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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第4章 高校の定期考査とダンジョン攻略

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日常の色々

 6月も終わりが見えてきた。最近は雨が降る日が多いので祥吾とクリュスの徒歩通学も増えている。梅雨の間だけなのでまだ我慢できた。


 この日の2人も傘を差しての登校だ。いつもの待ち合わせ場所で合流すると一緒に歩く。


「祥吾、あなたの周りで最近騒がしいことってあるかしら?」


「いや、特にはないが。何かあったのか?」


「恋愛についての話よ。前から付き合っている人はいるのかってよく聞かれていたんだけれど、いないって答えていたの。それで4月くらいは告白してくる人が多くてね」


「そんな話もあったなぁ。でも、それも落ち着いたんだろう?」


「5月くらいに同じ中学校から入学した人たちが私と祥吾の関係を広めたらしくて、それで公認の仲っていうのが広まったおかげね」


「俺も一時その話を聞かれたことがあったな」


「そうなの?」


「祐介がクラスでしゃべって、その直後は色々と聞かれたぞ。最初にしゃべったのが他人の祐介だったからある程度信用してもらえたようだが」


「それ以来、何もないの?」


「ないな。祐介や良樹からの話も出尽くしたし、もう飽きたんだろう」


「羨ましいわね。私の周りもそうなってほしかったわ」


 ため息をついたクリュスを見て祥吾は何と声をかけて良いのかわからなかった。同じ疑惑でも美人の方がはるかに長引くらしい。


「それでね、6月に運動会があったじゃない。あのとき、祥吾は陸上部の人といい勝負をしていたわよね」


「確かに。クラスに戻ったらちょっと騒がれたかな」


「あれでね、私の好みがスポーツ万能の男の人という噂が出回ったのよ」


「面白い伝言ゲームだな」


「ちっとも面白くないわよ。そのせいで、運動部の人からまた告白されるようになったんだから」


「俺との公認の仲っていう設定はどうなったんだ?」


「祥吾にスポーツで上回ったら彼女にできるかもしれないって希望を持っているそうよ」


「何をどう考えたらそうなるんだ?」


「知らないわよ、男子の頭の中の出来なんて」


 珍しく弱っているクリュスに何かできることはないか祥吾は考えた。しかし、何も思い付かない。こういうとき自分は役に立たないなと肩を落とす。


「それで、今後はどうするつもりなんだ?」


「落ち着くのを待つしかないでしょうね。期末試験までそんなに日があるわけではないし、その後は夏休みだから、動き回るのは良くないと思うの」


「何か力になれることがあればいいんだけれどな」


「祥吾こそ下手に動くと余計に悪化するわよ」


「だよな、俺もそう思う」


「ただ、祥吾もこれからは人に見られることになるかもしれないから気を付けてね」


「俺の方もかぁ」


 2人が校門辺りまでやって来ると他の生徒の姿も多数見かけるようになった。誰もが傘を差して登校しているわけだが、周囲を見ているとたまに祥吾たちへと目を向けてくる者がいることに祥吾は気付く。その視線にどんな感情が乗っているのかまではわからないが、注目を浴びていることは間違いないらしい。


 校舎でクリュスと別れた祥吾は小さくため息をついた。




 昼休み、祥吾は祐介に誘われて敦と徳秋も含めた4人で昼食を食べていた。ちなみに、香奈と睦美は別クラスの友人と約束があるということで教室を出ている。そのため、この日は男ばかりであった。


 弁当を食べながらの雑談が一区切りすると、敦がふと窓から空模様へと目を向ける。


「今日は雨だけど、今週末は晴れるらしいぜ。天気予報でそう言ってたからな」


「土曜日はバイトのシフトがあるんだよねぇ」


「徳秋も土曜なのか。オレもなんだよ。日曜日が空いてるんだ。お前、予定ある?」


「ないけど。どこに行くつもり?」


「そうだなぁ。あ、しばらく渋谷に行ってないから、今度の日曜に行かないか?」


「いいねぇ! バイトしてお金もあるから遊べるよ!」


「祐介、祥吾、お前ら2人はどうする?」


「オレは行くぜ。興味あるからな」


「俺はパス。用事があるから」


 敦の誘いを祥吾は断った。渋谷に興味がないということもあるが、用事があるというのも事実である。次のダンジョン攻略だ。


 断られたのが予想外という顔をした敦が祥吾に顔を向ける。


「用事ってなんだ? バイトでも入ってるのか?」


「次の期末試験に向けて勉強しないといけないんだ。中間試験の結果に親が納得していなくて、次で結果を出すように言われているんだよ」


「そんなことになってんのか。でも、オレや徳秋と点数はそう変わらなかったよな」


「それじゃ足りないんだ。どの教科もあと10点くらいあったら良かったんだけれどな」


「厳しいな、お前の親」


 嘘は言っていないが微妙に虚実を混ぜた説明を祥吾は敦たちに開陳した。世間体の良くない探索者活動を隠すためとはいえ、気が引ける。その態度が周囲に伝わったようで他の友人が同情の目を向けてきた。


