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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第5章 高校1年の夏休み(前半)

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黒岡ダンジョン再び(後)

 探索者教習の場として活用される黒岡ダンジョンは同時に新人探索者の訓練場でもある。教習を卒業してもしばらくはこのダンジョンで探索に慣れて他のダンジョンへ向かうのが一般的だ。ちなみに、探索者協会が推奨しているのは地下5層の踏破である。つまり、守護者の部屋もすべて突破してから他のダンジョンに移ることを望んでいた。


 では実際はというと、大半の探索者は地下3層での探索に慣れると大抵は他のダンジョンに移っている。理由は一言で言うと割に合わないからだ。地下4層からはそれよりも少し強い魔物が現われ、地下5層では罠が悪質化する。そのため、新人探索者に避けられるのだ。


 ところが、黒岡ダンジョンの地下5層までを突破できないと他のダンジョンでは大して通用しない。上層でうろつくのがせいぜいだ。最奥にある守護者の部屋も同様である。このラスボスに勝てない探索者は他のダンジョンの番人に勝てる可能性は低いのだ。


 だからこそ、探索者協会はこの黒岡ダンジョンでしっかり修行するように呼びかけているのだが、今のところ効果は低い。そのせいで他のダンジョンでは初心者の死傷が割と高かった。


 探索者や探索者協会はこういった問題を抱えているわけだが、それが祥吾とクリュスにも影響を与えている。もっと正確に言うのならば、この問題を2人は活用していた。祥吾の武器習熟訓練の修行場としたのである。


 地下5層を歩く2人は、地図情報に照らし合わせると守護者の部屋の近くまで来ていた。ここで多様な種類の魔物の集団6匹を倒す。


「しょせん小鬼(ゴブリン)だが、他の魔物が混じっていると面倒なことがあるな」


「後ろから見ている限りだとちゃんと扱えているように見えるけれど、どうなの?」


「最初の頃に比べたらずっと慣れたのは間違いない。ただ、思いきり振り回すとやっぱり体が少しそっちに流れるな。でも、これは体格の問題もあるからなぁ」


「ということは、魔法で身体の能力を上げたらちゃんと使えるようになるわけね」


「だと思う。さすが牛頭人(ミノタウロス)のドロップアイテムだな。脳筋武器なだけのことはある」


 手にした槍斧(ハルバード)の刃の部分を祥吾は眺めた。たまに壁にぶつけたこともあるが刃こぼれひとつしていない。魔法の武器ではないものの、結構な一品ではあった。


 休憩も兼ねた雑談を終えると2人は先に進む。スマートフォンで確認した時間は午後5時を回ったくらいだ。夕飯のことを考えるとそろそろ攻略するべきだろう。


 もはや寄り道をすることもなく、祥吾とクリュスは守護者の部屋へと向かった。かつて1度倒したことのある魔物なので怖くはない。ただ、祥吾は完全に慣れていない武器を使って今回は戦うので少し不安があるだけだ。


 それでも今後のためにと祥吾はクリュスに伝える。


「クリュス、大鬼(オーガ)は俺1人でやる」


「わかったわ。特等席で見ていてあげる」


 2人はしばらくしてひとつの扉の前で立ち止まった。クリュスが持つタブレットに表示される地図を見ると守護者の部屋の扉である。


 1度大きく深呼吸した祥吾が扉を開けた。縦横約30メートル程度の正方形の部屋の奥には、成人男性の2回り以上大きい巨漢で鋭い牙が口から覗いている鬼の姿があ見える。半裸状態で腰蓑を巻いており、大きな棍棒を右手に持っていた。大鬼(オーガ)だ。


 2人が部屋に入ると大鬼(オーガ)が叫び声を上げて猛然と突っ込んで来た。作戦も何もない。前回とまったく同じだ。


 クリュスは部屋に入るとすぐに祥吾から離れた。その様子を尻目に祥吾が前に進む。大鬼(オーガ)との距離がすぐに縮まった。


 棍棒を大きく振りかぶった大鬼(オーガ)が近づいて来ると、武器の長さを利用して祥吾が先制攻撃を仕掛ける。その振りかぶった右腕を槍斧(ハルバード)で右下から左上に切り上げたのだ。


 右腕を半ばまで切断された大鬼(オーガ)は体を右に傾けながら絶叫する。そして、前に進むことは諦めずに開いた左手を突き出してきた。


 槍斧(ハルバード)を突き出した体勢だった祥吾はそれを引きつつ、左手を下げて右手を上げてその左手をはじく。同時に1歩2歩と大きく下がり、石突きを前、刃先を後ろになるまで上半身をひねり、大鬼(オーガ)めがけて一気に振り抜いた。恐ろしい形相で尚も迫ってくる大鬼(オーガ)の首元に斧の刃が突き刺さる。その瞬間、更に下がりつつも槍斧(ハルバード)を振り下ろし、大鬼(オーガ)を引き倒した。


