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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第5章 高校1年の夏休み(前半)

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探索者と魔物の違い

 危うく多数の魔物を押し付けられかけた祥吾とクリュスは魔法の力でその思惑を回避することに成功した。その一部を倒したので魔石を拾い集めると更に先へと進む。続いて世田谷ダンジョンの地下3層に降りた2人は次の階段を目指して歩いた。


 ところが、この階層でも探索者に襲われてしまう。


 事の始まりは、2人の探索者が逃げてきて2人に助けを求めたことである。別の探索者に襲われたので助けてほしいということだった。自分たちもその経験を先程したばかりなので祥吾たちは承諾する。


 少し後に追っ手である4人の探索者がやって来て、助けを求めてきた探索者2人を引き渡すよう要求してきた。もちろん、祥吾とクリュスは拒否する。そこからは自然と4人対4人の戦いになる流れになりかけた。


 そこで祥吾が疑問を抱く。逃げてきた2人は明らかに前衛型なのに前に出てこないのだ。不審に思った祥吾はクリュスに2人から離れて通路の壁際に寄るよう指示をした。


 すると、それまで被害者を装っていた2人が突如としてクリュスに襲いかかろうとする。同時に追っ手の4人も祥吾に攻撃してきた。


 ぎりぎり警戒をしていた祥吾とクリュスは何とか初撃を躱すと反撃に移る。祥吾が4人を抑えているうちにクリュスが次々と相手を眠らせていったのだ。


 敵対者全員が眠りに落ちたのを確認した祥吾がため息をつく。


「やっと終わった」


「お疲れ様。今回は危なかったわね」


「クリュスの方がな。最初に逃げてきた2人、なんか怪しいと思ったんだよな」


「追いかけてきた4人と繋がっていたなんてね」


「ここじゃ人助けもおいそれとできないのか」


「そうなると今度からは見捨てないといけなくなるわね」


「今までで最悪のダンジョンだな、ここは」


 吐き捨てるように祥吾が感想を言い放った。これでは人影を見かけたら盗賊と思わなければならない。


 不快な表情を隠さなくなった祥吾にクリュスが優しく語りかける。


「それにしても、毎回降りる毎に襲われているわね、私たち」


「いくら何でも多すぎるだろう。それとも、ここじゃこれが普通なのか?」


「私に聞かれても知らないわ」


「しかし、ダンジョンの周辺の治安が悪いことは聞いていたが、中は更にひどいな」


「祥吾、このまま地下4層に降りて何もないと思う?」


「思えないな。これはちょっと厳しすぎる」


 予想以上に他の探索者から襲われた祥吾は頭を抱えた。この状態で先に進むのは危険に思える。今のところ襲ってきた探索者はすべて撃退するか回避できているが、この先もうまくいくかは不明だ。


 しばらく考え込んだ祥吾は改めてクリュスへと顔を向ける。


「一旦戻ろう。無事な今のうちに地上へ戻って、予定と作戦を練り直すべきだ」


「そうね。今回の目的は世田谷ダンジョンに慣れることだから、ある意味目的は達成しているものね」


「できれば番人の部屋で戦っておきたかったが、それは次回だな。しかしこの様子だと、野営したときにも襲われそうだな」


「確かにそうね。他の探索者たちはどうしているのかしら?」


「それは気になるよな。みんながこんな感じだったら落ち着いて活動なんてできるはずもないし」


 話をしているうちに湧いてきた別の疑問に祥吾は首を傾げた。ある意味魔物よりも厄介な探索者が多数徘徊しているダンジョンで真っ当に活動などできたものではない。


 ともかく、意見が一致したので祥吾とクリュスは地上に戻ることにした。いつまた探索者に襲われるかわからない状態なのでのんびりとはしていられないのだ。


 往きよりも慎重に、特に探索者に対して警戒しながら2人は階上を目指して歩いた。たまに人影を見かけることがあるが、魔物のときよりも緊張してしまう。


 こうして、2人は昼下がりに地上へと戻ってきた。ダンジョン内とは安心感が違う。


「ダンジョン内とは違って断然安心できるな!」


「治安の良さを実感できるわね」


「おかしいよな。ダンジョンに入る前はこの辺の治安が悪いって思っていたのに」


「基準が変わっちゃったのよ、悪い方向に」


 警戒区域を貫く道を歩きながら2人はのんびりと雑談した。周りを警戒しなくても良いというのは精神的にとても楽なことだ。すっかりだらけている。


 そんな2人は正門を通り抜けると支部の本部施設へと入った。朝ほどではないが雑然としている。ロビーを通り抜けると通路へと移り、それぞれの更衣室へと入った。


 自分が使っていたロッカーの前に立つと祥吾は鍵を開けて着替え始める。プロテクターを外し、エクスプローラースーツとインナーを脱ぎ、私服に着替えた。終わると衣類と装備をスポーツバッグに片付ける。最後に布を槍斧(ハルバード)に巻き付ける作業に取りかかった。これが一番面倒だ。


