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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第4章 高校の定期考査とダンジョン攻略

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2学期の行事について

 6月も後半になると雨の日が多くなってくる。毎年一定ではないものの、大体梅雨はこの時期から始まることが多い。6月は梅雨の季節とよく言われるが、実際は5月から7月の間の一定期間と言った方が正しいだろう。


 この日も朝から雨だった。自転車通学をしている祥吾にとっては実に面倒な日である。こういう日の登校は2つの選択肢があった。ひとつは合羽を着て自転車通学、もうひとつは傘を差して徒歩通学である。前者は大変蒸れて不快な上、学校に着いた後の合羽の処置が面倒だ。後者は家を出る時間が早くなる。


 ちなみに、傘を差して自転車通学という選択肢はない。風が少し吹けば一部以外ずぶ濡れになる上に、駐輪場近辺でものすごく面倒なことになってしかも高確率で濡れること請け合いだからだ。


 ということで、祥吾は雨の日になると傘を差して徒歩通学をしている。家を出る時間が早くなるのは多少面倒だが、幸い起床時間も朝の支度にも影響はない。普段から余裕があるからだ。そして、クリュスとの待ち合わせ時間もその分だけ早くなる。家にいる間に連絡し合って調整するのだ。


 学校に着いた後はいつも通りである。傘立てに傘を入れてから教室に入ると多少湿気っている以外は普段と変わらない。


 ただ、この日はいつもと少しだけ違った。事の発端はホームルームである。担任である沢村教諭から2学期の行事についての話があったのだ。


 教壇に立った沢村教諭が生徒たちに説明をする。


「まだかなり先ですが、9月の末にある文化祭について話をしておきます。7月に期末試験、8月は夏休みなので意外に時間がないからです。ですから、早めに何をするのか決めて動いた方がいいですよ。どのクラスがどんな出し物をするのか決まるのは2学期に入ってからですが、今学期中にいくつか候補を挙げて夏休みに下準備をしておくと9月に慌てなくて済みますからね」


「先生、9月に出し物が決まるなら夏休みに下準備なんてできなくないですか?」


「いくつか案を出しておいて、最終的に2つか3つに絞った後に、その候補のどれが選ばれてもいいように何が必要なのかを調べておくんです。出し物によっては夏休み中にお店とか知り合いに頼んでおかないと間に合わないという場合が過去にありましたから」


 沢村教諭と生徒の質疑応答が続く中、教室内が徐々に騒がしくなっていった。高校の文化祭の出し物だから程度が知れているとは言っても、出店物によっては準備に時間がかかるものは確かにある。他にも、飲食店をする場合はそのための許可の申請や食べ物の調達と保管が何より重要になる。問題が起きたら来年以降にも大きな影響があるのだ。


 周囲の話を聞きながら祥吾はぼんやりと文化祭について考えていたが、これは地味に困った問題だった。準備に手間がかかりすぎる出し物だと9月の空き時間が文化祭の準備に取られかねないからだ。演劇のような練習が必要なものは論外として、他にも事前準備が大変なものはできるだけやりたくない。


