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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第5章 高校1年の夏休み(前半)

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リュックサックをひったくられた探索者(後)

 ラーメン屋『胸焼け』で夕飯を食べることになった祥吾とクリュスは友恵と楽しく話をしながら豚骨ラーメンを食べていた。タッルスに触れないことを悲しむ友恵を微笑ましく思いながらも量の多いラーメンに四苦八苦する。


 そんなとき、友恵から世田谷ダンジョンについて問われたのでクリュスが今日の出来事を語った。その間も友恵は特盛りの山を突き崩し続ける。


 一見すると興味なさそうな友恵だったが、やがて考えがまとまったのかクリュスに顔を向けた。口の中のものを飲み込むとしゃべり始める。


「この世田谷ダンジョンをメインに活動するあたしらってさぁ、ほとんどが地下9層以上で活動してるんだ。このダンジョンって稼げるからそこまで下に行かなくてもいいっていうこともあるんだけど、それ以上に地下10層以下がものすごくヤバいらしいんだ」


「友恵は行ったことがないの?」


「あたしらは地下9層以上までだね。あそこの番人が倒せないから、そもそも地下10層に行けないんだ。あのクソミノ、ほんとクソだよ」


 当時のことを思い出しているらしい友恵が面白くなさそうに悪態をついた。そうして乱暴に野菜を突き崩してスープに絡めて口に入れる。


「そんでさ、それって別にあたしらだけじゃなくて、ここをメインにしてる連中は大体そうなのよ。初めて地下9層まできて自分たちなら一番下まで行けるって意気込んで、ほとんどがあのクソミノに負けて逃げて帰るんだ。大体ここまでがワンセット」


「でも、儲かるからそれでも困らない?」


「その通り! だから、世田谷ダンジョン自体は悪くないのよ。カネを稼げる上層と強さに挑戦できる下層ってあるんだから、行きたいヤツが地下10層以下に行けばいい」


「そうね。自分のやりたいようにすれば良いと思うわ」


「でしょ? あたしもそう思う。でもさ、中にはどうしようもない連中もいるのよね」


「どういうことかしら?」


「たまにさ、あのクソミノを倒して地下10層以下に行くパーティが出てくるんだけど、一部の連中がそれに嫉妬して潰しにかかるのよ。信じられる? 6人パーティに対して20人以上で襲いかかるの。バッカじゃない」


 話を聞いていた祥吾とクリュスは箸を持つ手を止めた。予想以上にひどい件を聞かされて目を見開く。そんな話はインターネット上を探してもなかった。


 箸で崩した野菜をスープの中でかき混ぜながら友恵が話を続ける。


「前にさ、もうずっと前の話なんだけど、そんなクソミノを倒したパーティがいたんだ。その中の1人があたしの兄貴みたいな人でさ、いっつもダンジョンの中で何があったのか教えてくれたんだ。だから、初めてクソミノを倒したときはそりゃもう大喜びしてたわ」


