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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第4章 高校の定期考査とダンジョン攻略

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週末の挑戦2─狭山ダンジョン─(1)

 梅雨の時期である今、雨が降る日が多い。そうでなくても1日の大半は雲って湿り気のある空気が息苦しさを感じさせる。しかし、たまに晴れる日があった。6月最後の週末がそうだ。それでも湿気を感じさせるところが実に梅雨らしい。


 この日は予定通り狭山ダンジョンへと向かうため、祥吾とクリュスは早朝に自宅を出発した。自転車に荷物を積み、2人揃ってペダルを漕ぐ。


 地元から東側へ約1時間の場所に狭山ダンジョンがあるが、2人にとっては自転車で向かえる限界がこの辺りではと考えていた。何も自転車にこだわる必要はない。だが、近場を往来する象徴としての手段として捉えると、そろそろダンジョン通いも遠出という言葉がふさわしくなってように感じられた。


 出発直後から道半ば辺りまでは平坦な住宅街の道を進んでいた2人だが、後半になると地形も周囲の様相も一変する。山の中を進むのだ。勾配は緩やかな所が多いが、それでも平坦な道を進むよりは大変である。


「これは、電車で行った方が良かったかしら?」


「距離だけなら行けると思ったんだけれどな。この辺りは地味にきつい。ダンジョン探索する前に疲れる」


 まさかの事態に2人は選択を誤ったと感じた。一応予定通りに探索者協会の狭山支部にたどり着いたが、その顔には疲労の色が見える。


 探索者協会の敷地に入った2人は駐輪場に自転車を置くと荷物を手に本部施設へと入った。ロビー内には探索者の姿が多数見受けられる。


 ロビーの端に設置されたベンチのひとつに腰掛けた2人は一息ついた。背もたれに寄りかかった祥吾が口を開く。


「道の選択を誤ったのか、それとも移動手段からして間違ったのか、どっちだろうな」


「これからは交通手段をできるだけ使いましょう。例え移動時間が同じだったとしても」


「賛成だな。8時頃まで休んでからダンジョンに入る準備をしようか」


 ぼんやりと周囲を見ながら祥吾がクリュスに提案した。出だしから躓いてしまったわけだが、それでも休んで立て直しを図る。


「ここのダンジョンは人が多いな。人気があるのか?」


「これが普通なのよ。今まで過疎のダンジョンに行くことが多かったから、私たちの感覚は世間一般の探索者とはずれているんですからね」


「知らなかったな。これが普通か。ということは、ダンジョン内でも他の探索者と出会いそうだな」


「いい出会いだと嬉しいんですけれどね」


 ダンジョン内で出会った探索者のことを思い返した祥吾の表情は微妙だった。もちろん真っ当な探索者もいたのだが、印象の問題か嫌な思い出ばかりが思い浮かんでくる。


「ここのダンジョンは仕掛けが多いんだったよな、確か」


「広い意味では罠だけれど、ある意味アスレチックパークみたいなダンジョンなのよね」


「自分の命をお代にするという点を無視したらってことだよな」


「その通りよ。一見すると石造りの普通のダンジョンに見えるけれど、中には複数の階層を跨いでいる仕掛けもあるみたい」


「何とも壮大だな。あの迷宮でもそんな仕掛けはなかったんじゃないのか?」


「なかったわよ。だってみんなが競技をするための施設だったんですもの」


「スポーツ施設とアミューズメント施設の違いか」


「そういうことよ」


 かつて踏破した迷宮との違いを聞いた祥吾の反応は薄かった。当人としては説明を聞けただけで満足だったからであるが、クリュスはわずかに不満顔だ。何が気に入らないのかわからない。


 時間になったので2人は荷物を持ってロビーの奥にある通路へと向かった。そこから更衣室まで歩いて中に入る。男性更衣室では祥吾がスポーツバッグからインナーやエクスプローラースーツを取り出して身につけて、プロテクターと剣を装備して完了だ。ロッカーにスポーツバッグをしまい、リュックサックを背負って廊下に出た。今回は先にクリュスが着替えを終えていたらしく、待っている姿を目にする。


