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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第4章 高校の定期考査とダンジョン攻略

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期末試験の直前

 期末試験2日前となった。この日は土曜日で祥吾は朝から友人を迎える用意をしている。自室の掃除と整理を始めたのだ。大して物がない部屋なので1時間ほどできれいになる。そうして次に折り畳み式の四角いちゃぶ台を2つ用意して部屋の真ん中に置いた。後は勉強に必要な教科書とノート、それに筆記用具を用意して準備完了だ。


 台所へと行って母親の春子に声をかける。


「母さん、もうすぐ友達2人がくるからな」


「いつでもいいわよぉ。飲み物は麦茶でいいわよね」


「構わない。それと、お昼よろしく」


「任せてちょうだい。たくさん用意してあるから」


 昼食の件も用意が整っていると聞いた祥吾は安心した。これでもうやることはない。


 自室に戻った祥吾は一息ついた。室内は冷房を点けているのですっかり涼しい。


 スマートフォンで暇を潰して祥吾が待っていると、祐介と良樹がやって来た。母親に呼ばれて玄関へと向かう。自室から出るとまとわりつく湿気と微妙に高い気温に少し嫌な顔をした。


 階段を降りると友人2人の姿が目に入る。


「来たな。上がれよ」


「今日は特に蒸し暑いよな。梅雨に夏が重なったみたいだぜ」


「おはよう。僕も汗が止まらないよ。涼しい部屋を期待したいね」


 祥吾の言葉と共に祐介と良樹が家に上がった。そのまま3人で祥吾の自室へと入る。すると、友人2人はその涼しさに感動した。


 雑談をしながらも祥吾たち3人は試験勉強の用意を始める。どの教科から勉強するのかは事前に決めておらず、その場の雰囲気で何となく決まった。


 勉強を始めてすぐの頃、春子が部屋に入ってくる。3人分のコップと麦茶の入った瓶をお盆に載せてだ。随分と機嫌が良い。


 退室した母親を尻目に祥吾は友人と勉強を続けた。わからないところがあればその都度3人で教え合う。祐介は文系、良樹は理系の教科に強い傾向があった。


 1度休憩を挟みつつも試験勉強を続けた3人は正午を過ぎたことに気付く。今やっている勉強に区切りを付けたところでペンを置いた。


 大きく息を吐き出した祐介が口を開く。


「今日は随分と気合いを入れて勉強できるぜ」


「本当だね。思ったよりも順調だよ。これなら何とかなるかなぁ」


「おいおい良樹、ここはもっと自信を持つべきところだろうが」


「僕は慎重派なのさ、祐介君」


「それじゃ昼飯にしようか。台所に行こう。もう用意してあるはずだから」


「よっしゃ、昼飯! 何だろうなぁ」


「改めて、祥吾君、ゴチになります!」


 目を輝かせて反応してきた友人2人に苦笑いした祥吾がうなずいた。昼食の内容が何か知っているがここでは言わない。


 祥吾を先頭に部屋を出た3人は階下へと降りると台所へと向かう。そうして目にしたテーブルの上には本日の昼食が置かれていた。メインであるそうめんが馬鹿でかい皿の上に山積みされていて、隣の皿には唐揚げの山、そして更に卵焼きの小山もある。


「すげぇ! こんなに食べられねぇぞ」


「もしかして祥吾君、いつもこんなに食べてるの?」


「3人分作ってくれって言ったらこうなったんだ」


「お前んちの1人分はなんかおかしくないか?」


「普段学校に持ってきてるお弁当の大きさを思い返すと納得できちゃうね」


「みんな、たくさん食べてね!」


 昼食を用意した春子が笑顔で祥吾の友人2人を迎えた。息子もよくわからない理由で張り切っているようだ。


 3人は自分のつゆ入れにめんつゆを入れ、その上からごまやみじん切りにした葱などの薬味を入れていく。用意が終わると次々にめんを、唐揚げを、卵焼きを箸で取ってめんつゆに入れては食べていった。