「そうでしょうね。あれは強いもの」


「あれと戦ったことがあるの?」


「横田ダンジョンでね」


「ああ、あそこのラスボスがそうだっけ。んじゃ、マジで倒したことあるの?」


「祥吾の持っているあの槍斧(ハルバード)は、そのときのドロップアイテムよ」


「マジで!?」


 今度は本当に驚いた様子の友恵がクリュスの奥に座る祥吾に目を向けた。その驚きっぷりに多少引きながらも祥吾は返答する。


「クリュスと2人で倒した証だぞ。さすがに俺1人じゃない」


「すごいじゃん! だったらここのクソミノも倒せるんだよね!」


「横田のと同じなら、いけるだろう。色が変わっていて更に強くなっていたら話は変わってくるが」


「なんだ、祥吾ってそこまで強かったんだ」


「一応褒められているんだよな?」


「素直に受け取ったら良いと思うわよ」


 微妙な表情の祥吾がクリュスに確認をすると肩をすくめられた。小馬鹿にされている様子も窺えなかったのでその言葉に従う。


 そこで3人は再び豚骨ラーメンと向き合って食事を再開した。しかし、クリュスはいよいよ限界だったらしく、しばらくすると箸を置いてラーメン鉢を祥吾の方へと移動させる。


「祥吾、あとお願いね」


「任せろ」


「それで友恵、さっきの話の続きはどうなったの? 兄みたいな人のお話」


「あー、結局そのパーティ、クソみたいな連中に襲われて5人が死んじゃったんだよ。それで、生き残った1人がそのことを教えてくれたんだ」


「なるほど、そうだったのね。で、私たちにその地下9層を突破してほしいと」


「そうそう。それで、一番下の地下19層まで行って攻略してほしいんだ」


「でも、どうして私たちなの?」


「だって、最後まで行ける自信あるんでしょ? そんで、あのクソみたいな連中を悔しがらせてほしいんだ。お前らなんて目じゃないってね」


「私たちの目的は世田谷ダンジョンを攻略することだから、ご期待に添えるかもしれないわね。ついでになるけれど、それでも良いかしら?」


「ぜーぜん構わないよ。そっか、よし、それじゃあたしもちょっと手伝うか」


「友恵が?」


「そ。あたしらのパーティは地下9層までしか行けないけど、それ以降は何とかできるんでしょ?」


「地下10層以下に探索者があまりいなければね」


「それは全然だいじょーぶ。さっきも言ったけど、地下10層以下にはほとんど人がいないし、いてもクソと違ってみんなまともだよ」


「それを聞いて安心したわ」


「ということで、ちょっとリーダーと相談しなきゃいけないけど、それでオッケーだったらあたしらのパーティで地下9層まで一緒に行ってあげるよ。どうせあたしらの狩り場はあそこだし」


 その申し出を聞いた祥吾とクリュスは顔を見合わせた。数の問題はそれで解決する。そして、地下10層以下では探索者で悩まされる心配もないという情報も得られた。非常に都合が良い。


 豚骨ラーメンを食べる祥吾の隣でクリュスが友恵に問いかける。


「あなた以外のパーティメンバーは賛成してくれるの?」


「たぶん大丈夫だと思う。みんなあのクソな連中のこと大っ嫌いだから」


「何かあったの?」


「女だからってちょっかいかけてきたと思ったら、地下9層で当たり前のように狩りをしてるのが気に入らないってバカにしてくるんだ。ほんっとうにムカつく」


「困ったお話しね」


「ホントだよ。あー、マジでムカついた。話を変えよう!」


 腹立たしげにしゃべっていた友恵が急に明るく振る舞い始めた。それを見たクリュスはそれ以上話を続けるのをやめる。


 話に区切りがついたことを知った祥吾が箸を止めた。そうして友恵に顔を向ける。


「そうだ、友恵、世田谷ダンジョンについて聞きたいことがひとつあったんだ」


「なにー?」


「今日俺たちがあそこに入って下の階層へ行くときに最短経路を使ったんだ。それで、地下1層で地下2層へ続く階段までの最短経路を通ったときに他の探索者を全然見かけなかったんだが、これの理由はわかるか? あれだけ人がいてまったく見かけなかったのが不思議でな」


「あー、あそこに行ったのかぁ。そっか、2人は初めてだもんね」


「やっぱり知っているのか」


「前のときに教えとくべきだったね、ごめん。実はさ、特に地下1層の最短経路って、初心者や他のダンジョンからやって来たパーティを襲撃する連中の狩り場になってるんだ」


「なんだと?」


「そりゃ怒るよね。あたしだって知らなかったら絶対キレてるだろうし」


「それじゃ、普段はどうやって階段まで行っているんだ?」


「慣れたパーティは別の経路を遣うんだ。人によってその経路は違うけど、最短経路をさけてるのだけは同じだね」


 まさかの理由に祥吾は真顔になった。隣のクリュスはため息をついている。どうりで誰も通らないわけだ。


 そこから興味をそそられたのか友恵が2人に襲われたことについて尋ねた。今度はクリュスが実際に会ったことを話す。


「こんなところね」


「3回も襲われたんだ。よく生きてたねー」


「あの程度で死んでいたら、地下10層以下には行けないでしょう?」


「はは、そりゃそうだ! あんなクソどもに2人がやられるわけがないか。こりゃますます下の階層に行ってもらわないとね。その話、リーダーたちにもしてあげて。絶対ウケるから。協力してくれるよ、きっと」


「それなら話しましょう」


「決まりだね。それじゃ、あたしは今から電話するわ」


 再び食べるのを中断した友恵がポケットからスマートフォンを取り出した。そうしてリーダーと呼ばれる人物と話し始める。


「祥吾、意外なところから何とかなりそうになったわね」


「そうだな。豚骨ラーメンを大量に食べた甲斐があったな」


「こうなると、地下10層以下のこともちゃんと考えておかないとね」


「ただ、どうしてもぶっつけ本番になるんだよな。友恵とその仲間に何回も頼むわけにはいかないし」


 電話をする友恵をちらりと見た祥吾が少し難しい顔をした。あまり好意に寄りかかりすぎるのは良くない。


 その後、祥吾は友恵が電話を終えるまでラーメンを食べ続けた。

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