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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第4章 高校の定期考査とダンジョン攻略

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探索庁監視隊の募集─奥多摩3号ダンジョン─(1)

 高校の中間試験直前の週末、それは最後の追い込みをする貴重な時間だ。本当に勉強をするかどうかは当人次第だとしても、この時期にまったく勉強しないという思い切った生徒は少数派だろう。


 祥吾はそんな少数派寄りの多数派だ。すべてが順調にいけば日曜日が試験勉強に丸々使える。最悪の場合は2日丸々ダンジョン攻略だ。なので、何としても1日で目的を達成させようと意気込んでいる。


 土曜日の朝、祥吾は早朝に目を覚ました。前日は早めに寝たので眠いということはない。体調は万全である。


 リュックサックとスポーツバッグの中を確認した祥吾は朝食を済ませてから自宅を出た。途中、待ち合わせ場所でクリュスと合流し、最寄り駅に入る。やって来た電車に乗り込んで1時間ほど揺られると終点にたどり着いた。


 駅から出た2人は探索者協会の奥多摩支部へと向かう。目指す場所があるのは奥多摩1号ダンジョンだ。今回向かうのは奥多摩3号ダンジョンだが、この辺りは山深く人もあまり来ないのでダンジョン単位で支部を開設できない。そのため、中心となるダンジョンに併設された探索者協会の支部が周辺のダンジョンを管理しているのだ。今回の場合だと、奥多摩1号ダンジョンに支部があり、2号から4号までをまとめて管理している。


 奥多摩支部の本部施設に入った祥吾とクリュスは閑散としているロビーを目にした。脚を止めた祥吾が首を傾げる。


「思ったよりも人が少ないな。募集に応じた探索者は少ないんだろうか?」


「みんなここで着替えて3号ダンジョンに行っているのかもしれないわよ」


「なるほど、ここは目的のダンジョンじゃないもんな」


 納得した祥吾は再び脚を動かした。奥にある通路に入った2人は更衣室へと別れて入る。男性更衣室では祥吾がスポーツバッグからインナーやエクスプローラースーツを取り出して身につけて、プロテクターと剣を装備して完了だ。ロッカーにスポーツバッグをしまい、リュックサックを背負って廊下に出た。ほぼ同時にクリュスも姿を現す。


「受付カウンターで最新の情報は受け取れるかな」


「ついさっき異常が発生したという状況じゃない限りは何もないはずだけれど」


「現在確認中のダンジョンだと何が起きるかわからないからな」


 何もあってほしくないと願いつつ、2人はロビーへと向かった。揃って受付カウンターまで歩いてクリュスが受付嬢に話しかける。得られた情報は、奥多摩3号ダンジョンの魔物の放出は4日前に終わり、2日前からダンジョン内の確認および魔物の駆除の途中で、現在は地下3層までの確認および駆除が完了しているというものだった。


 受付カウンターを離れた2人はロビー内を歩く。


「特に異常はなさそうだったな。地下3層まで作業が終わっているということは、あと半分か」


「確認期間は2週間あるらしいけれど、この様子だとそんなに必要はなさそうね。しらみ潰しに確認してもあと3日もあればすべて終わるんじゃないかしら」


「ということは、俺たちが希望している地下6層の確認作業も受け入れてもらえそうなわけだ」


「これは都合がいいわ」


「ところで、注意事項のところに全階層の確認が終わるまで守護者の部屋に入るなって書いてあるんだが」


「本当は守るべきなのは私にもわかっているわ。でも、今回は時間がないから悪い子になりましょう」


「優等生がそんなことをするなんてな」


「周りのみんなが勝手に言っているだけよ、優等生だなんて」


 微笑みながらクリュスが答えたのを見た祥吾はわずかに怖いなと感じた。怒らせて手段を選ばずに反撃されたら大変なことになるのは間違いない。


 できるだけ怒らせないようにしようと心に誓いながら祥吾は建物の外に出た。ここから奥多摩3号ダンジョンへと向かうわけだが、歩いて向かうとなると時間がかかる。そこで、今回奥多摩3号ダンジョンへ向かう探索者向けの臨時シャトルバスを利用した。


 2人が乗り込んだ臨時シャトルバスは他に誰も乗っていない。それに揺られること約30分で目的地に到着する。降り立った場所は駐車場だった。それ以外は目の前にそびえる壁しかない。そして、その壁に空いたトンネルの手前に仮設テントが設営されていた。


