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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第4章 高校の定期考査とダンジョン攻略

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1学期最大の難関、期末試験

 黒岡高等学校の期末試験が始まった。試験期間は4日間で座学の全教科の試験を受けることになる。初日は月曜日だ。週明けいきなりの試験に生徒たちの気持ちは地の底まで下がっていた。


 この日、祥吾は余裕の表情で登校する。やることは前日までにすべてやった。後はその成果を解答用紙に叩きつけるだけだ。


 やがて問題用紙と解答用紙を手に教師が入室してきた。祥吾は開いていた教科書とノートをスポーツバッグに片付ける。もう後は自分の地力を信じるだけだ。


 教室内の生徒全員が配られた用紙を前に開始の合図までじっと待つ。祥吾もその1人だ。今まで勉強していた内容を頭の中で反復する。


 教師の合図があった。試験開始と共に全員が一斉に様子を表に返す。解答用紙に名前を書くと問題へと目を移した。祥吾は真剣な顔で試験に臨む。


 祥吾はひとつずつ問題を解いていった。簡単な問題はもちろん、難易度が高い問題も解答を用紙に記入していく。たまに首をひねることもあるが、大抵は今まで勉強したことばかりが出題されていた。詰まる問題が少ないので時間に余裕ができる。自信のない解答を中心に見直していった。たまに思い出せたときなどは本当に嬉しい。


 教師の合図があった。試験終了と共に全員が息を大きく吐き出す。解答用紙が後ろから順番に回収されてひとつの試験が終わった。祥吾は座ったまま大きく背伸びをする。気持ちを切り替えると、スポーツバッグから次の教科書とノートを取り出して広げた。


 これらを何度か繰り返してその日の試験が終わる。その日最後の試験終了直後のざわめきはひときわ大きい。祥吾は全身から力を抜いた。


 そんな祥吾の元に祐介と良樹がやって来る。


「祥吾、どうだった?」


「感触としてはよかったな。8割くらいはあるんじゃないか?」


「おお、やったじゃないか、祥吾君。中間試験のときとは大違いだね」


「まったくだ。ここまで感触が変わるのは驚きだよ」


「ということは、明日以降もいけそうだな」


「そうだな。お前らのおかげだよ」


「はっはっは! 礼を言うのはまだ3日ばかり早いぜ」


 照れ隠しなのか、祐介は大げさに反応してみせた。隣では良樹が何度もうなずいている。


「さて、俺はもう帰るよ。明日の試験のために最後の確認をしておきたいからな」


「それはオレもしなきゃだな。あー、早く終わってくんねぇかなぁ」


「息が詰まりそうだよねぇ」


 帰る用意を済ませた祥吾が立ち上がると祐介と良樹も自分の席に戻っていった。帰る準備はまだ終わっていなかったらしい。


 その様子を見た祥吾は内心で肩をすくめて教室を出て行った。




 教師の合図があった。試験終了と共に全員が息を大きく吐き出す。解答用紙が後ろから順番に回収されて試験が終わった。祥吾は大きなあくびをする。1時間前まではすぐに空いているわずかな時間を次の試験勉強に費やしていたが、もうそんなことをする必要はない。試験はすべて終わったのだ。


