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魔断の剣11 人妖の罠  作者: 46(shiro)
序  章

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第3回

 獣のように牙を剥いて吼えた瞬間、仮面の者との境を青白い稲妻の集まりが走り抜ける。


 まともに浴びれば人の肉体など一瞬で炭化し、灰も残さず燃え尽きてしまうほどの力がこもっているのは、その道の者でなくとも十分悟れた。


 正面から向かってくるそれを、仮面の者は避けようとしない。避けきれるだけの距離がなかったこともあるが、なにより避ける気は毛頭なさそうだった。

 火花を散らして蛇のような稲妻が宙を渡る。刹那、見えない壁に触れたかのごとく稲妻はそのことごとくが空中で弾け、ぱっと陣内に散った。


 縛陣が働いたのだ。

 まさに仮面の者はこうなるのを見越していたのだろう、相手を討つことなく己の周囲に散じる力に火威が目を(すが)めるのを見て、仮面から唯一露出している目が、はっきりと嗤いを表していた。


 一体何のための陣だと思っているのか、と。


「聞け、火威よ。

 いいか? 私がそうなった場合の用意もなくこのような真似をしていると、本気で思っているのか? もしそうであるなら、おまえは相当の愚か者だが。そう、およそ、私の役にたつとも思えん」


 その言葉に、火威は細い眉をきつくしかめた。

 わざわざおまえでなくともいい。別の、もっと優れた魅魎を召喚することもできる、そう言っているのだ。


 付けている仮面のせいでその表情は全く読めないが、おそらく逆らえば本当にこの者は陣を解くだろう。途端、自分は間隙を開く間もなくこの辺り一帯に張り巡らされた法師の結界という縛に捕らえられ、駆けつけた剣士によって断たれることになる。

 その際に責任を問われない自信か、もしくはこの場より逃れきれる算段が、この者にはあるのだ。


 それがどういったものであるかまではさすがに火威にも見当がつかなかったが、たしかに人が、魅魎召喚などという大それた儀を行う前にとっておかねばならない対策ではあるだけに、それが真実である可能性は高く、火威としても納得せざるを得なかった。


 術師であるこの者を殺し、陣が消滅する瞬間にまぎれて間隙へ逃げこもうにも、彼は完壁に陣内に封じられてしまっている。先のがいい証拠だ。おそらく、よほどでない限り当初のような不意打ちもくわないだろう。


 人間などに強制召喚されたというだけでも十分屈辱なのに、縛をかけられたあげく力もふるえず消滅するなど、誇り高い魅魎にはこれ以上ない恥辱である。

 まさしく、主の顔に泥を塗る行為だ。


『……1度だけだ。1つだけ、おまえの願いをきいてやろう』

「1度か……」


 火威の屈服を意味する言葉に己の勝利を悟った仮面の者の手が陣へと伸びる。


「足らんな」

『なっ?』


 言葉と共に火威の喉に滅りこんだ指先は、素早くそこにあった、あるものをえぐり出した。


『き、さまぁっ!!』


 はじめからこれが目的だったのか、との思いにカッと両目を見開く。

 瞳の奥に炎を宿し、燃えたぎらせ、ぎりぎりと音がするほど奥歯を噛みしめて、消滅したほうがまだましだと思えるほどの(はずかし)めを与えた仮面の者を睨みつけたが、その身に触れることすらできない以上、それは何の意味もなさない行為だった。


「計画が動き出したあとでへたに反抗心を持たれては困るからな。これは、その保証がわりということだ。

 なに、この程度の力が失せたところで別段果たせないつとめではない」


 勝ち誇って口にしたのち、仮面の者はぼそぼそと声を潜めてあることをつぶやいた。


『……そんなくだらんことのために私に手を貸せ、と?』


 いまだ殺意の薄れない声で苦々しく問い返す。


「おまえがどう思おうとそれは勝手だがな。従ってもらうぞ」

『……きさまなどに捕らわれたが身の不運、か……。

 覚えおくがいい! きさま、いつか必ずこの手で生きたまま八つ裂きにしてやる!』


 忌々しげに殺意を吐き出した、その言葉が契約成立の証だった。

 もっとも、契約といえど、それは火威に絶対の隷従を強いるだけの、全く不等なものであったが。


()れ言はどうでもいい。

 さあ行け! 時間は限られている。行って、己の成すべきことをみごと果たして来い!」


 身を起こし、陣から離れた仮面の者の手が横に振り切られる。杖頭が空を薙ぐかどうかのうちに陣は再び白光し、その光の波動に乗って火威は陣内から姿を消していた。


 空の狭間(はざま)――間隙を移動する火威の気配に満足気に仮面の者が頷く。

 それとほぼ同時に配置されていた蝋燭は溶けてなくなり、1つ2つと消えて、部屋は闇に飲まれていったが、白銀の仮面だけは白くぼんやりと宙に浮いていた。


 その仮面に手をかけ、紐を緩めてはずすと白い息を吐き出し緊張を解く。


 ふと顧みたならあまりの恐怖に堪えかねて火威が現れた早々気を失った小男がカエルのようにひっくり返って倒れていた。

 もう終わったというのに一向に気付く気配のない、その不様な姿に近付くと軽く蹴る。


「ふん、小心者が」


 冷めた声で嘲るように、ぽつり、つぶやいた。

 小男はすっかりのびてしまっていて、仮面の者の己を蔑んだ行為にも目を覚まそうとしない。


 彼の黒衣を裂き、流れるまま放っておいた二の腕の傷を手早く衣の上から止血すると再び仮面をつける。

 そうして仮面の者は、事を終えた火威の戻ってくる気配を察知して再び呪術陣へと向き直ったのだった。

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