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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第4章 高校の定期考査とダンジョン攻略

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期末試験の前週

 神々から依頼されたダンジョンの攻略が一段落した翌週、暦は7月になった。季節はすっかり夏に変わった、とは言えず、相変わらず梅雨らしく雨の日が多い。


 そんな日々でも高校では淡々と授業が行われている。だが、この頃になると学校全体に薄らと緊張感が漂っていた。理由は明白で、来週に期末試験が実施されるからだ。夏休みに至るための最大の難関である。


 そんな高校生にとって重要な時期に祥吾も勉強していた。平日は帰宅後に予習復習宿題を必ず済ませ、その後更に期末試験の範囲を勉強し、わからない点はクリュスに尋ねるのだ。これを6月当初から続けていたのである。ダンジョン攻略で週末の数日が潰れるため、それを少しでも補うためだった。


 最初の頃はどれだけ効果が現われてくれるのか不安だった祥吾だが、7月にはその手応えを感じるようになる。何しろ日々予習復習宿題を1回した上に、その後試験勉強と称して同じ箇所を何度も繰り返し学び直すからだ。学校の定期考査は範囲が限られているため、これだけ集中すれば何とかなる。


 とある平日の夜、祥吾は自室でクリュスに勉強を教えてもらっていた。それが終わってから雑談を始める。


「中間試験の前とは全然違うな。期末試験は本当に何とかなりそうな気がするぞ」


「それは良かったわ。さっきの確認もかなり答えられるようになったから、来週の試験はかなり期待できるんじゃないかしら」


「そうだといいんだけれどな」


「大丈夫よ。今の調子で試験をしたら8割くらいは取れるでしょう」


「クリュス先生にそう言ってもらえると安心できるな」


「安心して夏休みを迎えましょうね」


 笑顔を向けてくるクリュスに祥吾はうなずいた。しかし、その夏休みもどれだけ休めるかは本当にわからない。何しろ神々の依頼次第だからだ。せめて夏休みを埋め尽くすような大量の依頼がないことを存在するかわからない八百万の神々に願った。




 1週間も折り返しを迎えた頃、祥吾は昼休みに友人と一緒に弁当を食べていた。友人はいつもの面子である、祐介、敦、徳秋、香奈、睦美の5人である。集まった6人は近くの席を借りて座り、話に花を咲かせた。


 それまでの趣味や遊びの話が一段落すると、睦美から少し真面目な話題が出てくる。


「みんな~、来週の期末試験の勉強って調子はどうかな~?」


「アタシと睦美は悪くないっぽいんだけど、敦とか徳秋はどう?」


「オレは何とかなりそうだぜ。中間試験はぱっとしなかったが、今度はもうちょい上を狙えそうなんだ」


「そうそう。前のときにコツを掴んだっていうのかな、何とかできるようになったんだ」


「んで、昨日徳秋と一緒に1回問題を出し合ったんだが、今の時点で6割くらい正解できるんだよ。これなら頑張れば来週の試験は70点以上はいけるだろうってな」


「週末は敦と一緒に勉強するつもりなんだ。これで期末は何とかなるはず」


 敦と徳秋の返答を聞いた香奈と睦美は目を丸くした。どうやら意外に思ったらしい。


 それは祥吾も同じだった。中間試験のときの勉強がどうも役に立ったようなので内心で喜ぶ。2人で更に上を目指せるというのならば、これまた内心で応援する次第だ。


 しかし、香奈の意見は少し違うらしい。微妙な表情をしながら口を開く。


「そうなんだ。アタシらももうちょい上を狙おうかな」


「え~? 香奈、どうしたの~?」


「敦と徳秋が今からまだ点数を伸ばせそうなら、アタシらもまだいけるんじゃないかなって思ったの」


「具体的にはどうするのかな~?」


「う~ん、そうだ! クリュスにまた勉強を教えてもらおう! 前に教えてもらったときにすっごい点数上がったんだから、今回も教えてもらったら絶対いい点数確実じゃん!」


「いい考えだね~!」


「祥吾、またクリュスに頼んでよ!」


 突然自分に話の矛先を向けられた祥吾がわずかに固まった。口の中の物を飲み込むと返事をする。


「自分でしたらいいだろう。前に勉強会を開いたんなら、連絡先を知っているんじゃないのか?」


「それがね、SNSのアカウントを持ってないからできないって言われたのよ。あれ? それじゃあんた、どうやって連絡してるの?」


「俺たちはメールだな。俺もSNSはやっていないし」


「そういえば、中学のときにめんどくさいことになったから消したんだっけ。有名人に関わると大変よねぇ」


「ねぇ、クリュスちゃんのメールアドレス、教えてくれないかな~?」


「他人には教えるなって止められているんだ。知りたかったら本人に頼んでくれ」


「ガードかた~い!」


 メールアドレスの件は実際に止められているので祥吾はすぐに返答した。人の常識などそれぞれだが、少なくとも祥吾は当人のアカウントやアドレスは当人に直接尋ねるものだと考えている。自分の知らないところで拡散されるのは好ましくないからだ。


