表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔断の剣11 人妖の罠  作者: 46(shiro)
エピローグ-妖獣の谷-

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/152

第3回

「あなたがそんなにもつらいのは、その女性のことが好きだったから。彼女が死んでしまったことが悲しいからよ。もう分かり合うことができないから。

 世の中には、親しい人が死んでも何とも思わない人もいる。そういう人のほうがあたしは怖いわね」



◆◆◆



 そうなんだろうか。

 すうすうと寝息をたてるライラの横で仰向けになり、幌の天井を見つめながらセオドアは考えた。


 人命は尊い。

 退魔師としての才を持って生まれた自分は、人を護らなくてはと思っていた。

 それ以外のことで何ひとつ、まともにできることがない、ということもある。特に対人関係は壊滅的で、いつも落ち込んでばかりだった。

 だけどそんな自分でも、これだけはと思えるものが与えられていたことを神に感謝して、絶対に退魔師になるのだと毎日考えていた。


 そんな自分が、人を殺してしまったことがショックだった。


 あの少女のときとは違う。今度ははっきりと、自分の手で、サリエルを殺した。

 人を護るために習った技で、人を殺してしまった。


 とうとう、たったひとつ、これだけはと思っていたことでさえ、失敗してしまった。


 そんな自分に生きる価直はない。だが自死は最もしてはならないことという教えが染みついていた。

 そんなことをしたら、ますます蒼駕たちを失望させてしまう。


 だけど死にたくて、死にたくて。

 ならば魅魎に殺してもらおうと。魅魎にズタズタにされて、喰い殺されるのが自分にふさわしい末路だと、そう考えて砂漠へ入ったのに、エイラスに見つかって拾われて。


 死ぬことにも失敗した。

 そんなことさえできず、生き続けなくてはいけないことに、さらに絶望した。


 それならばせめて、もう二度とだれにも迷惑をかけないように、できるだけだれとも関わりを持たないようにしようと思った。

 だれからも関心を持たれない、路傍の石のようになろうと。

 だからエイラスが自分を構わなくなってくれたことにほっとしていたのに……ライラが、自分を拾ってしまった。

 あきらめず、根気強く、彼女を自分と関わらせ、外の世界へ引っ張り出して、世界との関わりを再び持たせてくれた。


 朝になって、いつもように動物たちの世話をしに行くと、空になったケースがあった。

 そこには昨日まで、鶏が入っていた。昨夜の食事としてふるまわれたのだろう。


 ライラが言った。

 人も、鶏も、同じ命を持っていて。

 生きるために命を奪い合うのがこの世界では当たり前だと。


 セオドアのつらさは、その奪った命が、好きな人のものだったからだと。


 サリエルのことは好きだった。退魔師としても、人としても、尊敬できる人だと思っていた。

 そんな彼女がなぜあんなことをしてしまったのか。教えてほしかった。知りたかった。

 そして、間違っていると話し合いたかった。


 目を閉じると、あの瞬間のサリエルの姿がまぶたの闇に浮かぶ。

 腹部を貫いた剣に両手を添えて、大量の血を吐いたサリエルの、痛みに見開かれた目に映った自分……。

 あの日から、そんな彼女の姿を見なかったことは1日たりとない。動物の世話に疲れきって、泥のように眠ったあとでも、サリエルの夢を見なかったと思って彼女のことを思いだす。そうすると、あのときの彼女の姿が胸に浮かんで、死にたい気持ちになるのだ。


 とことん話し合えていたなら、結末が同じでも、こんな気持ちにならなかったのだろうか。


 分からない。彼女は死んでしまった。なぜあんなことをしたのか聞くこともできないし、話し合うこともできない。

 このどうしようもない気持ちを抱いて、自分は生きるしかない。



◆◆◆



 その夜、セオドアの荷車へやって来たライラは、明日シャイアという名の町へ到着するとの話を始めた。

 そこを経由して、その先にあるサミンの町へ行くのだと。


「サミンの町には『流れ』の退魔師を雇える組合の支所があるの。

 本当はリィアでレンダーと合流するはずだったんだけど、レンダーから伝文(つたえふみ)が来て、彼、破魔の剣をなくしたから新しく仕入れる必要があるって。それから合流するってあったの。サミンの町には支所がある関係で、破魔の剣を扱う鍛冶師の店もあるから。

 だからリィアには寄らなかったのよ」


 この隊に、今退魔師はいなかった。

 レンダーがエイラスの隊に所属することを表明していたこともある。ターヒルからリィアまで半日だから、わざわざ新しい『流れ』を雇う必要もないだろうと。

 加えてあのときエイラスはセオドアを自分の隊の者にすることを考えていたから、それ以上退魔師は必要ないと考えていたのだ。


 しかしあてがはずれてセオドアが使いものにならない今、エイラスはサミンでレンダーのほかにもう1~2名『流れ』を雇う気でいた。


(これはセオドアには内緒だけど)


 とんだ計算違いだ、余計な出費だと、むくれたエイラスのことを思いだして、ライラは背中に回した手の人差し指で十字をつくる。


 そしてセオドアはセオドアで、話を聞いて眉を寄せていた。

 レンダーと会いたくなかった。

 彼が悪いわけではない。ただ、リィアでのことを知る人とは、だれとも会いたくない。


(……シャイアで、隊を離れよう)


 シャイアで次の商隊が来るのを待って、雇ってもらえばいい。

 イマラや家畜の世話ならできるようになったし、荷運びもできる。もしその商隊で雇ってもらえなくても、ほかの町や別の商隊で仕事をもらえるかもしれない。


 ひそかにそう決めたセオドアの前。「それでね」と話を切り替えるようにライラがことさら明るい声を発した。


 その声につられるように視線を彼女に戻したセオドアの前。

 ライラは、後ろ手に隠していた、踊り子も顔を赤らめるようなきらびやかで露出の多い服を広げて見せてきた。


「はい! あした、あなたが着る服ね!」


 ……………………は?

ここまでご読了いただきまして、ありがとうございます。


なぜレンダーをリィアで拾って一緒にサミンへ行かなかったのかというと、レンダーはレンダーであの事件の調書を取られているからです。((『はぐれ』魔断だと他には知られていない)エセルと違い、レンダーはがっつりあそこで退魔しまくっていたため)


魎鬼が町を破壊したことなどから、その被害額算定のための確認・聴取もあり。

事件を起こした一味の1人であるダーンに雇用されて、していたということもあり。

それでリィアに数日滞在しなくてはならず、そこに隊を巻き込むわけにいかないので、あとから合流ということになりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