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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第4章 高校の定期考査とダンジョン攻略

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週末の挑戦2─狭山ダンジョン─(5)

 綱渡りの仕掛けを突破した祥吾とクリュスは先へと進んだ。相変わらず階段を降りたり登ったりと面倒な造りになっている。


 そうして地下5層の通路を歩いていると次の仕掛けにたどり着いた。今回も2階層にわたって吹き抜けになっている部屋だ。しかし、横幅は約30メートルあるのに対して、対面の壁までは約2メートルしかない。しかも壁1面に凹凸がある。今度は対面の壁に奥へと続く通路は見当たらない。


 通路から覗き込むようにして室内を見た祥吾が振り返る。


「今度は何をしろっていうんだ?」


「この凹凸を利用して下に降りるの。地下6層への階段代わりになっているわ」


「これが階段だって言い張るのか、ダンジョンは。たまらないな」


 説明を聞いた祥吾は呆れた表情を見せた。再び室内を覗き込む。今度は凹凸を手で触ってみた。確かに手足を引っかけることはできそうだ。


 少し確認をしてから祥吾はクリュスへと問いかける。


「クリュスは凹凸のある場所をほぼ垂直に登ったり降りたりしたことはあるのか?」


「こういう本格的なのはないわね。でもボルダリングならしたことはあるわよ」


「ボルダリング? あれか。それなら、長時間自分の体を支えられるんだな」


「できるわよ」


「ロープを垂らして降りられたら良かったんだけれどな」


「そのローブを固定するものが周りにないものね。仕方ないわ」


「だったらさっさと降りるか。下まではどのくらいあるんだ?」


「地図情報によると30メートル程度らしいわ」


「ある程度降りたら最悪飛び降りられるかな」


 三度室内を見ながら祥吾はつぶやいた。異世界で岩山に張り付いて移動した経験を思い出す。いつもの装備に荷物を抱えてなので大変だった。今回も似たようなものだが装備の素材もリュックサックの中身も前よりはずっと軽い。


 気になる点があるとすれば、この世界の自分の体は異世界で使っていた体とは違うということだ。つまり、肉体的には初めてということになる。この世界にやって来てから日々体を鍛えていたが、フリークライミングの練習はさすがにしていなかった。


 クリュスに経験の有無を聞いた祥吾だったが、自分も似たようなものだと気付いて苦笑いする。しかし、かつて経験したという記憶がある分だけまだましだ。それは間違いない。


「俺が先に降りる。最後まで降りきったら呼ぶから、クリュスはその後降りてきてくれ」


「わかったわ。気を付けて」


「それと、俺が下りて行く様子を見ていてくれよ。使う凹凸の順番を覚えていたらそのまま使えるはずだから」


「なるほど。よく見ておくわ」


 必要なことを伝えた祥吾は凹凸のある壁に近づいた。そして、慎重に手足を引っかけてゆく。命綱なしでやるというのはそれだけで恐ろしい。全身に緊張で強ばる。それをしばらくじっとしてほぐすと下に降り始めた。


 基本的に降りるという行為は登るよりも難しい。歩くときでも背中を向けたまま階段を降りる方が、前を向いて階段を登るよりも大変なのと同じだ。視界が悪く、体重移動も難易度が高くなるからである。


 過去の経験からそれを知っている祥吾はゆっくりと確実に降りていった。幸いここの凹凸はざらついているので滑らないのはありがたい。


 ところが、祥吾が降り始めて少しすると強風が吹いてきた。部屋が広く吹き抜けであっても体が飛ばされそうだと思うくらいの強い風が吹き付けるなど通常はない。これも仕掛けかと悪態をつく。


「途中から強い風が吹いてくるぞ、降りるときは気を付けろ!」


 上に向かって叫ぶと祥吾は降り続けた。降りる前から下の床は見えていたが、30メートルというのは思っている以上に高い。慣れない壁伝いでの降下となると尚更である。しかも強風で煽られるのだ。


 そんな中、祥吾は手足伸ばし、体をわずかに移動させ、次の凹凸を求めていく。それを何度も繰り返していると、そのうち床がはっきりと見えるようになってきた。ここで飛び降りても良さそうだと脳裏によぎる。しかし、クリュスが真似をして降りることを考えるともっと凹凸を使って降りた方が良い。


