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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第4章 高校の定期考査とダンジョン攻略

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ダンジョンの無害化─滝山ダンジョン─

 守護者の部屋で豚鬼祈祷霊体オークシャーマンレイス3体を倒した祥吾とクリュスは体の力を抜いた。物理的な存在ではないので倒すと部屋にはドロップアイテム以外何も残らない。


 それを拾った祥吾独りごちる。


「あれを倒した報酬としてこの魔石が果たして見合うのかなぁ」


「ドロップアイテムの質と量はそのダンジョンの規模に比例するから、何とも言えないわね。一応魔物の質と量も同じ傾向はあるけれど」


「ただし、ドロップアイテムと魔物の傾向は一致するとは限らない、か。難しいな」


「そのダンジョン内の魔物の強さには比例しているらしいけれどね」


「だから割のいいダンジョンとそうでない所があるわけか。で、今回は魔石のみと」


 手にした拳大よりも更に大きい魔石を眺めた。現在、地球の科学文明では加工が難しいために限定的な使われ方しかしていない。そもそも魔力をほとんど扱えないので魔石を直接加工するしかないのが現状だ。研究は今も色々とされているらしいが、利用価値があまりないので取引額も小さいのである。同じ守護者のドロップアイテムならば毛皮や糸の方がまだ価値があった。


 そんな現状なので、大きめの魔石を手に入れても大金には化けてくれない。この守護者の魔物級で数万円だ。探究心や名声のため以外になかなかダンジョン攻略が進まないわけである。


「ともかく、これでダンジョンの攻略は終わったわ。核がある部屋へ向かいましょう」


「そうだな」


 手持ちの袋に魔石を入れた祥吾はクリュスに続いた。守護者の部屋の奥の壁に発生した扉にクリュスが手を付けるのを目にする。そのとき、タッルスのことを思い出した。周囲を見るといつの間にか祥吾の足元にちょこんと座っている。近くにいることを知って安心したとき、クリュスが扉を開けた。


 黒猫と共にクリュスに続いた祥吾は石垣で造られた通路の奥に部屋があるのを目にする。その中央にはダンジョンの核である水晶が鎮座している台座があった。


 台座の前に立ったクリュスが振り向いてしゃがむ。


「タッルス、こっち側に来てちょうだい」


 祥吾の足元からクリュスの元へ寄ったタッルスが抱え上げられた。そして、黒猫自体が輝き始め、丸まったかと思うとそのまま球体へと変化する。そのまま眺めているとすぐに台座の上にある水晶と寸分違わぬ姿になった。


 タッルスが変化した水晶を手にしたクリュスに祥吾は目を向けられる。視線を受けた祥吾は小さくうなずくと元から台座に置かれていた水晶を祥吾は持ち上げた。水晶の中央部分に筋のようなものが見える。


「クリュス、この水晶、真ん中に線みたいなのがあるぞ」


「それは(ひび)じゃないかしら。今回はそういう傷み方をしたのね」


 入れ替わりにクリュスが台座の上にタッルスが変身した水晶を置いた。それからしばらくして同じ大きさの水晶が生み出される。


「祥吾、タッルスを持ち上げて」


 手にしていた元の水晶をリュックサックに入れた祥吾は次いで台座に置いてある水晶を持ち上げた。それと入れ替わりでクリュスが手にしていた神々謹製の水晶を置く。これで作業は完了だ。


