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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第5章 高校1年の夏休み(前半)

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再び世田谷ダンジョンに挑戦

 友恵のパーティの仲間と出会った翌朝、祥吾とクリュスはホテルで目を覚ました。2泊目なのである程度慣れてきたといえば慣れてきたと言えるだろう。ただ、祥吾の方は若干挙動不審になることがあるが。


 ともかく、前日に入った経験を踏まえた上でこの日も世田谷ダンジョンに挑戦する予定だ。もちろん必要な対策をした上である。


 朝目覚めた後、昨日の失敗を踏まえた上で祥吾は準備を進めていった。途中でクリュスが起きて同じように用意を始める。


「今朝はバスタオルを使わないのね」


「人間は常に進歩する生き物だからな。俺だって学習するんだ」


 私服を着た祥吾が得意気に語った。クリュスが苦笑いしているが知ったことではない。恥ずかしい思いをするのは1度で充分なのだ。


 部屋での準備を終えると2人は朝食のために食堂へと移る。昨日と同じビュッフェ形式の朝食だ。祥吾はやはり取り皿に料理を山のように盛り付ける。


 ほしい料理を取り終えた2人は手近なテーブルを陣取った。タッルスも皿に入れてもらったキャットフードを食べ始める。


「クリュス、一応泊まりの準備もしたが、今日で一気に行くつもりで良いんだよな?」


「行ければね。ただ、駄目だと判断しても地下10層以下だと帰るだけでも一苦労だから」


「結局進んだ方がましってことになりかねないのか。ゲームみたいに地上へ一気に戻れる転移装置なんてのがあれば良いのにな」


「そんな夢物語みたいなことを期待しても仕方ないわ。ないものはないんですもの」


「しかし、例えば地下15層くらいで判断するとなると難しいよな」


「そこまで行ったら最後まで行きたくなるものね」


 取ってきた料理を口にしながら2人は今日の予定について話し合った。主に問題が発生したときにどうするのかという確認である。現地で微妙な判断をする場合、あらかじめ方針があると判断がしやすいのだ。


 朝食が終わると部屋に戻って出発の用意をする。リュックサックを背負い、スポーツバッグを肩にかけ、武器を手に持った。タッルスはクリュスのリュックサックの中だ。


 必要な物を手にした2人はホテルを出た。日差しは強いがまだ暑く、周囲はまだ涼しい。


 探索者協会世田谷支部に到着すると2人は本部施設へと入って更衣室へと向かう。昨日と同じように着替え、不要な物はロッカーへとしまった。


 武器を肩に担いだ祥吾は男性更衣室から出ると既に待っていたクリュスに近づく。


「そっちの更衣室にあの4人はいたのか?」


「いなかったわね。まだ来ていないみたい。昨日言われたとおり、誰かが寝坊しているのかも知れないわね」


「まぁ例えやらかされても、こっちは待つしかないわけだが」


「だったら待ちましょう。とりあえず、受付カウンターに行きましょうか」


 この日一緒に行動することになっている恵里菜たち4人の姿が見えないことに2人はため息をついた。おおよそこの時間という指定はしていたのだが、守れるかは微妙だと恵里菜からあらかじめ聞いていたのだ。そして、それが現実になろうとしている。


 多少の遅れは誤差と割り切った2人は受付カウンターで現状の世田谷ダンジョンに関する情報を集めた。結果は昨日と変わらずである。


 状況が変わらないということを知って安心した2人は受付カウンターから離れた。その直後、出入口の辺りから声をかけられる。


「クリュス、おはよー!」


「クリュっち、おはよ~!」


「おはよう。2人とも朝から元気ね」


 ロビーに響く挨拶を受けたクリュスが苦笑いした。友恵と由香だ。一瞬周囲の注目を浴びたが、すぐにそのほとんどが興味をなくす。


「朝から騒がしいが、許してやってくれ。この2人、何回言っても聞かないんだ」


「おはようっす」


「元気なのは良いことだろう。辛気くさい顔をされるよりかはずっとましだよ」


「それもそうだ。その様子だと、もう準備は終わったようだな」


「受付カウンターで今日の情報も聞いてきたぞ。昨日と変わらず、だ」


「ダンジョンに異常なしか。わかった。着替えてくるからその辺りで待っていてくれ」


 恵里菜と小鳥の2人と挨拶を躱した祥吾は自分たちの現状を話した。それを受けた恵里菜が仲間の3人をまとめて女性更衣室へと向かう。


 今日の祥吾とクリュスは恵里菜たち4人と一緒に世田谷ダンジョンに入る予定だ。地下9層まで同行するのである。これにより、頭数の不足から他の探索者に狙われるという状態を回避するのだ。