 結局、祥吾は床から1メートル程度の高さになるまで凹凸を伝って壁を降り続けた。壁から離れて足が床に付いたときの安心感たるや格別だ。


 平らな床に何気なく立てる喜びにしばらくひたった祥吾は上を見上げる。上の通路からクリュスが顔を覗かせているのが見えた。大きく手を振って声をかける。


「凹凸にしっかりしがみついていたら強風に吹き飛ばされないぞ!」


「わかった! 今から降りるわね!」


 返事をしたクリュスが一旦顔を引っ込めると祥吾と同じように壁に取り付いた。凹凸に四肢を引っかけて体を固定しながら少しずつ降り始める。防塵性能のあるローブの裾と髪の毛が揺れ始めた。強風圏内に入ると一旦動きが止まる。しばらくしてからまた降下を再開した。


 下から見ている祥吾は何とも不安げだった。いくら運動神経が良いクリュスとはいえ、訓練もせずにいきなりこの高さを降りるのはつらいはずだ。現に祥吾も握力が低下し、体が疲れている。


 しかし、クリュスは時間をかけてゆっくりと降りていた。途中、危なっかしい場面もあったがそれも乗り越える。そうしてようやく地下6層の床に足を付けた。


 着地した瞬間にクリュスはへたり込む。


「きつかった。今度は普通の階段を使いたいわ」


「まったく同感だな。地下7層に降りるときが楽しみだ」


「少し休憩しましょう。手が思うように握れないの」


「俺も似たような感じだから、長めの休憩を取ろう」


 2人は凹凸のある壁を背もたれにして座った。祥吾はリュックサックからペットボトルを取り出し、クリュスは更にタッルスを出してやる。


 ペットボトルの水を飲んだ2人は一息ついた。しばらく無言でぼんやりとする。


 祥吾はスマートフォンを取り出した。画面を表示させると午後3時頃だ。結構時間が経っていることを知る。2階層分を往来していたのだから当然だと思えるし、長いとも感じられた。スマートフォンの画面を消すと口を開く。


「このダンジョンはやたらと疲れるな」


「あなたが? 珍しいわね」


「魔物を全然倒していないからな。能力(チート)で疲労回復ができないんだよ」


「そうだったわね。思わぬ問題点が浮き彫りになったわね」


「このこと自体は前から知っていたから驚きはないんだが、ひたすら飛んだり跳ねたりするだけっていうのは普通に疲れるだけだから厄介だ」


「魔物と戦っている方がましっていうこと?」


「肉体的にはな」


ペットボトルの水を飲んだ祥吾が息を吐き出した。しばらく黙っていたが、ふと何かを思い付く。


「そうだ、ひとつ気になっていたことがあるんだ」


「どんなこと?」


「この狭山ダンジョンでみんなどうやって稼いでいるんだ? 俺たちは今のところ、番人の部屋以外で魔物に遭ったことがないだろう」


「このダンジョンはね、最短経路だとこんな感じだけれども、そこから外れると土人形(ゴーレム)が割と徘徊しているのよ。それと、他のダンジョンよりも宝箱が多いみたいね」


「みんなそれを狙っているのか。どうりで他の探索者にも会わないわけだ」


「面倒事が起きないから、私たちにとっては嬉しいことよね」


 探索者絡みの問題で何度か嫌な目に遭っているクリュスが微笑んだ。その点については祥吾も同意なので何も言わない。


 休憩が終わると2人は立ち上がった。タッルスもリュックサックには収めずに歩かせる。


 地図情報に従って2人は通路を進んだ。地下4層と地下5層がそうであったように、ここ地下6層も地下7層と頻繁に往来する。この辺りで面倒だったのがスイッチの存在だ。ある場所を通るためには別の場所にあるスイッチを作動させないと進めないのである。


 他にも、落とし穴の底の脇にある小道を通ったり、壁に偽装してある扉を見つける必要があったりもした。これらは今までのような大仕掛けのような派手さはないものの、大抵は罠も同時に仕掛けられているので油断できない。


 最下層近辺はこのような小さな仕掛けと罠のセットが多かった。中には地図情報よりも罠の数が多い場合もあるので、毎回しっかりと確認しないといけないのが実に面倒だ。


 そう言った細かい仕掛けをくぐり抜けた2人はようやく守護者の部屋の前までやって来た。心身共に疲労していたのでここでも休憩する。


「やっとたどり着いたな」


「そうね。仕掛けだけでこんなに疲れるだなんて思わなかったわ」


「ついに魔物は出てこなかったな。変わったダンジョンだ」


 ペットボトルの水を飲んだ祥吾がため息をついた。魔物を倒して疲労を回復する手段が封じられているので実にやりづらい。タッルスが寄り添ってくれるのが救いだ。そっと頭を撫でてやる。


 2人はしばらくの間何もしゃべらずに座り続けた。

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