 最もよく食べているのは祥吾だ。1度に箸で持つ量とその速さは他の追従を許さない。順調に大皿の山を削ってゆく。


「お前、学校の弁当もそうだが、本当によく食べるなぁ」


「体は資本だからな」


「それじゃまるっきり肉体労働者じゃないか」


「祐介、それは間違っているぞ。机に齧り付くのだって体力がいるんだからな」


「だからってそんなに食べたら一発で太っちまうだろう」


 途中で箸を止めた祐介が呆れていた。人並みにしか食べない者からすると祥吾の食事量は不思議で仕方ない。まるっきり部活動をしている運動員だ。


 それまでマイペースで食べていた良樹が2人の会話に口を挟んでくる。


「いつもあれだけ食べているのに太らないんだから不思議だよね」


「一応毎日体を動かしているからな。その影響もあると思う」


「探索者の活動って週末だけじゃなかったのかい?」


「そうだぞ。平日は朝に筋トレをしているんだ。最近は学校から帰ってきたら予習と復習をしているから、そのときくらいにしか時間が取れなくて」


「そういえばそんなことをしてるって言ってたっけ。さすがビルダーだね」


「ビルダー言うな。プロテインを口に突っ込むぞ」


 しゃべっている間も祥吾の手は止まらなかった。今日の昼食は食べやすいというのもあるだろうが、次々と箸で摘まんでは口へと運んでゆく。他の2人も祥吾ほどではないが10代らしい食べっぷりだった。


 こうして、雑談をしながら3人は満腹になるまで食事を続ける。食休み後は祥吾の部屋へと戻って試験勉強を再開、そのまま休憩を挟みながら夕方まで続けた。


 帰宅直前、3人は玄関で話し込む。


「祐介、良樹、今日は助かったよ」


「思った以上にお前が勉強できてるのを知って驚いたぜ」


「これなら試験結果は期待できるんじゃないかな」


「だといいな」


 他にも期末試験後に何をして遊ぶかなどを話した。苦難を乗り越えた後のご褒美だ。魔物と戦った後に出るドロップアイテムみたいなものである。


 最後にみんなで良い点を取ろうと声を掛け合って別れた。




 翌日の日曜日、祥吾はこの日も朝から友人を迎える用意をしていた。自室の掃除と整理は既に終わっているため、1人で試験勉強を先にしておく。折り畳み式の四角いちゃぶ台はもう部屋の真ん中に置いてあった。


 時間になると母親の春子に呼ばれて玄関へと降りてゆく。そこには見慣れた優等生クリュスが立っていた。にやにやとする春子を尻目に2人は2階へと上がってゆく。部屋に入ると冷房の冷気で汗が引いていった。


 ちゃぶ台の上に広がる教科書やノートを目にしたクリュスが祥吾に話しかける。


「先に勉強していたのね。感心だわ」


「わからないところを最初からまとめておこうと思ったんだ」


「それじゃ、まとめた不明点から聞きましょうか」


 笑顔になったクリュスが座布団の上に座ると早速勉強会が始まった。最初はクリュスの宣言通り、あらかじめ祥吾が洗い出しておいた不明点や疑問点の解決からだ。1ヵ月前に比べてその数はずっと少ない。昨日友人2人と勉強した効果も現われていた。


 大して時間もかからずに疑問点すべてを解決するとクリュスが微笑む。


「いい感じね。この調子でやりましょう」


「今度の試験はいけそうな気がしてきたな」


「きっと良い点数になるわ。どうせなら更に上を目指しましょう」


 上機嫌となったクリュスも祥吾の目の前で自分の勉強を始めた。とは言っても、ほとんど教科書やノートを見るくらいである。


 頭の出来を見せつけられつつも祥吾は自分の勉強に集中した。今はこの優等生を好き放題使えるのである。優秀さを見せつけられるくらいは利用料だと思えば良い。


 やがて昼頃になるとクリュスが祥吾に声をかける。


「一区切り付いたら休憩にしましょう」


「もういいぞ。昨日もやったから順調だなぁ」


「もう3分の2は終わっているわね」


「予定よりも早く終わりそうで嬉しいぞ。空いた時間は何をしようかな」


「軽く流すように見直したらいいんじゃないかしら。そして、今晩は早く寝てしまうの」


「そうだな。そうしよう」


 調子付いた祥吾は機嫌良く教科書とノートを片付けた。空腹とあって昼食を楽しみにしている様子がありありとわかる。


 少し前からスマートフォンを操作していたクリュスがわずかに真顔となった。それに気付いた祥吾が声をかける。


「クリュス、どうした?」


「このニュースが気になったのよ」


 スマートフォンを目の前に突き出された祥吾はその画面に表示されたタイトルを目にした。そして、首を傾げる。


「魔石から魔力を抽出する実験に成功?」


「これができたということは、これから産業に活用できる道が開けたということよ。魔石の価値が跳ね上がるわ」


「なるほど、探索者稼業が儲かると認識されるわけだ。ゴールドラッシュみたいなものか?」


「そうね。一攫千金や小遣い稼ぎにダンジョンへ入る人が今以上に増えるでしょう」


 クリュスの話を聞いて祥吾は若干不安になった。これはダンジョンが成長しやすい環境が整いつつあることを示しているからだ。しかし、祥吾にそれを止める手立てはない。


 とりあえず、祥吾は目前の試験に集中することにした。

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