 残り少ない弁当を食べるのを中断した祥吾はスマートフォンを取り出した。そうしてすぐにクリュスへと香奈の要望を伝える。送信を終えて弁当を一口食べたところで返信が返ってきた。内容を見てそうだろうなと小さくうなずく。


「香奈、クリュスから返事が返ってきたぞ」


「どうだった!?」


「今回からはクラス内だけに限定するから断るだそうだ」


「えーなんで!?」


「中間試験の勉強会を手伝い始めたら、あっちこっちから頼まれて自分の時間が取れなかったからだそうだ。それで、手に負えないからクラス限定にしたらしい」


「あぁ、そうなんだぁ」


「残念だね~」


 あからさまに肩を落とす香奈と睦美を見て祥吾は多少同情した。向上心のある2人は別に悪くない。ただ、頼む相手に人気がありすぎたのだ。それに、これにはもしかしたら祥吾も関わっている可能性があるかもしれない。祥吾が頼めばクリュスは必ず駆けつけてくれるからだ。そのための時間を確保したがっているように思えた。


 元気がなくなった香奈を睦美と敦が慰める。それを見ながら祥吾は弁当を食べ終えた。




 期末試験の勉強について語り合った日の放課後、祥吾は帰る準備を進めていた。スポーツバッグに勉強道具をひとつずつ入れていく。


 全部入れ終わってスポーツバッグの口を閉じたとき、席に座っている祥吾の隣に人影が現われた。顔を横に向けると祐介と良樹が立っている。


「2人ともどうしたんだ?」


「今度の週末に3人で勉強会をしないか誘いに来たんだぜ」


「来週に期末試験があるからね。最後にわからないところを3人で潰し合おうと言うわけだよ」


「それは嬉しい誘いだが、お前ら2人とも中間試験の結果は良かったんだよな。平均で8割以上なかったか? 7割程度の俺と勉強をやってもあまり効果があるとは思えないが」


 1ヵ月以上の前の記憶を引っぱり出してきた俺は首を傾げた。実力差に大きな開きがあると一方的に教えることになる。教える側も教えることで勉強になるのは確かだが、祐介と良樹の提案は3人が対等の勉強会だ。果たして自分が入っても良いのか祥吾は迷う。


「そんなこと気にするなって。ちゃんと勉強すればお前だっていい点数が取れるはずだぜ。中学んときはそうだったじゃないか」


「そうだよ。きっと勉強が足りないだけだよ、祥吾君は。それに、最近は頑張って勉強してるんじゃなかったの?」


「そうだ、前に敦が渋谷に行こうって言ったときに、お前期末試験のために勉強してるって言ってたよな。それがどのくらい身についてるか見てやるぜ」


「僕もそれは気になるなぁ」


 祐介も良樹も純粋に助けてくれることを知って祥吾は喜んだ。こういうときの友人のありがたみは身に沁みる。


「そういうことなら一緒に勉強しよう」


「よし、決まりだな! 土日のどっちにする?」


「僕は土曜日の方がいいな。試験前日は自分で最後の追い込みをしたいからね」


「なるほどな。それもそうだ。祥吾はどうだ?」


「俺もそれでいい。それで、どこに集まって勉強するんだ?」


「オレんちはちょっと無理だな。今週末は親が家にいるから」


「僕のところも駄目かな。部屋の中は漫画とグッズでいっぱいなんだ」


「だったら俺の家だな。俺の部屋なら3人で勉強できる。テーブルを外から持って来ないといけないが」


 6畳間であまり物がない部屋なので男3人でもなんとか入ると祥吾は思った。テーブルを置くとその分狭くなるが勉強が目的なので我慢してもらうしかない。


「で、いつから勉強をするんだ?」


「オレは朝から夕方、10時から5時くらいって考えてる。今回は教科の数が多いからな」


「途中で休憩を適宜挟むなら妥当かな」


「だったら、昼飯はうちの母親に頼んでおこう」


「マジか!」


「ゴチになります!」


 一旦流れが決まると具体的なことが次々に決まった。そうしてすべてが定まると解散する。


 その日の祥吾の足取りは軽かった。

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