 タッルスが元の黒猫の姿に戻る中、クリュスが水晶に手を当てて目を閉じるのを祥吾は目にする。神々に作業報告をしているのだ。


 黒猫を抱えたままの祥吾はクリュスから声をかけられるのを待つ。これで仕事はひとつ片付いた。


 2人はリュックサックに荷物と黒猫を入れてそれを背負い、ダンジョンの核がある部屋から出る。


 守護者の部屋に戻ると祥吾は背伸びをした。隣のクリュスに話しかけられる。


「うまくいって良かったわね」


「まったくだ。もうひとつもこうあってほしいよ」


 2人が次のダンジョンについて思いを馳せていると両者の体が光り輝き始めた。すぐさま周囲が真っ白になり、短時間でその白さが薄れていく。


 周りに目を向けると、正面玄関(エントランス)に立っていることに気付いた。周囲には誰もいない。


 転移が終わると2人は階段を上がった。ダンジョンの外に出るとまだ明るい。


 周囲の様子を見た祥吾が目を見張る。


「すごいぞ、外が明るい!」


「まだ夕方にもなっていないものね。最近だと珍しいのは確かだけれど」


「そうだろう。いつもこんな感じで終われたらいいのになぁ」


 感情のこもった感想を漏らした祥吾はクリュスに苦笑いされた。しかし、いくら笑われてもこの感動は薄れない。


 そんな祥吾に対してクリュスがこれからのことを尋ねる。


「それじゃ、ドロップアイテムを売りに行きましょう」


「今日はまだ昼間だから確実に開いているってわかるのがいいよな!」


「そんなことでそこまではしゃぐの?」


「いいじゃないか、こういうときがあっても。ほら、早く行くぞ」


 2人はダンジョンの入口から警戒区域内にある道を歩き始めた。その間も祥吾は上機嫌だ。そんな祥吾をクリュスは楽しそうに眺める。


 やがて2人は正門の自動改札機を抜けると探索者協会の敷地に出た。探索者がちらほらと往来しているのが目に入る。


 滝山支部の本部施設に入った2人は着替えとシャワーを済ませると再び合流した。一旦ロビーまで歩く。


「いつどこから出てくるのかわからない霊体(レイス)みたいなのを警戒するのはやっぱり大変だったな」


「でも、今回はほとんど出てこなかったわね。動屍体(ゾンビ)白骨体(スケルトン)ばかりだったわ」


「それは俺も気になっていたぞ。番人の部屋と守護者の部屋にはいたが、問題になっていたのはそれじゃないからなぁ。どこにいたんだろう?」


「水晶に(ひび)があったのは確かだから、異常が発生していたのは間違いないわ。でも、それ以上のことはわからないわね」


「何だったんだろうな、結局」


 どちらも首をひねりながら本部施設の建物から出て売買施設へと足を向けた。中に入るといくつもの店舗があり、人もまばらにいる。


 全国にチェーン展開している買取店ダンジョンドロップアイテムズは出入口の近くにあった。2人は袋を手にして店内に入る。


 マニュアル対応の店員の案内に従って2人は隣のカウンターへ移った。そこで袋から売りたいドロップアイテムをカウンターへと並べてゆく。


 店員はすぐに査定の作業に入った。手慣れたもので淀みなく数を数えて金額をパソコンに入力していく。


「計算が終わりました、金額はこちらになりますがよろしいでしょうか?」


「はい。その金額を2等分して口座に振り込んでください」


「承知しました。口座振り込みの場合は、口座が設定された探索者カードかキャッシュカードをそちらのカードリーダーに差し込んでください」


 今回の祥吾は買取証明書にサインをした後に探索者カードをカードリーダーに差し込んだ。すると、あっさりと入金が完了する。


 探索者カードを懐にしまった祥吾はクリュスと共に買取店から出た。そして、そこで立ち止まる。


「さて、後は帰るだけなんだが、朝はタクシーで来たんだよな、ここへ」


「そうね。また呼ばないといけないから待つ必要があるわ。フードコートへ行きましょう」


 クリュスの先導によってフードコートへと向かった祥吾はそのまま売店へと足を運んだ。繁忙期ではないのでどこの店も客はほとんどいない。


 昼食は携行食を早めに食べて空腹だが、夕食がそろそろ気になる頃ということを考えて2人は食べ物を選んだ。祥吾はたこ焼き、クリュスはクレープである。ドリンクも別の店で購入した。


 フードコートの一席に座った2人は自分が買った物を食べ始める。


「このたこ焼きは、うん、普通だな」


「クレープも同じね。ちょっと前に評判だったらしいけれど」


「クリュス、タクシーは呼んだのか?」


「呼んだわよ。こっちに来たら連絡してくれるらしいわ」


「それじゃ、後は待つだけか」


「この後何も予定がないというのが良いわね」


 2人とも自分が買った食べ物を食べながら雑談をした。実にゆったりとした時間が流れる。


「これからはこういうのが多くなるのかな」


「向かう先が遠くなれば電車の後にタクシーで、何てことにもなりそうね」


「前みたいに真夜中に出てきたときはどうするんだ?」


「タクシーが必要なら呼ぶしかないでしょう。深夜割り増しでね」


「ああそうか、タクシーは呼べるんだ」


「ところで、前に攻略した奥多摩3号ダンジョンの守護者のドロップアイテムはまだ部屋に置いてあるの?」


「そうだ、あれ売れないからって置きっぱなしだった」


「でも私たち、表向きはあのダンジョンの守護者を倒していないことにしているのよね」


「あれって売っても大丈夫なのかな」


「足が付かないように売る方法も一応あるけれど」


「何だって?」


 つぶやきを聞き逃した祥吾はクリュスに聞き直した。しかし、何でもないと返される。


 その後もしばらく奥多摩3号ダンジョンの守護者のドロップアイテムについて話し合ったが、結局しばらく保管することに決まった。

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