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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第4章 高校の定期考査とダンジョン攻略

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探索庁監視隊の募集─奥多摩3号ダンジョン─(4)

 高校入学前の春休み、祥吾とクリュスが黒岡ダンジョンの核がある部屋を目指していたときのことだ。クリュス目当てで襲ってきた探索者たちがいた。その狼藉者たちはすぐに祥吾が1人で制圧したわけだが、生かしたまま捕らえたことでその身柄をどうするかという問題が発生する。そのときは色々と考えた末、一旦引き返して探索庁監視隊にその身柄を引き渡した。


 魔法で拘束されて動けない探索者6人を見ながら祥吾は過去を思い出す。探索庁監視隊の募集依頼を受けた際にいくつか注意事項があったが、その中に全階層の確認が終わるまで守護者の部屋には入らないというものがあった。安全を確認しないうちに守護者の魔物と戦うのが危険なのと、それをきっかけに何が起きるからからないからだ。


 その規約を違反した6人たちは保身のために祥吾たちを殺そうとした。なので拘束したのは間違いなく正当防衛である。それは疑いない。


 問題なのは、それによって発生する事後処理と自分たちの都合だ。それをクリュスと話し合おうとして顔をしかめる。目の前の6人に聞かれるのはまずい。


 クリュスに近づいた祥吾はその耳元でささやく。


「あいつらを眠らせてくれ」


 小さくうなずいたクリュスは何事かをつぶやいた。すると、探索者6人が固まった状態のまま全身の力を抜いて頭を垂れる。


 その様子を見た祥吾は肩の力を抜いた。そして、顔をしかめる。


「そうか、最初から眠らせておけば良かったんだ」


「祥吾、どうしたの? 恐らくこの6人についての話をしたいんでしょうけれど」


「黒岡ダンジョンで襲ってきた奴を返り討ちにしたことがあっただろう。あのときと同じように、今後どうするのかということを話し合いたいんだ。それで、ひとつ確認しておきたいんだが、この6人を地上まで連行するために今日は攻略を諦めるっていうのは構わないのか?」


「良いか悪いかで言えば構わないわよ。可能な限り速く対処する必要はあるけれど、絶対に今日でないといけないわけじゃないから。ただ、そうなるとできれば明日にやり直したいわ。核に異常が発生している以上、先延ばしにするほど危険性が増すから」


「青村多摩川ダンジョンや横田ダンジョンのときは2週間か3週間くらい大丈夫だったのに、今回は1週間延ばすのも駄目なのか?」


「これは神様の受け売りになるんだけれども、同じ異常でも発症の仕方がそれぞれ違うらしいのよ。例えばゆっくりと状況が進行していく場合や急に悪化していく場合なんかね」


「ここは急に悪化するタイプなのか」


「らしいわよ」


「くそっ!」


 最も穏便にまとめられる方法がなくなった祥吾が悪態をついた。こうなると、すべての条件を満たすのではなく、何かを諦めないといけない。具体的には、狼藉者を探索庁監視隊に引き渡すために戻って明日再攻略することで試験勉強を諦めるか、ここで6人を殺して攻略を済ませるかだ。


 そこまで考えて祥吾はクリュスへと振り向く。


「クリュスの睡眠(スリープ)の魔法ってどのくらい維持できるんだ?」


「やろうと思えば何時間でもできるわよ。ただ、外的要因で目覚めることがあるから実際はどうなるかわからないわ」


「そうなると、あいつらがロープとタオルを持っているか調べよう。あればそれで縛って目隠しするんだ。それで俺たちが攻略して戻って来た後に連行するっていうのはどうだ?」


「悪くないと思うわ。というより、それしかないでしょうね。ロープがないときはどうするの?」


「ビニールテープみたいなやつがあればそれで手足をぐるぐる巻きにしてしまえばいい」


 考え方が異世界水準になりかけていた祥吾は妥当な案を思い付いて安心した。殺害という方法は簡単に選ぶべきではないし、そもそも選択肢に入れないようにするべきなのだ。


 穏便に済ませられる方法が決まると2人はすぐ行動に移った。6人の荷物を手分けして探す。ロープは3人が持っていた。タオルはもちろん全員が所持していたが、クリュスがガムテープを発見する。タオルの代わりに目隠しの道具として使うことにした。そうして、全員の手足をロープで縛り上げ、ガムテープで目と耳を何重にも巻き上げる。


