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魔断の剣11 人妖の罠  作者: 46(shiro)
第6章 永劫たる絶望

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第28回

 セシルと百蓮が町長の館へたどり着いたとき、柵門のそばには2匹の魎鬼がいた。


 サリエルの結界は館を囲む柵門に沿って、ぐるりと円を描くように張られている。そこから先へ進むことができず、そうかといって大量の生気の輝きをあきらめることもできず、柵門の前をうろうろと歩き回っている巨人のような2匹の悪鬼に、内側の町民たちは恐々としていた。


 セシルたちの目には、遠目からもとても美しく、みごとなドーム型の結界が視えており、魎鬼ごときでは爪の先すらあの中に入ることはできないと理解できていたが、視えない一般人には分かりようがない。


「百蓮」

「はい」


 セシルの呼びかけに、百蓮は腰から彼女の剣を抜いて渡した。

 先の宣言どおり、本当に刀身化する気はないようだ。


 この態度に、魅魎を断つ魔断でありながら、魎鬼を斬られたくないというのはわがままだと叱りつける退魔師もいるだろう。だが今回、危地だと分かっていながら自分の剣を他人に与えてしまったのはセシルだ。たとえそれがしかたのない行為だったとはいえ、武器を手放すなど退魔剣士として褒められたことではない。(だからあのときレンダーも渋い顔をしたのだ)


 セシルが悪い。

 百蓮にこうされてもしかたないとセシルは納得し、黙って受け入れると彼女の剣で2匹の魎鬼を片付けた。

 2匹はすっかり結界内の人間に意識を奪われていたので、背後から不意をつくのはたやすかった。


 突然現れた少年が魎鬼をあっという間に斬りふせるのを見て、町民たちはあっけにとられた。その闘いの一部始終を見ていたのに、信じられないという様子で口をぽかんと開き、セシルを凝視している。

 彼らの前、セシルは刀身を拭って百蓮に返すと門の前に立って「開けてくれない?」と開門を促した。


「……あ、ああ。すまない」


 言われて自分の役目を思いだしたムラトはあわてて柵門を開く。

 柵門をくぐり、結界内に入ったセシルと百蓮は、彼らを遠巻きに見守る町民たちをぐるっと見回した。

 町長か法師の姿を求めたのだが、一見してそれらしい者はいないようだ。

 もうすでにやられたということも十分考えられる。


「ここの代表は? だれ?」


 ムラトに問いかける。そのとき、急ぎこちらへ走ってくる気配がして、そちらへ視線を向けると、細身で品の良い初老の男が現れた。


「申し訳ありません。裏で、けが人を診ておりました」

「あなたがここの代表?」

「はい。シエルドーア国王よりリィアの町長を仰せつかっております、リランドといいます」

「そう。僕はセシル。シエルドーア国王からこの町への配属を拝命した、上級退魔剣士だ」


 これがその配属辞令だと、腰のポーチから書類を取り出して手渡す。

 リランドは胸ポケットから眼鏡を取り出してその内容を確認すると、もう一度セシルを見た。

 彼が何を知りたがっているか承知していて、セシルも「うん」とうなずく。


「本当は、来月だったんだけどね。王都の貴族でゼネブ伯アキールさまが、婚約者が魅魎にさらわれたと、救助を要請されたんだ」

「アキールさまが!」





(なんだと!?)


 2人の会話を人々の後ろに身を隠して聞いていたガザンは、その内容に驚き、目をむいた。


 婚約披露の宴でシェスタがいなくなり、魅魎にさらわれたとのうわさが立って半月と少し。

 アキールの一行が王都へ戻り、王に願い出、拝謁を賜り、許可をいただき、隊を編成し、救助に向かう――日数的には合っている。


 しかしまさか、こんなことが起きるとは。ガザンは想像したこともなかった。


 相手の女性が黙って婚約披露の場から抜けだして、いなくなった。うわさの中には恋人と駆け落ちしたのではないかというものもあった。男なら、面目をつぶされたと考えるのが普通だろう。

 でなくとも、魅魎にさらわれたのだ。命があるかもあやしく、見つかったところでそれは『ほかの男にさらわれた女』だ。

 本当に無事だったのか? 何もされていないというのは事実か? 半月もの間……との醜聞が生涯つきまとう。

 物語でもそうだ。さらわれた姫は、救出に向かっただれとも分からない者に報償として払い下げられる。つまりは『価直がなくなった女』ということ。


 そんな女を、だれが欲しがる?


 王都の貴族なら女はよりどりみどり。掃いて捨てるほど寄ってくる。そんな人物が、よもや無価値となったシェスタにそんなに執着するとは思ってもみなかった。


(くそっ。これでは、シェスタが生きて見つかったら、ますますわしは破滅だ)


 心臓をばくばくさせながらも、ガザンは会話に耳をすませる。そしてセシルの


「僕は先遣隊だ。ここからは宮のほうが近いということで、僕の配属が早まった。

 本当は、王都からの隊と合流して明日到着予定だったんだけど、虫の知らせというか、いやな予感がしてね。外から眺めようと思って来たら、町を守護する結界がない、しかも魅魎の気配がかすかに感じ取れて、悪いけど、強硬手段に出させてもらった。

 町へ入る前に伝文を飛ばしているから、おそらく本隊ももうじき到着すると思う」


 という言葉に、心臓が止まりそうになった。いや、本当に一瞬止まったかもしれない。


 まさか……まさか王都の貴族が出てくる、そんな重大事件に発展するとは。


 こうなっては事が露見するのは秒読みだ、急いで逃げなくては身の破滅だと、その言葉ばかりが頭に渦を巻いて、ほかのことはもう何も考えられなくなっていた。


 ひとまずどこか、領地の目立たない田舎に身を隠して、そこで今回のことに役立つ王都の者を厳選し、鼻薬をかがせて、なんとかごまかすのだ……。大丈夫、まだなんとかなる。きっとなんとか……。


 全身にびっしょりと冷や汗をかいて、ガザンは息も絶え絶えによろめきながらその場を離れた。


ここまでご読了いただきまして、ありがとうございます。


セシルが町長と対等に話しているのは、性格もあるし、位的にほぼ対等でもあるし、魅魎襲撃の緊急事態時には退魔師が全権を握る、ということもあります。

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