた。

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