「早いな」


「さっきの休憩の間に情報のダウンロードと確認を済ませておいたからよ。行きましょう」


 受付カウンターへと促された祥吾はクリュスに続いた。受付嬢と対面すると先にクリュスが声をかける。


「おはようございます。これから狭山ダンジョンに入るのですが、最新の情報を教えて貰えますか。先程ダウンロードできる情報は手に入れましたので、それ以外のものを」


「最近ダンジョン内の仕掛けに変化があり、以前よりも凶悪化していることはご存じかと思いますが、地図情報の備考が役に立たないこともあるので注意してください」


「どういうことですか?」


「たまに仕掛けがいきなり変化することがあるんです。その都度報告はいただいているので情報には最新のものを適用していますが、完全とは言えない状態なんです」


「それは困りましたね。では、データに反映していない情報があるなら教えていただけますか?」


「承知しました。こちらの一覧表をお渡ししますのでご覧ください」


 受付嬢から差し出された情報端末設置機器にクリュスがタブレットを設置した。すると、ダウンロードフォルダにデータファイルが表示される。


 端末機器から手元にタブレットを戻したクリュスがエクスプローラーズでそのデータファイルを読み込んだ。しばらくするとその情報が表示される。


「結構ありますね」


「常に変化し続けているそうですから、ダンジョンに入るときはご注意ください。また、その最新情報後に更に変化している場合もあるそうです」


「随分と不安定なダンジョンですね。前からこんな感じだったんですか?」


「いえ、今月に入ってからです。前はほぼ変化はありませんでした」


「ということは、もしかして地図全体が役に立たない?」


「そこまでではないようです。あくまでも仕掛けの部分のみで、それ以外の通路や部屋で変化があったとは確認しておりません」


「わかりました。ありがとうございます」


 受付嬢との会話を終えたクリュスが踵を返した。祥吾もそれに続く。目指す場所はロビーの端に設置されたベンチのひとつだ。2人してそこに座る。


「参ったわね。思った以上に厄介じゃない」


「情報の更新が追いつかないほど常に変化しているとなると、往路と復路で仕掛けの内容が変わっている可能性もあるのか」


「私たちの場合は守護者の部屋から転移するから復路のことは考えなくてもいいんじゃないかしら」


「そうもいかないだろう。途中で引き上げるという判断をすることだってあるんだから」


「確かにそれはそうね」


「それとも最初から撤退は考えず、時間がかかっても攻略するかだな。今日だけじゃ時間が足りないのなら明日も使って」


「撤退は考えないんじゃ、ああ、ダンジョン内で一泊するのね」


「携行食と水は2日分あるからな。可能だろう」


「どうせ常に新しい仕掛けに怯えるくらいなら進んだ方がましというわけね。わかったわ」


「全部で7階層だからごり押しでも何とかなると思うぞ」


 今までの経験から祥吾は最短経路をたどってもさすがに通常の2倍の時間はかからないと考えていた。以前のように今日中に帰宅する必要があるという場合とは違い、今回は時間に余裕がある。2日間目一杯使って攻略できるのだ。


 基本方針を決めた2人はベンチから立ち上がった。そうして本部施設の建物から出る。そのまま正門へと向かった。そのまま自動改札機を通り過ぎてダンジョンへと向かう。


 その途中、何組かの探索者パーティとすれ違った。いつもなら気にしない祥吾だったが、今回はどのパーティメンバーも表情が暗いことに気付く。耳をそばだてて会話の一部を聞き取ると、どこも仕掛けで躓いたらしい。


 警戒区域の中の道を歩く祥吾は隣のクリュスに声をかける。


「他の探索者の評判はどうも良くないみたいだな」


「仕掛けそのものも凶悪化しているみたいね」


「いつも通りの仕掛けだと思って挑んだら、実は初見殺しの仕掛けだったなんて最悪だからな。厄介なもんだ」


「祥吾はこういうダンジョンに前の世界で挑んだことはあるの?」


「これそのままのタイプっていうのならないが、似たような所なら」


「へぇ、それじゃ頼りにするわよ」


「あの迷宮のことだぞ。仕掛けの質は全然違うが、凶悪さで言えば劣っていないからな」


「そんなにひどかったかしら?」


「最後まで踏破した者としてはきつかったぞ。今のところあれ以上のものはない。何しろ、正反対の思惑で仕掛けられた試練と謎を解かないといけなかったんだからな」


 ほぼ助言なしで最後まで行けたのは奇跡だと今でも祥吾は思っていた。しかも交差する思惑をくぐり抜けてだ。もう1度やれと言われてもできる気がしない。


 話ながら歩いていた2人はダンジョンの入口に到着する。いよいよ探索開始だ。


 祥吾とクリュスはいつも通りに階段を降りた。

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