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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第4章 高校の定期考査とダンジョン攻略

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週末の挑戦2─狭山ダンジョン─(2)

 事前の情報収集で一筋縄ではいかないとわかった狭山ダンジョンに祥吾とクリュスは入った。地下1層の正面玄関(エントランス)に降り立つ。


「いきなり仕掛けでお出迎えというわけではなさそうだな」


「とりあえず、最短経路を伝って行くわよ。途中、仕掛けのある場所はその都度教えるけれど、当てにしないでちょうだい」


「つまり、仕掛けがあるとしかわからない状態なんだな。まったくの未知よりかはましか」


 いきなり洗礼を浴びせかけられることを予想していた祥吾は肩の力を抜いた。守護者の部屋に続く経路に変更がないのならば、後はいかに仕掛けを突破するだ。それが(きも)のダンジョンなので簡単ではないだろうが、それでも不可能ではないと感じている。


 クリュスの指示を受けた祥吾は歩き始めた。通路に関してはいつも通り警戒しながら進む。何組か見えていた他の探索者パーティの姿が壁の向こう側へと消えた。


 しばらく歩いているととある部屋にたどり着く。割と広い部屋でほとんどが水没しており、あちこちに水面から伸びた棒状の飛び石のような足場が点在していた。それだけならばまだしもその足場である飛び石が水没したり水中から浮上したりしている。一見すると単なるアトラクションに見えた。


 その風景を見た祥吾がつぶやく。


「あの飛び石みたいなのを伝って向こう側まで行けばいいのか?」


「恐らくそうでしょうね。問題は、本当にそれだけなのか、だけれど」


「クリュス、この仕掛けは地図に載っているのか?」


「あるわよ。仕組みは見た目の通り。下の階層に行けば余計なオプションが付いた派生型もあるみたいだけれど、ここは恐らくそのままのはず」

「不安だな」


「地図情報が当てにならないんですもの。断言できるわけないでしょう」


「それもそうだ。で、あの飛び石に乗れるのは1人だけか。同じ経路を伝って行けたら一番楽なんだけれどなぁ」


「まず期待できないでしょうね」


「しかしこれ、6人パーティだと結構大変にならないか? さすがにいっぺんには移動できないだろう」


「このダンジョンの仕掛けは、まとまった人数を散らすようなものが多いみたいよ」


「対魔物戦を考えて数を揃えたパーティほど苦しむわけか。設計者の意地の悪さが早速垣間見えてきたな」


 室内の様子を眺めながら祥吾はクリュスと仕掛けについての会話を続けた。一見するとのんきに話をしているだけのように見えるが、その実上下に動く飛び石の様子を観察しているのだ。パターンがあればそれを利用しようというわけである。


「クリュス、あの動く飛び石のパターンはわかったか?」


「きれいなパターンは見つからないわね。かといって完全にランダムというわけでもなさそうなんだけれど」


「完全ランダムだったら下手をすると絶対に到達できない場合があるだろう。さすがにそれはないんじゃないかな」


「祥吾は何かわかった?」


「隣り合う飛び石がいくつかあった場合、どれかひとつは沈まない、くらいか。ただ、俺が都合良く見てしまっている可能性はあるから絶対じゃないが」


「それなら私も途中で気付いたわ」


「他には、あのそこの水は本当にただの水なのか、だ。最悪飛び石と一緒に沈んでも、その場で浮いていればまた上がってきたのに乗ればいいからな」


「何か落として確認して見る?」


「食べ物を落としてみようか」


 そう言いながら祥吾はリュックサックから携行食を取り出した。ひとつ摘まんだそれをちぎって水面へと落とす。ほとんど音も立てずに着水したそれは、しばらく浮いた後沈んでいった。


 様子を見ていた祥吾がつぶやく。


「普通に沈んでいったな」


「特に変わった様子はなかったわね。ということは、普通の水の可能性が高いわけね」


「後は人間にとって毒になるものが混じっている場合だが、考えたらきりがないな」


「それじゃ、行きましょうか」


 クリュスの言葉にうなずいた祥吾は用意を調えると前に出た。飛び移れる飛び石は2つあり、右側の方が奥の通路までの経路がある程度確保されている。


 普通なら右側を選ぶが、祥吾はあえて左側に飛び乗った。飛び石が浮き沈みするということは、今目に見えている飛び石はそのうち沈み、沈んでいる飛び石はいつか浮き上がってくるからだ。


 右側の飛び石に乗ったクリュスを尻目に祥吾は先へと進む。こうなったらもう後は自分を信じるしかない。奥の通路と現在位置の間を浮沈する飛び石を見ながら少しずつ前に出る。