 ロビーの端に寄った2人は周囲を眺めながら雑談を始める。


「あの4人を見ていると、うまくいきそうな気がするな」


「そうね。みんな良い人ばかりで安心だわ」


「しかし、また牛頭人(ミノタウロス)と戦うのか。あいつ面倒なんだよな」


「どうしたの。これから地竜(アースドラゴン)を倒そうとしている人の態度だとは思えないわね」


「そうだった。最後はそいつの相手をするんだったよな」


 守護者の部屋の相手を忘れていた祥吾が頭を抱えた。番人よりもはるかに厄介な魔物を倒す必要があるのだ。始める前から気が重い。


 そんなことを話していた2人だったが、ふと誰かが近づいて来る気配を感じ取った。そちらへと顔を向けると昨日見た男が近寄ってくるのを目にする。自己紹介で松岡勇作と名乗っていた探索者だ。その少し離れた場所に仲間らしい3人がにやにや笑いながらこちらを見ている。昨日の言動からすると、あの3人は松岡を笑っている可能性が高い。


 祥吾は小さくため息をつき、クリュスは無表情になった。それに気付いていないのか、松岡は愛想良くクリュスに声をかける。


「やぁ、おはよう。奇遇だね、こんな所で会うなんて。すごい偶然だと思わない?」


「あってほしくない偶然ね」


「またまたぁ、手厳しいなぁ、クリュスちゃんは。でも、その様子だとこれからダンジョンに入るんだよね。どうせなら一緒に入らない?」


「いらないわ。もう他の人と入る約束をしているから」


「え~、そうなの? 何とかオレたちと一緒に探索できないかな。絶対損はさせないぜ」


「名前を呼んでも良いなんて許していないわよ。祥吾、後はお願いするわ」


「嘘だろ?」


 隣でぼんやりと2人のやり取りを見ていた祥吾はまさかの丸投げに呆然とした。松岡へと目を向けると、あちらは笑顔が固まっている。


 さてどうしたものかと祥吾は考えた。異世界で生きていたときの記憶を引っぱり出してきても良さそうな対策方法はない。そもそもナンパをされたことなどなかったからだ。しかし、このまま無言で見つめ合うわけにもいかない。意を決して口を開く。


「あんた、男の隣にいる女をよく口説けるよなぁ」


「オレは自分に正直なんだ。だから、いい女だと思ったら話しかけるだけなんだよ」


「女側の迷惑は考えないのか?」


「話しかけないと始まらないだろ」


「それはその通りだが、相手の様子を見ながら話したらどうなんだ。自分の都合だけ押し付けられる側のことも考えろよ」


「最初は誰だって警戒するもんだ。でも、それを乗り越えるためには話し続けるのが一番だろ。途中で止めたらそれまでだぜ」


「そのやり方で何回成功したんだ? あんたの仲間は20回までは数えていたらしいが」


「あ?」


 相手に響くようにと祥吾がその仲間の話を持ち出すと、松岡は勢い良く振り返った。すると、例の3人は声を出さないように我慢しながら笑っている。松岡が声をかける耐えかねた3人が吹き出した。


 このせいで祥吾の周囲は混沌とする。松岡は仲間に怒り、その仲間は松岡を笑い、クリュスは祥吾の後ろで我関せずだ。祥吾はもうどうして良いのかわからない。


 そのとき、ロビーを突っ切って恵里菜たち4人がやって来た。プロテクターを身に付けた完全装備の状態だ。


 祥吾とその周囲の様子を目にした恵里菜が訝しげな目を祥吾に向ける。


「これはどうなってるんだ?」


「そこの松岡っていう男がクリュスをナンパしようとしたが失敗して、盾にされた俺が松岡と話をしていたらあの3人が松岡のことを笑い始めたんだ」


「ああなんだ、いつものことか」


「いつも?」


「あの松岡っていうクソは女好きでな、片っ端から女に声をかけることで有名なんだ」


「なんだそれ」


 手短な説明を聞いた恵里菜が状況を理解したとばかりにうなずいた。友恵たちの態度からしてもそうらしい。


「あのバカ懲りないねー」


「ほ~んと、いい加減自分がモテないって自覚したらいいのに~」


「ウザいっす」


 嫌悪感を隠そうともしない友恵たちの態度を見た祥吾は再び松岡へと目を向けた。相変わらず自分の仲間と言い合いをしている。どうやら仲は良いらしい。


 そうして今のうちにこの場を去った方が良いことに祥吾は気付いた。クリュスを始め、恵里菜たち4人にも促して建物の外に出る。


 ダンジョンに入る前から気疲れをしたことに祥吾はため息をついた。

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