 右腕を半ばまで切られ、首元に致命的な一撃を受けた大鬼(オーガ)はもはや立てない。無傷の左腕を使って立ち上がろうとするがうまくいかないでいた。


 こうなると勝負ありだ。近づいた祥吾は大鬼(オーガ)の首を切断してとどめを刺す。


「私はいらなかったわね。あっさり勝ったように見えるわよ」


「体がうまく動いてくれたからな。こいつに勝てるのなら、ある程度はどうにかなる技量があるんだろう」


 倒された守護者の脇にドロップアイテムが現われた。普段よりも少し大きめの魔石と小さな角だ。


 祥吾がそれら2つを手に取って回収していると部屋の奥の壁に扉が現われた。今回の目的地はこの先にある。


 扉の前に進み出たクリュスが何事かつぶやいて取っ手を引くと扉が開いた。その向こうは通路がまっすぐ続いていたがそれほど長くはない。奥には小さな部屋があった。中央には台座があり、その上には水晶が鎮座している。


「やっとここまで来たな。しかし、神様と物のやり取りをするためだけに毎回こんなことをするっていうのは面倒だな」


「私だってそう思うわ。でも、他に方法がないんだから仕方ないでしょう」


「ダンジョンに非常用通路なんてないのか? 関係者専用通路でもいいが」


「そんな便利なものがあったら、最初に神様が教えてくださるわよ」


「だよなぁ」


 大して期待せずに尋ねた祥吾は落胆の色を見せなかった。そのまま口を閉じると淡く輝き始めた水晶にクリュスが右手でそっと触れるのを眺める。ここからは神々との対話なのでじっと待つだけだ。


 ぼんやりと少女と水晶を見ていた祥吾だったが、そういえばどんな道具を与えてもらえるのかは知らなかった。神々が創り出すものだからすごいものだろうと勝手に推測する。


 早く道具を見てみたいと気が逸ってきた祥吾に合わせたかのように、水晶から何かが出てきた。それはまるで石でできた人形のようで、右手に槍、左手に盾を持っている。手のひら程度の大きさでおもちゃの兵士と言われたらうなずける見た目だ。それが合計4つ、重なり合うようにクリュスの左の手のひらに乗っている。


 これを受け取るとクリュスは水晶から右手を離した。その直後に水晶の輝きが失われていく。


「クリュス、神様からもらう道具って、その小さい人形のことだったのか」


「そうみたいね。使い方は教わったから心配いらないわ」


「どうやって使うんだ?」


「私が念じたら大きくなって土人形(ゴーレム)のように戦ってくれるの」


「へぇ、それが大きくなるのか。どのくらい強いんだ?」


地竜(アースドラゴン)と戦えるくらいよ」


「俺は必要なんだろうか?」


「もちろん必要よ。それとも、私1人で19階層を突破させる気なの?」


「あーそうか、そうだよな。ダンジョンなんだから階層があるんだった。しかも今回は深いんだった」


「これは守護者の部屋でしか使わないつもりだから、しっかりしてよ?」


「地下10層以下から使うわけじゃないのか?」


「どの程度の難易度かにもよるわね。ただ、この守護人形(ガーディアンドール)を使うときは魔力を分け与える必要があるから、私は魔法をほとんど使えなくなるのよ」


「常時は使えないのか。もっとこう、使いやすいようにしてくれたら良いのにな、神様も」


「神様に直談判してみる? 今ならできるわよ」


「やめておく。ろくなことにならない予感しかしないからな」


 神々との対話を勧められた祥吾は力なく笑った。つまらないことで慣れないことをしても良い結果など出てくれないことはよく知っているのだ。


 そうやって笑った後、ふと思い付いたことを祥吾は口にする。


「クリュス、そういえば、俺には何もないのか? 武器とか防具とか」


「祥吾については何もおっしゃっていらっしゃらなかったわね。必要ないっていうことかしら」


「どうしてだよ。俺だって一緒に攻略するのに」


「もしかしたら、この守護人形(ガーディアンドール)は祥吾のためにもあるんじゃないかしら」


「2体ずつ分けて使えということか」


「そうかもしれないわ」


「でも、それの魔力を供給するのはクリュスなんだろう? 違うと思うなぁ」


「神様に直談判してみる? 今ならできるわよ」


 今度は右手を添えて勧められた祥吾は落ち着いた様子の水晶に目を向けた。途端に口を閉じる。どう考えても良い結果に繋がるとは思えない。


 結局、祥吾は神々に相談しないことにした。気軽に接して良い存在ではないように思えたのだ。恐れ多いというよりも得体が知れないという意味で。


 用が済んだ2人はダンジョンの核の部屋から出た。

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