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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第4章 高校の定期考査とダンジョン攻略

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久々のお呼ばれ

 運動会があった週の末、祥吾は昼からクリュスの住むマンションへと出向いた。表の用向きは勉強のためだ。実際はタッルスからの呼び出しである。


 クリュスの住まいはマンションの一室である。中学生のときから毎月自分でその家賃を支払っているというのだから祥吾は驚くばかりだ。


 鞄を持った祥吾はそんなマンションにたどり着くと、エントランスホールでオートロック式の扉に阻まれた。脇にあるテンキーを入力してインターホンのボタンを押すとクリュスの声がスピーカーから聞こえてくる。


 次いで住民側で暗証番号を入力してもらうと、スライド式の扉が自動で動いた。その後は普通のマンションと変わりない。祥吾はエレベーターを使って昇り、クリュスの部屋の扉の前で改めてインターホンを押す。扉はすぐに開いた。白のブラウスにややゆったりとしたベージュのパンツ姿である。


「いらっしゃい、祥吾。入ってちょうだい」


「お邪魔します」


「にゃぁ」


 部屋の主に促されて玄関に入るともう1匹、お座りをした猫が出迎えてくれた。金色の眼に黒一色の毛並みの上品な黒猫だ。タッルスである。


 靴を脱いだ祥吾がその隣で(かが)むとタッルスは近づいて来た。そうして鞄を腕に掛けつつ持ち上げて抱えると甘えた声で鳴いて顔を擦り付けてくる。


「お前はどうしてたまに俺を呼びつけるんだ?」


「不思議よね。私が祥吾の家に行くときは興味なさそうなのに」


「そうえいば前から不思議だったんだ。タッルスは俺の家に来たことがないよな」


「確かにそうね」


「何か嫌なものでもあるのかな?」


「行ったこともないのにそんなのわかるわけないでしょう」


 言われてみればその通りなので祥吾は言葉に詰まった。その間もタッルスは祥吾に甘え続けている。


 話をしながらも祥吾はクリュスにリビングへと案内された。今日はソファからローテーブルが離されており、座布団が対面に座れるよう敷かれている。


 先に座るよう勧められた祥吾はタッルスを脇に置くと座布団に座った。そして、鞄から教科書とノート、それに筆箱を取り出して用意をする。その間にタッルスは祥吾の膝の上に乗ってきた。


 それを見た祥吾が困惑の表情を浮かべる。


「タッルス、俺は今から勉強しないといけないんだ。降りてくれないか?」


「にゃぁ」


 祥吾の声に反応したタッルスは一声鳴くとその膝の上で丸くなった。要求を受け入れてくれる様子はなさそうだ。


 そこへクリュスが紅茶を持ってくる。


「これは当分動きそうにないわね」


「動きづらいんだよな、これ」


「このままずっと勉強していなさいということじゃないの?」


 2人分をローテーブルに置いたクリュスは祥吾の対面に座った。そうして教科書とノートへと目を向ける。


 今回は高校の授業内容を復習する予定だ。4月に入学して今は6月なので1教科辺りの復習量はそこまで多くない。しかし、それをすべて足し合わせるとまずまずの量になるので結構大変である。


 クリュスの指示で、祥吾は最初に比較的得意な教科から復習を始めた。これで勉強の調子を上向けようという魂胆だ。わからない点も少ないので勉強は軽快に進む。


 1つ目の教科が終わって小休止を挟んだ後、祥吾は次の教科を選んで復習を始めた。その直後、それまで眠っていたタッルスが起き上がる。


「にゃぁ」


 借りている膝の主へと顔を向けたタッルスが一声鳴いた。勉強を再開したばかりの祥吾は顔を下に向ける。すると、右腕を持ち上げて何かを招こうというような動きをした。


 その動きが何を要求しているのか知っている祥吾は非常に困惑した表情を浮かべる。遊んでほしいらしい。さすがに勉強中なのでそれはどうかと思いつつクリュスへと目を向けると、忍び笑いをしているのが見えた。


 ため息をついた祥吾は妥協案として左手で頭を撫でながら勉強を続けることにする。やりにくくなったのは確かだが、これならまだ何とか勉強を継続できた。これが該当の教科中ずっと続く。


