第20回
屋根を転がり路上へ落ちて、そこで動かないシーリンのもとへ歩み寄る。
中級魅魎は命が尽きた瞬間、それまで無視してきた時間が一気に追いついたかのように塵と化すのが普通だ。
しかしシーリンは魘魅となってまだ日が浅い。その体が塵になることはなく、ただ、赤い髪に16歳という、元の姿を取り戻していた。生気を失った目も、闇の瞳ではなくなっている。
胸元まで引き寄せられた手ににぎりしめられた首飾りが、どういういわれのある物か、レンダーは知らなかった。
一見して、使われている石は深みがなく、けばげはしい地金は所々が剥げて鍍金と分かる。細かい所の処理も雑で、全体的な仕上がりも良いとは言えない。
商隊で長年過ごしてきているレンダーの目から見れば、二束三文の安物、子どものおもちゃだ。
美しさを誇る中級魅魎らしくない装飾品。
それだけに、彼女の装いの中で浮いて、目立っていた。
おそらく彼女にとってなんらかの意味があるのだろうと読んで、ああいった策に出たわけだが。
レンダーが紐を切り、首飾りが宙に飛んだ瞬間。思ったとおり彼女の目は首飾りに釘付けとなった。あの一瞬、彼女はレンダーのことも、今がどういった場かということも忘れて、ひたすらに首飾りを失うまいとした。
今も、手の中の首飾りを満足そうに見つめて死んでいる幼い少女のように見えて。レンダーは、整った息を大きく吐き出して、路上に倒れている彼女を、壁際まで寄せて座らせた。
そして、あらためて燃えている家屋や樹木を眺める。
最初に魎鬼たちが攻撃して、半壊していた家屋が一番盛大に燃えていたが、中で動く人の気配も悲鳴もなかった。この騒動にまぎれて裏口から逃げたのだろう。
通りの家屋はどれも石造りで、この辺りの区画はほとんどが中が空っぽの空き家だ。シーリンがいない今、火勢は大して広がることはないから、被害も大きくはならないはずだ。
それより、まだ2匹魎鬼がいることが問題だった。
破魔の剣が折れてしまっている状態で、魎鬼の相手をするのは難しい。
やつらは動物並の知能しかないが、侮りすぎるのは危険だと、10年に及ぶ下級退魔剣士としての日々の中、何人も仲間を失ってきたレンダーは識っていた。
空腹状態から解放されて、手当たり次第に人や動物を襲い、生気を蓄えている可能性がある。回復していれば、先ほどのやつより厄介だ。
どこまでできるか、不明だ。
しかしこのまま放置するわけにもいかないだろう。
半ばで折れた己の剣を見る。折れた先は黒ずんで、残った部分にも大きな罅が走っている。砕ける一歩手前というところか。
だが、こんな状態でもないよりはマシだと、ひとまず鞘に収める。
はたして残り2匹はどこまで行ったか。
時間がたちすぎて、もはや追えるほどの騒ぎや気配は感じられない。
だが見つける方法はあった。
やつらは生気を求める。それが大量に1つ所に集まっていれば、そちらへ向かうに違いない。
平屋家屋の平らな屋根を越えて、うっすらと白く輝いて見えるドーム型の結界。
そこに向かって、レンダーは走りだした。
ここまで読了いただきまして、ありがとうございます。
今回短くてすみません。
サリエル側まで書こうと考えていたんですが、ちょっと今リアルが忙しくて(青色申告がまだであせっています)、執筆に気が回らないというか……。
毎日投稿は続けたいと思っています。
ただ、今日はここで切らせてください。すみません。