 谷間の隅にまとめて置くと、2人は守護者の部屋ならぬ広場へと向かった。小走りで進みながら祥吾がクリュスに伝える。


「今回はできるだけ短時間で仕留めるぞ。あいつらが起きる前に全部片付けたい」


「私たちも規約違反したって知られたくないものね」


「そういうことだ。それにしても、でかいな、あれは」


 ひときわ広く谷底の奥に立っている山猪(マウントボア)は近づくほどにその大きさがよくわかった。成人男性の5倍程度もある猪の魔物は突進能力に優れ、真正面から突っ込まれると非常に厄介だ。しかし、横からの攻撃は弱く、方向転換もできない不器用さがある。つけ込むならばそこだ。


 2人が広場に踏み込んだ途端、山猪(マウントボア)は突進してきた。短距離で最高速まで上げ、距離の短さに似合わない威力をぶつけてこようとする。


 当然、2人はまともにぶつからない。あと少しというところで祥吾が、次いでクリュスが横に避けた。立ち上がった祥吾はすぐに山猪(マウントボア)に駆け寄り、クリュスは魔法の呪文を唱える。


「畜生、でけぇ!」


 人間が手にする剣でどうにかできる大きさの魔物だと祥吾にはとても思えなかった。これは自分が囮になって魔物の気を引きつけて魔法で倒す方が良いと判断する。


 成人男性の上半身くらいもありそうな頭部を睨みながら祥吾は剣で牽制し始めた。しかし、山猪(マウントボア)は気にすることなく鋭い牙で噛みつこうとしてくる。そのとき、剣の刃全体がぼんやりと淡く輝き始めたのに気付いた。火属性魔力付与(ファイアエンチャント)だ。これで猪の魔物の鼻面を切ってやると悲鳴を上げて後ずさってゆく。


「はは、これはいいな!」


 魔法による支援を得た祥吾は方針転換して攻めることにした。相手に手傷を負わせられるのであれば攻めた方が良いからだ。クリュスへ意識が向かないよう、同時に突進する距離を与えないように近づいて小刻みに攻撃を繰り返す。


 経過は順調だった。こまめに動いて自分を気付けてくる人間に興奮したらしい山猪(マウントボア)が祥吾に何度も噛みつこうとする。たまに超短距離を突進するがいずれも躱されてしまう。


 苛立ち、次第に動きが雑になっていく山猪(マウントボア)に3本の石の槍が地面から襲いかかった。右前足の付け根、腹の真ん中、左後ろ足の付け根へと太く鋭い槍が突き刺さる。大きな悲鳴が上がった。


 傷みで苦しみもがく山猪(マウントボア)はしかし刺さった石の槍を引き抜けない。地面から生えているため、折れない限りは自重でますます食い込んでいくだけである。


 好機と見た祥吾は山猪(マウントボア)の首元に近寄ってひたすら切り続けた。あまりにも大きいために1回ではとても斬れない。また、斬れても暑い皮膚と脂肪と筋肉が致命傷をなかなか寄せ付けないでいる。


「あーくそ! 丈夫すぎるだろう!」


 もう何度目かわからないほど斬りかかった祥吾だが、ついにそのときが来た。あるとき大量の血を吹き出したかと思うと、山猪(マウントボア)の動きが急速に弱ったのである。


 石の槍に支えられるような形で動かなくなった山猪(マウントボア)を見ながら祥吾は大きく息を吐き出した。ようやく決着が付いたのだ。


 目の前の大きな魔物を眺めたままぼんやりとする祥吾にクリュスが近づく。


「お疲れ様、大変だったわね」


「大きいっていうのはそれだけで強いからな。あーやっと終わった」


「ドロップアイテムが出てきたわね。大きな魔石に牙と毛皮だわ。でも、今日は売れないわね」


「え? ああ、守護者の魔物とは戦っていないことにするからな。だったら、他のドロップアイテムとは別の袋に入れておいた方がいいよな。間違って買取カウンターに出したら困るし」


 祥吾の言葉を受けたクリュスが新しい袋を取り出して守護者の魔物のドロップアイテムを入れた。これで袋自体を間違って差し出さない限りは安全だ。


 剣を鞘に収めた祥吾はスマートフォンを取り出してその画面を見る。


「午後4時半か。あー駄目だ。どうやっても日付を越えるじゃないか」


「あの6人を連れて戻ったら、その事情聴取もあるわね」


「もういっそのことここに放って行こうか」


「気持ちはわかるけれども、今回は諦めて連れて行きましょう」


「くそ、なんであいつらあんな所にいたんだ」


 この後の予定のことを考えた祥吾は地面を蹴った。一応目的は今日中に果たせるが、その後の予定が厳しすぎる。


 そんな祥吾をよそにクリュスが広場を見渡した。すると、谷間の急斜面の一角に扉が現われたのを目にする。守護者の魔物を倒した後に現われるダンジョンの核がある部屋に通じる扉だ。


 荒れる祥吾はクリュスになだめられて落ち着く。これ以上悪態をついても仕方がない。気持ちを切り替えると扉の前に向かった。

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