 この辺りまでやってくると、それまでとは違って嫌な臭いが鼻を突く。


「何この臭い。結構強いわね」


「死体の臭いだな。そうか、警戒区域で魔物の駆除がずっと行われていたんだから臭って当然だな」


「そういえば、外だと魔物の死体は消えないんだったわね。すぐにひどい状態になるらしいけれど」


 ダンジョンで発生する魔物はその内部にいる限りは一定時間後に消えるが、外に出るとその死骸は残ったままだ。しかもこの死骸、研究もろくにできないくらい肉も骨も急速に劣化するという。それでいて死臭は残していくのだから迷惑な話だ。


 その臭いを我慢しながら2人は進んで仮設テント内に入った。ここが奥多摩3号ダンジョン内の確認および魔物駆除の本部である。あちこちに消臭スプレーが置いてあるのが印象的だ。案内係に声をかけると、折り畳み式の長机を並べて作られた仮設の受付カウンターに誘導される。


「エクスプローラーズにログインして、この機器の上にスマートフォンをかざしてください。これで今回の募集者であることを確認します。また、今回担当する場所も表示されるのでご確認ください」


 受付係の中年隊員の指示に従って2人は機器の上にスマートフォンをかざした。わずかな待ち時間の後、画面に担当区域が表示される。


「表示されましたね。それでは、これからダンジョンに入ってその場所まで移動してください。地下3層までの確認と駆除は完了していますが、ダンジョン内ですのでたまに魔物が現われることがありますから注意してください。また、地下4層以下は未確認の場所がある上に、魔物の駆除も充分できていない可能性があります。なので気を付けてください」


 諸注意を一気に伝えられた2人はうなずくと仮設テントを出た。そうしてそのままトンネルに入って正門を過ぎる。


「トンネルを抜けると、そこは死体の山だった」


「珍しいわね。文学の一文をもじるなんて」


「これが何の小説か知っているのか?」


「教科書にあったじゃない」


「そんなことは忘れたな」


「この臭いもすぐに忘れたいわね」


「でも、それが無理ならせめて誤魔化したくもなるだろう」


「確かに精神的な消臭スプレーが必要ね。臭いが魔物のものであっても」


 警戒区域にはまだ片付けられていない魔物の死骸が大量に放置されていた。正門とダンジョンを結ぶ道の左右50メートル程度は片付けられているが、それ以外はそのままだ。まるで魔物の死骸の中を歩いているようである。なかなか強烈な体験だ。異世界でもここまで大量の死骸を見たことはない。


 正門からダンジョンへの一本道には何人かの探索者たちが往来している。普段は出入りする探索者がほとんどいないらしいので、この状態は奥多摩3号ダンジョンにとってかなり盛況な部類に入った。


 自分たち以外の探索者は平気な顔をしている者たちばかりなので祥吾は驚いたが、歩いていると道の途中や隅に吐瀉物がたまにぶちまけられている。はやり耐えられない者はいいるようだ。その事実に少し安心する。


 他のダンジョンのときよりも時間がかかったように思いつつも祥吾はその入口に立った。この死臭から逃れたいという気持ちもあってすぐに階段を降りてゆく。


 2人が階下に降りると、そこには山の谷間のような風景が広がっていた。足場は緩やかなU字型で石を多く含んだ土で覆われている。上は谷間から見上げた空が見えるが、一面雲に覆われている。そうして薄らと天井らしきものが見えた。


 周囲を見たクリュスが口を開く。


「青村多摩川ダンジョンとは違うけれど、自然の地形を模した通路になっているのね」


「このダンジョンのある場所にちなんでいるんだろうな。これは歩きにくそうだ」


「地下3層までは問題ないらしいから早く行きましょう」


 先を行くよう促された祥吾はうなずいた。観光をしに来たわけではないので必要以上に同じ場所で留まるわけにはいかない。


 クリュスの指示に従って祥吾は渓谷の狭間を歩いた。川は流れていないが歩く場所は河原と似ている。石畳のありがたみがよく理解できた。


 渓谷を歩く2人は地図情報に沿って奥へと進んでゆく。仮設テントの規模からすると少なくない探索者が今回応募しているように思えたが、地下1層では誰とも会わない。更には魔物も姿を現さないでいる。


 そうしてひどくあっさりと階下へと続く階段までたどり着いた。今回は谷間の斜面に掘られた穴の向こうにある。


 特に思うところのなかった2人はそのまま階下へと降りた。

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