 ホームルームが終わっても、生徒の間では文化祭の出し物についてちょっとした話題になっていた。まだアイデアを出し合う段階なので誰もが好き勝手なことを言っている。


 放課後、祥吾は授業が終わると帰る支度をしていた。そこに祐介がやって来る。


「祥吾、文化祭の出店について話をしたいから来てくれ」


「随分と気が早いな」


「とりあえずアイデアだけでも出し合っておきたいんだ。鉄は熱いうちに打てってね」


「どうせいつかはしないといけないことだもんな。早い方がいいか」


「そういうこと。良樹も呼んであるからな」


 立ち上がった祥吾は引き返していく祐介の後を追った。視界の端に良樹も寄ってくるのが映る。敦の席近辺には既に徳秋、香奈、睦美が集まっていた。


 全員が揃うと敦がみんなに呼びかける。


「今日のホームルームで先生が言ってた文化祭の出し物についてアイデアをだそうぜ」


「敦は気が早いね~」


「言うだけならタダだからな! それに、たくさんアイデアを出せば、めちゃくちゃすごいのが出るかもしれないだろ」


 呆れているのか感心しているのかよくわからない睦美の言葉に敦が明るく反応した。言っていることはその通りだ。


 ここで最初に反応したのが徳秋だった。普段と違う積極性に全員が注目する。


「はいはい! オレはメイド喫茶がやりたい!」


「徳秋がメイドになるのか?」


「誰得だよそれ!? 違うって。オレはメイド喫茶がやりたいって言ってるんだよ!」


 敦の混ぜ返しにもめげずに徳秋が勢い良く主張した。それを見た香奈と睦美は微妙な表情を顔に浮かべる。一方、祐介と混ぜ返した敦の反応は悪くない。


「メイド喫茶か。悪くないな」


「絶対受けると思うんだよね!」


「でもなんでそこまでしてやりたいんだ?」


「メイドが見たいから!」


 元気よく端的な返事をする徳秋に質問した敦が呆然とした。どうもあまり深い考えはないらしい。


 このやり取りを見ていた祥吾も徳秋に少し呆れていたがふと違和感を抱いた。ちらりと良樹に目を向ける。こういう話ならば食い付いてもおかしくない人物が微妙な表情のまま黙っているのだ。


 気になった祥吾は良樹に話しかける。


「良樹、どうした?」


「う~ん。徳秋君には申し訳ないけど、特に今年にメイド喫茶をするのはやめておいた方がいいと思う」


「なんで!? それに今年?」


「恐らくなんだけど、今年はクリュスさんがいる進学クラスが同じことをする可能性が高いと思うんだ。同じメイド喫茶でも、本物のメイドを擁したあそこに勝てるとは思えない。きっとお客はあそこに集中すると思う」


「ああ、クリュスちゃんのメイド服姿! オレも見たい!」


 良樹の指摘に徳秋が崩れ落ちた。この案を支持していた祐介と敦からも反論はない。香奈と睦美は納得の表情だ。確かに金髪碧眼のクリュスがやったら破壊力抜群だろう。ちょっと日本人で勝てる気がしない。


 沈黙した徳秋たちに良樹は更に提案する。


「どうしてもあの手の喫茶をしたいんなら、メイド喫茶じゃなくて執事喫茶はどうかな。こっちは男子が執事服を着て給仕するんだけど、これならクリュスさんのメイド喫茶とかち合わないからいけると思う」


「ああそうか、向こうは男子の客が集中するから、こっちは女子を狙うわけだな」


「何それちょっと見たいじゃん」


「わたしも~」


 今度は逆に香奈と睦美の反応が良かった。祐介、敦、徳秋は嫌そうな顔をしている。準備が面倒そうだと祥吾も反対だ。


 話題を逸らそうと祐介が良樹に話を振る。


「良樹、お前自身は何かしたいことはあるのかよ?」


「僕は映像研究会の出し物があるから、そっちの準備をしないといけないんだ。だから、クラスの方はあまり手伝えないと思う。ということで、僕からの提案だと休憩室になるよ」


「なるほどな。香奈と睦美はどうだ?」


「あ、実はアタシたち、1個アイデアがあるんだよね!」


「そうそう! あたしと香奈はね、かわいいアクセサリーの展示がしたいんだ~」


「ネックレス、ペンダント、ピアス、イアリング、ブレスレットとか!」


「キーホルダーとか、アクリルのかわいいやつとかも~!」


 睦美の具体例はグッズではないのかと祥吾は思ったが指摘はしなかった。いまいち自信がなかったからだ。


 それにしてもと祥吾は考える。もし予想通りならばこれは悪くないと案だ。試しに香奈へと尋ねてみる。


「そのアクセサリーはどうやって集めるんだ? たぶん、香奈や睦美が想像しているアクセサリーだと男子の方は集めるのに対して役に立たないと思うんだが」


「そうだね。でもそれじゃ、アクセサリーを集めるのはアタシら女子がして、男子は展示の準備をするってのはどう? 役割分担ってやつ」


「展示会場の設置か。その上で女子が飾り付けをするわけだな」


「そうそう!」


「だったらいいんじゃないのか?」


「え、マジ? 祥吾ってこのアイデアに賛成してくれるの?」


「アクセサリーの良し悪しはたぶん男子にはさっぱりわからないから、そっちは全部丸投げになるぞ?」


「もちろん任せてよ! そういう伝手もあるからアクセサリーは何とかなるよ!」


 1人の男子からの支持をえた香奈と睦美が驚きつつも喜んだ。


 もちろんこれには祥吾の思惑もある。女性用アクセサリー展示の場合、男子はほぼ直前の会場の設置と終了後の片付けだけで済むので、日程の調整は文化祭当日前後だけを考えれば良くなるからだ。


 この点に気付いた良樹も賛成に回ると、執事喫茶の衝撃が抜けきらない祐介、敦、徳秋の3人も反対できずに押し切られる。これで流れは決まった。


 祥吾たち6人のグループは1日もかからずに文化祭の案をまとめ上げる。20人クラスの6人が支持するこの案は採用されやすいように思われた。

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