 若干労るような声で徳秋が祥吾を慰める。


「大変だね、祥吾は。かわいそうだなぁ」


「そういうことならしゃーねーな。また今度一緒に行こうぜ」


「今月の前半なら空いていたんだけれどな」


「そりゃまたタイミングが悪かったな。そのときはオレの方がバイトで忙しかったし」


「また今度誘ってくれ」


「おう、そうする。後は香奈と睦美も後で誘ってやろう」


 こうして週末に出かける話は次の話題に移っていった。先程の誘いを断ったせいか、祥吾はその後の話に微妙に乗り切れない。


 何となく寂しい思いをしつつ、祥吾は友人たちの話を聞いていた。




 放課後、祥吾は授業が終わるとスポーツバッグに教科書、ノート、筆記用具を入れた。昼間、敦たちに言った手前、学校に長居するわけにもいかない。事実、期末試験に向けての勉強をしないといけないのは事実なのだ。


 席から立ち上がって歩き出した祥吾だったが、教室の扉付近で良樹に声をかけられる。


「祥吾君、ちょっといいかな。映像研究会のことで話があるんだ」


「ああ、なんだ?」


 呼び止めた理由を告げられた祥吾は自分が幽霊会員だったことを思い出した。映像研究会を維持するために所属しているだけではあるが、形式上は会員であることに違いない。


 良樹に先導されて祥吾は廊下に出た。真剣な表情の友人からどんな話をされるのか想像できない。若干緊張した状態で耳を傾ける。


「毎年8月と12月に東京メガサイトで開催されるコミックディストリビューションって知ってるよね。コミディスっていう通称で呼ばれてるイベント」


「お前が中学の時から行っていたイベントだよな。オタクの祭典だったか」


「それになんだけどね、映像研究会がサークル参加することになったんだ」


「お前らゴールデンウィークにもイベントに参加していなかったか?」


「そっちはティアコミっていう別のイベントだよ」


 指摘された祥吾は思い出した。クリュスと一緒にカラオケに誘われたときのことだ。オタク系のイベントがいくつもあることは知っていたが、映像研究会が複数のイベントに参加していることは気付かなかった。幽霊会員なのである意味当然ではあるが。


 ただ、映像研究会が夏に開催されるイベントに参加するということは理解できたものの、祥吾が呼び出された理由はわからないままだ。幽霊会員なので特にやることもないはずである。


「そのコミディスに参加するための頒布物を今みんなで作っているところなんだけど、万が一人手が足りなかった場合は手伝ってほしいんだ」


「今手伝うんじゃなくて、人手が足りなくなったときにか?」


「そうなんだ。予定じゃ間に合うはずなんだけど、予定は未定っていうじゃないか。そこで早めに誰かに頼んでおこうって研究会で話し合って、それで今、祥吾君に相談しているんだよ」


 人手を前もって確保しておくというのは良いことであった。頼まれた祥吾からすると予定通り作業を進めてほしいと願うばかりである。


「具体的には俺に何をさせるつもりなんだ?」


「簡単だけど数をこなさないといけない作業だよ。ラベル貼りとか印刷とかコピー誌作りとか」


「単純労働者が必要なわけか」


「そうなんだ。期末試験が終わったら1ヵ月ほど時間があるからいけるはずなんだけど」


 真剣に頼む良樹の姿を見て祥吾は迷った。幽霊会員で何かをする義務がないので応じる理由はない。しかし、イベントに向けて必死に作業をしている良樹たちのことを考えると手伝っても良いように思えた。何より、大型連休終了直前に見た映像研究会の活動報告のページを見て羨ましいと思ったのは事実である。


「確約はできないが、手が空いていたらいいよ」


「本当かい、ありがとう!」


「できるだけ早めに言ってくれよ」


「うん、そうするよ!」


 良樹が笑顔になるのを見た祥吾は応じて良かったと思えた。後はダンジョン攻略との兼ね合いだけである。


 うまく挟め込めると良いなと祥吾は考えた。

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