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魔断の剣11 人妖の罠  作者: 46(shiro)
第6章 永劫たる絶望

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第1回

●事件の発端


 セオドアたちと別れたエセルは、町長の館に向かって走っていた。


 セオドアがこの件を自分のことと考え、責任を感じているのはあきらかで、署まで一緒について行き、彼女が何と言おうと「それは違う」と否定して、ずっとそばにいてやりたかったが、彼女のためを思うなら、必要なのは一刻も早くサリエルを連れて行くことだった。


 なぜこんなことになったのか?


 腹立たしい。

 昨夜確認をとったばかりだというのに。1日もたたず、これだ。


 彼女は「させない」と答えた。「絶対、あいつの好きなようにはさせない」と。


 それをばか正直に信じたわけではない。

 彼はこれまでの経験から、どんな者であれ、ひとの言うことを100%信じたことはなかった。

 人はうそをつける生き物だし、過大評価しがちだ。本人はそのつもりでも実はそうでなかった、というのもよくあることだ。


 そしてエセルの中では、いつも最優先事項の順位付けははっきりしていた。ひとが、なぜこの程度のことに迷うのか不思議に思うほど、それは彼にとって当たり前にできることだった。



 エセルにとって今一番大切なのはセオドアで、それ以外は大して重要ではない。



 彼は魔断だから、人と同じように年をとったりできない。外見も変わらない。だから同じ場所に長く居続けることはできず、『流れ』の行商を生業として、不自然に思われずに国をまたいで移動する日々を何百年も送ってきていた。

 この大陸は人1人の人生では回りきれないほど大きいから、あちらで数年こちらで数年と過ごしたあとに戻れば数十年たっていて、代替わりが起きていて彼に気付く者もいない。


 リィアでは3年過ごした。町長家族はいい人たちで、その人たちが管理するこの町も、いい雰囲気だった。善良な人々ばかりではなかったが、それはどこも同じだし、ここはその数が少なくて過ごしやすい町だと考えていた。

 エセルは仕事柄数カ月空けるのはざらで、常にいたわけではなかったが、それでも気安く話せる友人ができたりと、居心地の良さもあって長い時間を過ごしたし、それなりに気に入ってもいた。


 そんな町で、こんな事件に巻き込まれることになってしまったのは少し残念だったが……エセルにとって、これは()()()()のことでしかなかった。


 だから「させない」と彼女が言ったときも、どうだかと思うところがなきにしもあらずだったが、特に重要視はしていなかった。

 というよりあのときは、セオドアが自分を避けていることのほうに意識が向いていて、彼女との会話など、どうでもよかったのだ。


 むしろ、サリエルが追って来たせいでセオドアを捜せないことにいら立ち、彼女がなかなか去ろうとせず、そばにいることをうとましく思ってさえいた。


 正直、彼女があんなことを言いだしたときには思いがけず驚きもしたが、それでも、これ以上セオドアを巻き込まないように、釘を刺したつもりだったのだが……。


 2カ月前起きたことについては同情する。

 そのときエセルはちょうど行商に出ていてリィアにはいなかったために、すべて終わったあとから聞いた話だが、それでも彼女がつらい思いをして、内心深く傷ついたであろうことはエセルにも理解できた。

 そんな彼女が、自分を信じてくれなかった者たちへの面当てにこんな事件を起こしたとしても不思議でないと、むしろ納得できることだった。


 なにしろ彼女は人一倍自尊心が高く、自分の優秀さを誇りとしていたから。

 外見の美しさとあいまって、傲慢と思えるほどに。


 それがサリエルの一番の魅力であり、彼女を気に入っていたところでもあった。


 それに、彼女が起こしたこの事件はエセルにとっても都合が良かった。セオドアを、あのいまいましい宮から呼び出すための恰好の口実となってくれたからだ。


 町長を交えて攻撃系退魔師の必要性について話し合い、ちょうどいい知り合いがいると言って、セオドアを呼ぶことを提案した。


 魔断のいない剣師。それはサリエルにとっても都合が良かっただろう。

 魅魎が出没したかもしれない、といったあやふやな事件ではなく、実際に魅魎――しかも魎鬼など下級魅魎でなく、その上位の中級魅魎だ――の脅威を示し、魅魎が出たならどうなるかを示した上で、それをサリエルが解決する。それで彼女の町での地位は元に戻り、尊敬を集める存在として返り咲き、彼女の傷ついた自尊心も癒やされる、といったものだ。

 ついでに彼女はガザン一味の勢力を削ぐことも考えているようだが。


 町の人々を必要以上に混乱させ、パニックを起こさせないために――そうなると状況をコントロールすることが難しくなるから――上級退魔剣士か剣師が必要だが、防衛を担当する法師よりも直接魅魎と対峙する自分たちが上位にあるという考えが、意識的か無意識的かはともかく彼らにはあって、サリエルの思ったとおりに動くとも限らない。進言を無視し、勝手に動かれて、本当に魅魎を退魔されても困る。


 サリエルは、魅魎の好きなようにさせない、と約束した。

 だからエセルも、セオドアには何もさせない、と言ったが……あれは同時に、彼女への警告でもあった。

 俺もセオドアも手を貸さない。自分が始めたことは自分で責任をもって終わらせろ、という。



 彼女が、本心では何を求めて、何を期待して、こんなことを起こしたのか。気付いていながらこんなことを言うのは残酷だろうか?



 それがどうした。俺には関係ない。


 こと、不遜さにおいて右に出る者のいないエセルは、ある意味、魅魎のように冷徹に、サリエルの希望の糸を断ち切った。彼女を突き放したのだ。崖下の暗闇へ向かって。


 サリエルは傷ついただろう。だがまさか、こんなことを起こすとは。


『この町の民のために最善をつくすことが私の義務であり、誇りであり、決めた道なの』


 昨夜、彼女はそう言った。

 3年間彼女を見てきたエセルは、その言葉は真実だと思った。

 だからこそ、2カ月前の事件で傷つき、こんな事件を起こしたりもしたが、根底の部分では変わっていないはずだと。


 なのに、これだ。

 町民が魅魎に殺された。


 自分は、そこを見誤っていたのか?

 それほどに2カ月前の事件は彼女の心を焼き焦がしてしまっていたのか?

 彼女の本当の狙いは、別にあったということか?


 それとも……これは彼女の意図しない魅魎の暴走で、彼女がコントロールを失ったとみるべきか?


 判断のつかない疑問に、いらいらと焦燥に駆られながらサリエルの行きそうな場所をあたる。

 しかし町長の館にも、彼女の法具が置かれた場所にも、彼女の姿はなかった。


「……何を考えている、サリエル」


 砂をかぶり、しばらく触れられた形跡のない法具を握り締め、エセルはつぶやいた。

ここまでご読了いただきまして、ありがとうございます。


つまりですね。エセルの中では

リィアの町(町民含む)<<<サリエル<<<<<<<<<<<<<<セオドア(頂点)

こんな感じなんですよ。

だからこんなことを起こしたサリエルに、町を巻き込んで、と腹は立たないし、好きにやれば、という感じでした。

セオドアを巻き込まない限りは、ですが。

「セオドアには何もさせない」→てめえの尻はてめえで拭け、です。

(そのあとの「~期待しちゃいない」というのは、ドアの影で盗み聞きしていたセオドアに気付いて、自分を雑に扱った彼女へのちょっとした仕返しですね。必要以上に効いちゃいましたが)



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