 強大な敵をとりあえず退けた祥吾はしばらく動かなかった。これで当面は試験のことを考えなくても良いのだ。今はそれがただただ嬉しい。


 そんな祥吾を呼ぶ声があった。敦である。手招きしていた。何の用事なのかは何となくわかるので黙って立ち上がる。


「祥吾、随分と余裕の態度だな。その様子じゃ、試験の結果は期待できるのか?」


「中間試験のときよりはるかにな」


「おお、やるなぁ」


「敦はどうだったんだ? 前に勉強のコツは掴んだって言っていたが」


「前よりは点数が上がってるのは確かだぜ。そこまで大きくは上がってないかもだが」


「ということは、一応勉強の成果はあったということなんだな。良かったじゃないか」


「まぁな。ただ、もうちょいほしいんだよなぁ」


「結局どのくらいなんだ?」


「平均で70点台くらいだと思う。80点以上の教科もあるかもだが、1つか2つかな」


 考えながらしゃべる敦を祥吾は眺めた。何だかんだと言いつつも着実に成果を出しているところは評価できる。


「ということは、徳秋も似たようなものなのか」


「呼んだぁ?」


「呼んでいないがお前の話はしていたぞ。で、感触としてはどうだったんだ?」


「オレも敦と似たようなもんかなぁ。ただ、80点以上のやつはないっぽいけど」


「ということは、全教科70点台か」


「たぶんね。祥吾は?」


「どの教科も8割以上はあるはず。9割以上ある教科があったら嬉しいなという感じだな」


「えぇ何それぇ、裏切り者ぉ!」


「いつお前を裏切ったんだよ」


「だって中間試験のときは似たような点数だったじゃないかぁ」


「頑張って勉強したんだからいいじゃないか」


「それはそうなんだけどぉ、なんか納得いかないなぁ」


 なぜか徳秋が駄々をこね始めたので祥吾はため息をついた。気持ちはわからないでもないが、祥吾も努力して手に入れた結果なのだ。応じるわけにはいかなかった。


 そうやって男子が集まって試験後の感想会をしていると、香奈と睦美が寄ってくる。


「みんな、試験の結果ってどうだった?」


「オレと徳秋は前よりいい点数なのは確実だぜ。平均で70点台くらいのはずだ」


「おお~、結果出てるじゃん。いいわねぇ」


「なんだ? 香奈はダメだったのか?」


「前よりか点数が落ちたっていう意味ではね。そこまで悪いわけじゃないんだけど」


「どうしたんだよ。予想でも外れたのか?」


「ちょっと調子に乗って勉強不足だったかもしれないんだよねぇ。中間試験のときと同じようにみんなに教えまくってたら、自分の勉強する時間が足りなくなってさ」


「なんだぞれ。でも、教えられるくらいには知ってたってことだろ?」


「わかるところはね。わからないところを後回しにしたツケってやつ? これがちょっとあって」


 ばつが悪そうに笑う香奈が自分の頭を軽く叩いた。話を聞くに、今回は他人に振り回されすぎたようだ。


 隣では睦美が徳秋と話をしている。


「睦美は今回の試験はどうだったの?」


「香奈と同じくらいかな~。え~っと、70点から80点くらい?」


「それじゃオレたちと似たようなものなんだね。あれ? それって中間試験と同じくらいじゃないの?」


「そうだよ~。香奈もあたしも何点か落ちたっぽいけど、そんなに変わらないと思う~」


「へぇ、その割に香奈はちょっとしょんぼりしてるよね」


「次は80点突破だ~って意気込んでたからだと思うな~」


「ああなるほど、それは落ち込んじゃうよね」


 事情を察した徳秋が何度もうなずいた。一方の睦美はまったく平気なようだ。徳秋が更に話を聞くと、赤点でなければあまり気にしないらしい。


 このような感じでいつもの面々は試験直後の解放感にひたったまま話を続ける。祥吾もこの会話を楽しみつつも途中で切り上げて教室を出た。




 教室で友人と雑談した後、祥吾は帰宅するために駐輪場へと向かった。肩から提げるスポーツバッグがいつもより少し重く感じられる。


 校舎から出た祥吾は駐輪場で自分の自転車が置いてある場所へと足を向けた。すると、背後からクリュスに呼び止められる。


「祥吾、一緒に帰りましょう」


「いいぞ。まずは自転車を出してからだな」


 うなずいた祥吾はスポーツバッグを前籠に入れて自分の自転車を引っぱり出した。そうして先に駐輪場の外に抜け出す。そこでクリュスを待った。


 すぐにやって来たクリュスがそのまま先に行くと祥吾はその後を追う。校内を進み、校門を出たところで2人は並んだ。それからクリュスが祥吾に話しかける。


「期末試験は全体的にどうだったの?」


「8割以上は確実だな9割を超えている教科もあると思う」


「やったじゃない。これでおじ様もおば様も満足されるわよね」


「そうだな。平均点を15点以上も上げたんだ。文句はないだろう」


 祥吾は両親と明確に何点以上という約束はしていなかったが、それでもこの平均点ならば何も言われない自信があった。


 自転車のペダルを漕ぎながら祥吾がしゃべる。


「少なくとも探索者を辞めろと言われることはないはずだ」


「良かったわ。目的は達成できたのね」


「もっとも、今後はこの点数を維持しないといけないんだが。それを考えるとな」


「大丈夫よ。これからも私が面倒を見てあげるから」


「え? もしかしてこれからもずっと勉強を続けるのか?」


「当然でしょう。日々の積み重ねこそが大切だって今回わかったじゃない。だから、今後もこの習慣を維持するのよ」


「嘘だろう?」


「泣いたり笑ったりできる程度にしてあげるから、頑張りましょうね」


 満面の笑みで伝えられた宣告に祥吾は顔を引きつらせた。毎日やることがいっぱいで1日のほとんどが埋まってしまうあの日々がずっと続くことを想像して言葉を失う。やっと解放されたと思ったが違ったらしい。


 大きく肩を落とした祥吾は肺の中の空気をすべて吐き出した。

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