 すべて終わると祥吾は荷物を持って更衣室を出た。クリュスは既に女性更衣室の近くで立っている。


「少し遅かったわね」


「これに布を巻き付けるのに時間がかかったんだ。着替えはすぐに終わったんだけれどな」


「なるほど、こんなところに問題が潜んでいたわけね」


「大した問題じゃないよ。さて、換金しに行こうか」


「待って、その前に受付カウンターに寄るわよ。聞きたいことがあるの」


「いいぞ」


 もう急ぐ理由もない祥吾はクリュスに言葉に従った。ゆっくさっくを背負い、スポーツバッグと槍斧(ハルバード)を担いでクリュスに続く。


 2人は雑然としているロビーに出ると受付カウンターに足を向けた。幸い列のない受付嬢がいたのでそちらへと寄る。昨日対応してくれた女性だ。


 昨日と同じくクリュスが前に立つ。


「こんにちは。今朝世田谷ダンジョンに入ったんですが、それで伺いたいことがあります」


「はい、何ですか?」


「探索者が探索者を襲う場合があるので注意するようにとは聞いんですが、その回数が多すぎるように思えたんです」


「どのくらい襲われたんですか?」


「地下3層まで降りて、毎回襲われました」


 前置きを終えたクリュスは襲われた3回の事情をおおよそ説明した。物陰から襲われたり、魔物を押し付けられそうになったり、騙し討ちに遭いそうになったりと事例を示す。


 話を聞くにつれて受付嬢の表情が気の毒そうなものに変化した。そうして聞き終えた後、クリュスに問いかけてくる。


「失礼ですが、2人だけでダンジョンに入ったんですか? 他に仲間の方は?」


「いません。私たち2人だけです」


「でしたら、恐らくそのせいかと思いますよ。2人しかいない上に1人は女性なので襲われた可能性が高いです」


「えぇ、私たちってそんな理由で襲われたんですか?」


「こう言っては何ですが、魔物を襲うときと同じで、弱そうに見える者から襲うのが基本なんです。他の探索者を襲うときは」


 つまり、自分たちよりも弱い相手を獲物としか見ていないという風に祥吾は解釈した。こうなると、世田谷ダンジョンの探索者は全員が潜在的な敵であると見做さないといけない。急に難易度が跳ね上がったことに内心頭を抱えた。


 その間にも話は続く。


「お2人の場合、最低2人以上のどなたかと組むべきです。6人いると尚良いですね」


「最初に聞きたかったですね、その話」


「まさか2人だけで入るとは思っていなかったので。普通は4人から6人でパーティを組むものですから。どうして2人だけで入ったんですか?」


 珍しくクリュスが受付嬢の言葉に返答を濁した。確かに普通ではないので答えづらい質問である。


 一応知りたいことを知れた2人は受付カウンターから離れた。若干肩を落としながらロビーを歩く。


「なるほどな、人数が少ないから襲いやすいと思われたわけか」


「指摘されると確かにその通りなのよね。見た目ではわからないことだから」


「俺たちまだ高校生だもんな。大人からしたらチョロそうに見えるか」


 支部の本部施設から出た祥吾とクリュスは力なく歩いた。容赦なく夏の直射日光が降り注ぐ。クリュスは思い出したかのように日傘を差す。


「とりあえず、回収したやつを換金しに行こう」


「そうね。それから考えましょう」


 若干元気を取り戻した2人は売買施設へと入った。そうして買取店舗に直行するとすぐに手に入れた魔石を売る。今回は探索者に襲われてばかりで数は少なかった。


 2人とも換金後はフードコートに寄っておやつを買う。祥吾はお好み焼き、クリュスはクレープだ。空いた席に座って少しずつ食べる。


「頭数かぁ。これはちょっと解決が難しいな」


「神様からもらった人形で代用できたら良いんだけれど」


「気持ちはわかるが、それはやめておいた方がいい」


 祥吾も一瞬考えたことだったが、それは別の問題を引き起こしそうなので止めた。しかしそうなると、頼れる人などいない2人は立ち往生してしまう。


 おいしく感じるおやつをもそもそと食べながら2人はどうしたものかと頭を抱えた。

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