 何とか勉強を一区切り付けた祥吾は小休止に入った。そこで大きくため息をつく。


「クリュス、タッルスをどうにかしてくれないか?」


「そうなると私じゃ難しいわね。祥吾に甘えているときは特に言うことを聞かないから」


「どうして俺限定なんだ?」


「さすがに知らないわ。タッルスに聞いてちょうだい」


「猫語はわからないんだよなぁ」


「今のままでも勉強を続けられるのならば、そのまま撫でてあげたらどう?」


「結局そうするしかないんだよな」


 休んでいる間は両手で撫で回すことで祥吾はタッルスのご機嫌取りに勤しんだ。構ってもらっている黒猫は気持ち良さそうに身じろぎして応える。


 この後も、祥吾はタッルスの機嫌を取りながら勉強を続けた。たまにもっと構えと要求してくることがあるが、なんとかなだめて勉強させてもらう。


 その間、クリュスは1度自室に戻っていったことに祥吾は気付いた。しかし、自分の勉強を優先して何も言わずに教科書とノートへと目を戻す。左手は相変わらず黒猫の相手で忙しい。


 どのくらい時間が経過したのかわからなかった祥吾は聞きたいことがあって顔を上げると、まだクリュスが自室から戻ってきていないことを知る。この様子だと簡単には戻って来なさそうだと判断すると、不明点は後回しにして先に進むことにした。


 クリュスが戻って来たのは次の小休止に入る直前だ。質問を溜め込んでいた祥吾が顔を上げる。


「かなり自分の部屋にいたな」


「ええ、勉強が終わったら話すわ。それでわからない点でもあるのかしら?」


 機先を制された祥吾は説明してもらえるのならばとその時点では何も言わなかった。そうして復習での疑問点を尋ねてゆく。


 結局、祥吾は今日の復習は予定よりも時間をかけて終わらせた。それからは黒猫の遊び相手をしながらクリュスと話をする。


「クリュス、さっきの自分の部屋にいたときの話ってなんなんだ?」


「神様からのお話よ。前に神様からもらった神話水晶(しんわすいしょう)から連絡があってさっき話をしていたの」


「あの神様と会話する魔法の道具だったか。小さめの。ということは、ダンジョンか」


 猫を撫でながら答えを返した祥吾にクリュスがうなずいた。ここ最近はなかったが、ついにやって来たわけだ。


 渋い表情をした祥吾がクリュスに尋ねる。


「次はどこのダンジョンなんだ?」


「滝山ダンジョンと狭山ダンジョンよ」


「どこだ? そんなに遠くはないんだよな?」


 首を傾げる祥吾に対して、クリュスはスマートフォンを取り出して地図を見せた。横田ダンジョンがある地域を起点とすると、滝山ダンジョンは南側で多摩川の向こう側、狭山ダンジョンは少し離れた東側にある。


「そろそろ自転車で行くのがつらくなる範囲だな。往復することを考えると」


「早く帰れたことがほとんどないものね」


「それで、この2つのダンジョンは何がどうなっているんだ?」


「まず滝山ダンジョンは、活性死体(アンデッド)系の魔物がいるダンジョンよ。階層は地下6層までと深くはないけれど、普通の武器が通用しない霊体(レイス)系の魔物がいることで有名ね。魔法か魔法の武器でないと触れることもできないわ」


「つまり、俺は役立たずだってわけか」


魔力付与(エンチャント)の魔法があるから戦えるわよ。それで、ここのダンジョンの核に異常が発生したらしいのよ。新たに生成された霊体(レイス)は以前の個体よりも強く、常時ダンジョンの外に出られるみたい」


「最悪じゃないか。探索者協会で何か異変を察知しているのかな?」


「エクスプローラーズで確認したところによると、霊体(レイス)に対応できる探索者を募集する依頼が出ているわね」


「つまり、もう何らかの影響が出ているってわけか」


 難しい顔をした祥吾が黙った。黒猫を撫でる手が止まる。


「次に狭山ダンジョンだけれど、ここは仕掛けが中心のダンジョンよ。魔物は土人形(ゴーレム)系が中心だわ。階層は全部で7階層」


「仕掛けか。罠が巧妙に仕掛けられていたり、数がやたらと多かったりなんかか?」


「何て説明すればいいのかしらね。罠はもちろんたくさんあるけれど、命懸けのアトラクションみたいな感じかしら」


「嫌なアトラクションだな。クリュスが管理していた迷宮みたいなものか?」


「あれを悪意化した方ね」


「やっぱり最悪じゃないか」


「こちらも最近ダンジョンの核に変化があったらしくて、以前よりも仕掛けが凶悪化しているらしいわ。エクスプローラーズにはまだ情報は何も上がってきていないみたいだけれど」


「現地に行かないとわかりにくいか」


 説明を聞いた祥吾の表情が厳しくなった。事前情報がないのはきつい。


 2人で相談した結果、期末試験のことを考えると今月中に対処した方が良いと結論づける。神々が言うには急ぎではないらしいがあまり信用もできない。


 これで一気に忙しくなったと祥吾は肩を落とした。

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