 しかし、行けるところまで行くと立ち止まらざるを得なかった。周囲を見ると背後の飛び石は既に沈み始めている。飛び乗れる飛び石と奥の通路を見比べながら慎重に次ぎへと足を進めた。周囲を見たときにクリュスの姿もちらり見えたが、順調に進んでいるようだ。いつの間にか先行している。


「焦るな、向こうに行けたらいいんだ」


 つぶやいた祥吾が次の飛び石に乗った。周囲を見ると先に進める飛び石が浮いてきている。伸びきるまで待って足を乗せた。


 こうして奥の通路までかなり近づいた祥吾だったが、あと1歩というところで立ち止まる。先に進める飛び石が伸びてこない。既に奥の通路へ到達していたクリュスの視線を感じる。


 そのとき、祥吾が乗っている飛び石が沈み始めた。驚いた祥吾が周囲に目を向けると背後の飛び石はまだ動いていないのでそちらへ移る。左前に飛び石が浮き上がってきたのでそちらへと足を乗せた。目の前に奥の通路へと移れる飛び石が連続して2つある。これに急いで飛び移ってついに奥の通路へと到達した。


 大きく息を吐き出した祥吾が感想を漏らす。


「下手に勘ぐらない方が良かったのか」


「何の話?」


「一番最初に乗った飛び石の話だよ。素直に右側のに乗っておけば良かった」


「そういうことだったの。でも、到達できたのだから良かったじゃない」


「まぁな。さて、先に進もうか」


 少し休んだ祥吾は息を整えるとクリュスを促した。まだ入って間もない地下1層だ。いつまでもじっとしているわけにはいかない。


 2人は再び祥吾を先頭にクリュスが指示を出すという形で通路を進み始めた。仕掛けのない通路は地図通りに進めるので楽だ。


 しかし、階下へと続く階段の手前で次の仕掛けが2人に立ちはだかった。


 そこは確かに通路だったが、天井から巨大な船の碇のような形の刃が吊され、それが天井を起点に不規則に左右へと動き続けている。これが1枚ではなく10枚もの刃が連なっているのだ。しかも刃と刃の隙間は狭く、子供がやっと立てるくらいしかない。大人は小柄な人なら立てるかもしれないが、探索者が装備を身に付けた状態となるとさすがに無理がある。間違いなく装備が刃に巻き込まれてしまうだろう。


「まだ地下1層だっていうのに、随分と殺意の高い仕掛けが出てきたな」


「地図情報にある仕掛けと違うわね、これ」


「なんだって?」


「ダンジョンが新しく用意した仕掛けだって言ったのよ」


「まったく違うのか?」


「違うわね。前のは転がる大きな石の球に追いかけられながら向こう側へ向かう仕掛けだったわ」


「それもどうなんだと思うが、目の前のやつよりも良心的に思えるな」


 目の前の仕掛けを見ながら祥吾はため息をついた。文字通り失敗が許されない。


 皮肉を言う祥吾に対してクリュスが言葉を返す。


「それでも、奥へ進むためには挑戦するしかないわ」


「わかっている。が、目の前のこれを見るとな」


「私が先に行くわ。祥吾はついてきて」


「え、あ、いや、俺が先に」


「さっきの飛び石の仕掛けでわかったけれど、こういうのを突破するのは私の方が上手みたいだから」


「あー、それはまぁ」


 今まであえて黙っていたことを口にされた祥吾は口ごもった。誰にも得手不得手があるのだから仕方のないことではあるが、前衛を任されている手前、後衛に先を譲るのは心理的抵抗があるのだ。


 そうは言っても、確実に突破するには得意な者に先導させるべきである。前に出てきたクリュスに祥吾は場所を譲った。


 巨大な船の碇のような形の刃が左右に揺れるという単純な仕掛けだが、これが不規則に揺れているとなるとその間を通るのは至難の業になる。動きが遅いのが幸いと言うくらいだ。


 その刃をじっと見つめていたクリュスはやがてごく自然に前へと進む。見ていて非常に危なっかしいが不思議と刃の通り過ぎた空間を歩けていた。


 逆に祥吾は見ていると実に不安だ。いつ巨大な刃に切断されるかわかったものではない。きちんと前に進めているのが不思議なくらいだ。


 それでも、最終的にはどちらも無事に奥へと通り抜けることができた。祥吾などは思いきり全身を脱力させている。通り抜けた直後は普通こうなるだろう。


 恐ろしい仕掛けを通り抜けた2人はその奥にあった階下へと続く階段へと向かうと、そのまま下りていった。

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